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75:偽装の恋人にしては甘すぎる

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 あれ、ちょっと待てよ?
 俺とブレイン殿下のアレコレがこの世界の理に反していないってことは、俺がブレイン殿下に気に入られたのにも、ちゃんと理由があったってことだよな……?
 それで言うのなら『必然』となる部分だ。

 前に俺は『美食に慣れた殿上人ゆえの、気まぐれの悪食』と評したあの晩のことだって、気の迷いなら、きっとそのときかぎりで終わっていたと思う。
 なんなら口止めをして、なかったことにしたっていいはずなのに……。

 だって俺たちの間には、それができるだけの厳然たる身分差があるんだから。

 でもこうして、演技のためかもしれないけれど、国王夫妻もいらっしゃるような場にも連れてきてもらえたというのは、ひょっとしてわりと本気で気に入られてたりするんだろうか?
 ……なんて、都合のいいようにかんがえてしまいそうになる。

 だって、そんなの、あり得ないだろ!?
 ブレイン殿下が、俺のことを好きだなんて……!
 そうだよ、隠し攻略キャラのブレイン殿下が、俺みたいなモブを好きになるなんてことこそ、あり得ないハズ……。
 そう思うのに、なんだか急に気はずかしくなってくる。

 うぅっ、ほっぺたが熱い。
 ていうか、めちゃくちゃうれしいって感じてるクセに!
 なかなかすなおになれない自分に、もどかしささえおぼえる。

「うん?どうしたんだいハニー、急に照れはじめて。そんな奥ゆかしいキミもかわいいよ」
「そ、そういうことをはずかしげもなくおっしゃるからです!」
 手を取られて、指先に音を立ててキスされた。

 あぁもう、やることがいちいちカッコよすぎる!!
 毎回そんなことをされるたびに、俺のなかの乙女成分がキュンキュンと反応してしまうだろ!

「だって、照れるキミの反応がかわいいのだから、仕方ないだろう?」
「だからどうして、そういうことを平然と口になさるんですか?!言われるほうは、心臓がもたないんですってば!」
 本当に勘弁してもらいたい。

 もう、人前でというのでもはずかしいのに、よりによって国王夫妻に宰相に王太子殿下と、国内の偉い人たちが一堂に会しているこの場でそんなことされてみろ!
 まちがいなく、はずかしさは臨界突破するから!!

 前にも思ったけれど、美とは力だ。
 ブレイン殿下みたいな美形がそこにいるだけで、周囲への影響力はとんでもないことになる。
 万が一にも俺が『死因:ときめき死』とかになったら、ダサすぎんだろうが!!

「だいたい、ブレイン殿下はすぐに俺のこと『かわいい』とおっしゃいますけど、パレルモ様ならともかく、この外見のどこがかわいいんですか?!」
 なかばヤケクソ気味にたずねれば、目の前の美しい顔は、さらに輝く笑みを浮かべた。

「そういうところだよ?私のひとことに、そんなに顔を真っ赤にして反応して……そういうところが愛おしくて、かわいらしいんじゃないか」
「~~~~~っ!!」
 ダメだった、この人には一生敵いそうにない。

「んー、めずらしいものもあるもんだな。そんなにデロデロに甘いブレインの姿、はじめて見た気がするよ」
 よりによって、ハバネロ殿下にまでそんなことを言われる。

「ウフフ、そうね。この場に恋人を連れてきたのもめずらしいけれど、なにより紫を身につけさせているのは、はじめてなんじゃないかしら?」
 王妃様まで、口もとを手で隠しながら、奥ゆかしげにほほえむ。

「そんな、ますますおそれ多いんですが?!」
 一応、俺とブレイン殿下のお付き合いは、あくまでも目的が一致したための偽装でしかないハズなのに……。
 ここまでする必要なんて、本当にあるのかな?

 そりゃ、国王夫妻に宰相に王太子殿下が証人になったなら、これがウソだとはだれも思わないかもしれないけれど。
 逆に『魅了香チャーム・パフューム』を広めた犯人をつかまえたあかつきには、これがウソでしたなんて言える雰囲気なんだろうか?!って心配になってしまう。

 国の偉い人たちをだました罪とかで、むしろ俺がつかまらないかってほうが、不安になるけど。
 ……あぁ、でもゲーム本編ではメイン攻略キャラクターであるリオン殿下のルートだと、パレルモ様とともに俺も断罪エンドを迎えることになるんだっけか。

 ならば最後に俺が断罪されるのは甘んじて受け入れるとしても、ダグラス家に仕えていたせいで巻き込まれる人がいるのは、かわいそうな気はするな……。
 とっさに付き人や、今回部屋の改装でお世話になった職人さんたちの顔が浮かんだ。

 ───よし、そのときは、しっかりと彼らの助命だけはお願いしよう。

 それまで俺は、その最期のお願いくらいは聞いてやってもいいと思われるくらいには、ブレイン殿下の偽装の恋人役として、役に立てるようにがんばらなくちゃな!
 そう心に決めたところで、でもなぜか心は落ちつかなかった。

 と、そのときだった。
 それまでずっとうつむきがちに黙りこんでいたリオン殿下が、ゆっくりと顔を上げると、こちらを見てきた。

「その、すまなかったな、ダグラス……」
「とんでもない、リオン殿下にあやまっていただくなんて、おそれ多いです!」
 気まずそうなリオン殿下からあやまられ、むしろこちらが恐縮してしまう。

「だが、その……思い出してみたら、パレルモのワガママの犠牲になっていたのは、いつも貴様だっただろう?」
「……慣れていますから、大丈夫です」
 事実を口にされ、力なくほほえむ。

 それこそ、この世界でテイラーが幼かったころ、ライムホルン公爵家に待望の男児が生まれたと知ったときから、将来的にはパレルモ様に仕えることが決まっていたから。
 これはすでにもう俺にとっては、あたりまえのことになっていた。

 両親からも、そしてライムホルン公爵家からも、そう言いふくめられて育ってきただけに、あの3つ年下のイトコのワガママを聞くのは当然になっていたわけだ。
 それを今さら『理不尽だ』と言っても、しょうがない。

「っ、これからは、なにかあったら俺に言え。貴様の立場からでは、パレルモに言いにくい不満もあるだろう。あのクラスでヤツに言えるのは王子である俺だけだ!」
 そう言ってくれるリオン殿下は、なぜだろうか、わずかにほっぺたが赤く見えた。
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