上 下
70 / 188

70:気まずすぎる夕食会

しおりを挟む
 ひとり場ちがいな気がするというか、そのせいで気まずさは最高潮に達していた。
 というよりも、こんなVIPだらけの場所でリラックスできるヤツがいたら教えてほしい。

 というか、こんなそうそうたるメンバーでの夕食会だと聞いていたら、なにがあろうと辞退してたよ!
 だって、どう見ても『魅了香チャーム・パフューム』とは無関係なメンツだろうが!!

 もう気持ちのうえでは夕食を楽しむどころではなくなっていた。
 キリキリと痛む胃をそっとさすりながら、あたりさわりのないほほえみを浮かべてやりすごす。

「……ダグラス、貴様兄上と付き合っているというウワサは本当だったのか。愛らしいパレルモならばまだしも、ダグラスなんぞと付き合うとは、なんの冗談かと思っていたが」
「リオン殿下……」
 若干の嫌悪感をにじませながら向かいの席から話しかけてきたのは、ブレイン殿下の弟君にして我がクラスメイト、そしてなにより『星華せいかとき』のメイン攻略キャラクターであるリオン殿下だった。

 サラリとした短い金髪にロイヤルブルーの瞳という、『いかにも』な王子様スタイルをしている。
 しかも性格は、わかりやすく『俺様』キャラだ。
 だからこそ攻略キャラクターのなかでも、メインに据えられているんだろうけども。

 ただ、紫の長髪にバラ色の瞳というブレイン殿下とは、正真正銘の兄弟のハズなのに、顔の系統ふくめて全然似ていない。
 一応母親がちがうし、王様が金髪にバラ色の瞳という色味だから、それぞれ遺伝はしているんだと思うけど。

「っ、申し訳……」
「キミは気にする必要なんてない」
 とっさにあたまを下げてあやまろうとしたところで、顔の前に横から手が差し出されて止められた。

「でも……っ!」
 残念ながらリオン殿下はこの世界の改変の影響を受けているのかもしれないけれど、それを差し引いても、俺みたいなモブがブレイン殿下の恋人というのには無理があるとは思う。

「愚弟がなにを言おうと知ったことではない。まったく、あんな魔法ごときにやられるような惰弱な輩が弟だなんてはずかしいよ」
 代わりに、息を吸うように自然と悪口が出てくるブレイン殿下に、どうしていいのかわからなくなる。

 ただ、この兄弟の仲があまりよくないのだろうということだけは、伝わったけど。
 それでも兄弟ゲンカの理由のひとつが自分とか、胃が痛いにもほどがあるだろ!

「ふぅん、今までの子とは系統がちがうようだけど、ブレインには特別かわいく見えているんだろう?」
 悪くなりかけた空気を破ったのは、ブレイン殿下のとなりに座るハバネロ王太子殿下だ。

 こちらは真っ赤な髪にバラ色の瞳と、王様にそっくりな男前な顔で、やはり王族ならではの育ちが良さそうなロイヤルオーラが全開になっている。
 つまりは、まぶしいことに変わりはなかった。

「えぇ、それはもう!私の前でだけ咲く花というのも、なかなかどうして愛おしいものですよ」
「そうか……たしかに慎ましやかなれど、己の前でだけ色づく花というのは、たまらなく愛でたいものではあるな!」
 こちらの兄弟仲は、悪くはないみたいだけど……。

 でもその話題、やめてもらえませんかね?!
 この世界のロイヤルな方々ならではの比喩表現でごまかされがちだけど、要は『自分に抱かれるときだけ乱れる相手がたまらん』って意味の、言ってしまえばただの猥談だからな!?

 しかも、さりげなく奥に座る王様まで興味津々な様子でこっちを見てくるし、居たたまれないなんてモンじゃない!

 さすがに本人の品のよさのおかげで、視線にまじる、いやらしさみたいなものはないかもしれないけども。
 だからといってネタにされるのも、気まずいことだった。

「ところで、ダグラスというと、?」
 そんな話を振ってきたのは、宰相だ。
「えぇそうです。あの悪名高きダグラス伯爵家ですよ」
 それにこたえたのは、俺じゃなくてリオン殿下だったけれど。

 まぁ実家がクソなのは事実ではあるんだけど、それにしても敵意を隠さないというか、トゲトゲしいよなぁ……。
 俺、なんかリオン殿下にしたっけ??

 ただでさえ場ちがい感満載で居心地が悪いというのに、こうもあからさまに敵意を向けられるとか、本気で今すぐ帰りたい。
 ため息をつきたい気持ちを、ぐっとこらえる。

「ふぅむ、あのダグラスの家のものにしては、いささか雰囲気が異なるようだが……」
「よくお気づきですね、さすがは父上からも信頼が厚い宰相だけある」
 今度はブレイン殿下が割って入ってくる。

 この兄弟、俺にしゃべらせる気ないだろ。
 身分が下のものからは話しかけにくいから、こうして問われたときにしかこたえられないんだけど。
 ……まぁ、別に話さなくてもかまわないけどさ。

「この子はあのダグラス伯爵家の子だけに賢いのは言うまでもないですが、性格は非常にすなおだし、妙に律儀なところもあって、たいそうかわいらしいんですよ!」
「あの、ブレイン殿下、あまり話を盛るのは……」
 ダメだろうとツッコミを入れたところで、ますます相手の顔は、まばゆいばかりに笑みこぼれていく。

「それに加えて、この謙虚さ!決して不満を口にしない我慢強さもある一方で、一見おとなしそうに見えますが、いざというときには私の頬を張ることもできる気丈さもかねそなえていますからね!どうです、最高でしょう?!」
 まさに立て板に水のごとく、ブレイン殿下は俺のことを誉めちぎる。

「まぁ、そんな子だからこそ、私が甘やかしてあげたいと思うんですけどね?」
 やわらかな視線のままにこちらを見て、ふわりとほほえむ。
 こんなの、ズルいだろ……!!

「~~~~~~っ!!」
 ごめん、無理……!
 勘弁してくれよ……!!

 もはやなにも言えない状態で、照れるしかない。
 本当はこれだってすべてが演技なのかもしれないけれど、それでも俺にとっては十分はずかしかったから、どうしたって顔は熱くなる。
 結局のところ、ただ気まずさが増しただけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@black_illust) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

処理中です...