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72:腹黒殿下による意趣がえし
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「───たしかに、これまでのこの子に関するウワサを知るかぎりでは、ろくに笑いもしない子だったというのは、事実かもしれないけれど」
「ほら、兄上だって知ってるじゃないか!なら、やっぱりだまされてるんだってば!」
静かに口を開くブレイン殿下に、リオン殿下がいきおいづく。
「では、逆にたずねるよ?これまでに、だれかこの子を手放しで褒めたことはあるかい?もしくは、その気づかいや心配りに、心からの感謝を述べたことは?」
「っ!」
それはさっき俺も、テイラーという笑わない子がいかにしてできたのか、思い至ったばかりのことだった。
「褒めるのも感謝も、ちゃんとパレルモがしているだろ?……うん、たぶんしてる、よな……?」
自信満々に言いきったハズのリオン殿下の声は、徐々に語尾が小さくなっていく。
きっと今、必死にその言動を思い出しているにちがいない。
「だれからも褒められず、感謝もされないとしたら、照れようもないだろう?おまえたちの前で、一度もそんな顔を見せていなくても当然じゃないか」
淡々と語るブレイン殿下は、たぶん、全部わかっているんだろう。
いくら当事者でも、コメントなんてできるわけがない!
ただひたすらに居心地が悪くて、それでいてなにも言わないのに伝わっていることがうれしくもあるとか、複雑すぎる。
「……だってパレルモは、いつもみんなに向かって『ありがとー!』『うれしい』『大好き』って、感情豊かに伝えているだろ?!」
そうこたえつつも、リオン殿下の目は泳いでいた。
「リオン、よく思い出して。おまえの言う『みんな』のなかに、本当にこの子はふくまれていたかい?」
そんな弟の姿をやさしく見守るように、ブレイン殿下は静かに問う。
そのこたえは、『否』だ───。
ひょっとしたらその『大好き』だとか、『やったー!』とよろこぶ姿を見せることが、それに代わる意味を持つのかもしれないけれど。
でも、少なくとも今日の寮の部屋を代わる一件においては、確実にだれからも感謝はされていない。
ベルからですら、『なんかごめんね?』と、首をかしげて上目づかいにあやまられただけだ。
「あ、れ……?いや、でもパレルモは今日だってみんなにやさしくて、転入してきたばかりの男爵子息にまで親切にしていたんだ!パレルモは天使のようなヤツなんだぞ!?」
一瞬首をかしげたリオン殿下は、なおも必死にパレルモ様を擁護しようとする。
その瞬間、たしかにブレイン殿下の口もとが弧を描いた。
ハッ、まさか───!?
「ダメです、リオン殿下!その話は……っ!」
「えぇい、うるさいぞダグラス!貴様の指示は受けん!」
とっさに止めようとしたけど、ムダだった。
当然のように不機嫌さを増した相手には怒鳴りかえされ、さらにはとなりのブレイン殿下からは、そっとひざの上に手を置かれた。
それこそ、まるで『黙っていろ』と言わんばかりに。
「───そう、転入してきたばかりの男爵子息にまでやさしいのは、なかなかどうしてよくできた公爵子息だね。具体的にはどういうことかな?」
必死に反論する弟に、やわらかな口調になったブレイン殿下がかさねて問うた。
「それは『この学校にきたばっかりだから、わからないこともあって不安だろうから』って、転校生を寮の部屋にまねいてやっていた」
「その『まねいた』というのは、『遊びに来い』という意味ではないね?」
にこにこと、ほほえみながらさらに質問をかさねていく。
相手を罠にかけてなお、そうと悟らせない。
さすがは『星華の刻』随一の知性の持ち主だけある、とんでもない策略家だ。
俺としては止めたいけれど、厳然たる身分差がそこに横たわっているからこそ、兄弟の会話に口をはさむことができなかった。
「あぁ、そうだ!おそれ多くも公爵家用の広めの部屋に、同室となるように取りはからってやったんだ!どうだ、相手が男爵家だろうと身分を気にしないパレルモは、心が広いだろう!」
最初こそ不安そうだったリオン殿下は、最後には、まるで自分の手柄のように誇らしげに言い放った。
……あぁ、ダメだ、よりによってそのことを口にしてしまうなんて。
それが人に知られたら、どう思われるのか、なぜ気がつかないんだろか!?
これこそが魅了の魔法に支配された証拠なんだろうけれど……。
みじんも己が失言したとは気づかない様子のリオン殿下に、ズキズキとあたままで痛んできた。
そして力なく肩を落とす俺をはげますように、ブレイン殿下の手がひざをポンポンと軽く叩いてくる。
それってつまりは、黙ってろってことなんですよね?
チラリと盗み見た相手の顔は、うっすらと口もとに笑みが刷かれている。
その笑みには、なんとも言いがたい腹黒さがにじんでいた。
「んっ?!そのパレルモくんとやらは、公爵家の子なのに、同室のお仲間もいなかったのかい?」
そこで質問をはさんできたのは、それまでのふたりのやりとりを、だまって見守っていたハバネロ王太子殿下だ。
「いえ、そこにいるダグラスが同室でした」
すなおにこたえるリオン殿下は、まだ事態を把握していないんだろう。
気がつけば国王夫妻も、そして宰相や校長、理事長までもが兄弟の話に聞き耳をたてていた。
この時点で俺はもう、気が気でなくなっていた。
「ほら、兄上だって知ってるじゃないか!なら、やっぱりだまされてるんだってば!」
静かに口を開くブレイン殿下に、リオン殿下がいきおいづく。
「では、逆にたずねるよ?これまでに、だれかこの子を手放しで褒めたことはあるかい?もしくは、その気づかいや心配りに、心からの感謝を述べたことは?」
「っ!」
それはさっき俺も、テイラーという笑わない子がいかにしてできたのか、思い至ったばかりのことだった。
「褒めるのも感謝も、ちゃんとパレルモがしているだろ?……うん、たぶんしてる、よな……?」
自信満々に言いきったハズのリオン殿下の声は、徐々に語尾が小さくなっていく。
きっと今、必死にその言動を思い出しているにちがいない。
「だれからも褒められず、感謝もされないとしたら、照れようもないだろう?おまえたちの前で、一度もそんな顔を見せていなくても当然じゃないか」
淡々と語るブレイン殿下は、たぶん、全部わかっているんだろう。
いくら当事者でも、コメントなんてできるわけがない!
ただひたすらに居心地が悪くて、それでいてなにも言わないのに伝わっていることがうれしくもあるとか、複雑すぎる。
「……だってパレルモは、いつもみんなに向かって『ありがとー!』『うれしい』『大好き』って、感情豊かに伝えているだろ?!」
そうこたえつつも、リオン殿下の目は泳いでいた。
「リオン、よく思い出して。おまえの言う『みんな』のなかに、本当にこの子はふくまれていたかい?」
そんな弟の姿をやさしく見守るように、ブレイン殿下は静かに問う。
そのこたえは、『否』だ───。
ひょっとしたらその『大好き』だとか、『やったー!』とよろこぶ姿を見せることが、それに代わる意味を持つのかもしれないけれど。
でも、少なくとも今日の寮の部屋を代わる一件においては、確実にだれからも感謝はされていない。
ベルからですら、『なんかごめんね?』と、首をかしげて上目づかいにあやまられただけだ。
「あ、れ……?いや、でもパレルモは今日だってみんなにやさしくて、転入してきたばかりの男爵子息にまで親切にしていたんだ!パレルモは天使のようなヤツなんだぞ!?」
一瞬首をかしげたリオン殿下は、なおも必死にパレルモ様を擁護しようとする。
その瞬間、たしかにブレイン殿下の口もとが弧を描いた。
ハッ、まさか───!?
「ダメです、リオン殿下!その話は……っ!」
「えぇい、うるさいぞダグラス!貴様の指示は受けん!」
とっさに止めようとしたけど、ムダだった。
当然のように不機嫌さを増した相手には怒鳴りかえされ、さらにはとなりのブレイン殿下からは、そっとひざの上に手を置かれた。
それこそ、まるで『黙っていろ』と言わんばかりに。
「───そう、転入してきたばかりの男爵子息にまでやさしいのは、なかなかどうしてよくできた公爵子息だね。具体的にはどういうことかな?」
必死に反論する弟に、やわらかな口調になったブレイン殿下がかさねて問うた。
「それは『この学校にきたばっかりだから、わからないこともあって不安だろうから』って、転校生を寮の部屋にまねいてやっていた」
「その『まねいた』というのは、『遊びに来い』という意味ではないね?」
にこにこと、ほほえみながらさらに質問をかさねていく。
相手を罠にかけてなお、そうと悟らせない。
さすがは『星華の刻』随一の知性の持ち主だけある、とんでもない策略家だ。
俺としては止めたいけれど、厳然たる身分差がそこに横たわっているからこそ、兄弟の会話に口をはさむことができなかった。
「あぁ、そうだ!おそれ多くも公爵家用の広めの部屋に、同室となるように取りはからってやったんだ!どうだ、相手が男爵家だろうと身分を気にしないパレルモは、心が広いだろう!」
最初こそ不安そうだったリオン殿下は、最後には、まるで自分の手柄のように誇らしげに言い放った。
……あぁ、ダメだ、よりによってそのことを口にしてしまうなんて。
それが人に知られたら、どう思われるのか、なぜ気がつかないんだろか!?
これこそが魅了の魔法に支配された証拠なんだろうけれど……。
みじんも己が失言したとは気づかない様子のリオン殿下に、ズキズキとあたままで痛んできた。
そして力なく肩を落とす俺をはげますように、ブレイン殿下の手がひざをポンポンと軽く叩いてくる。
それってつまりは、黙ってろってことなんですよね?
チラリと盗み見た相手の顔は、うっすらと口もとに笑みが刷かれている。
その笑みには、なんとも言いがたい腹黒さがにじんでいた。
「んっ?!そのパレルモくんとやらは、公爵家の子なのに、同室のお仲間もいなかったのかい?」
そこで質問をはさんできたのは、それまでのふたりのやりとりを、だまって見守っていたハバネロ王太子殿下だ。
「いえ、そこにいるダグラスが同室でした」
すなおにこたえるリオン殿下は、まだ事態を把握していないんだろう。
気がつけば国王夫妻も、そして宰相や校長、理事長までもが兄弟の話に聞き耳をたてていた。
この時点で俺はもう、気が気でなくなっていた。
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