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31:改変者の捜索は『難易度:鬼レベル』

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 総ゆるふわキャラ化した同級生たちにドン引きしていたところに、担任の教師が入ってきて授業がはじまる。
 乙女ゲームの世界の勉強なんてどんなものかと思うだろうけど、数学とか、わりとガチで高校生レベルの教育内容だし、なんならそれに加えて商業簿記に近い内容のものもふくまれていた。

 まぁ、貴族学校に通う生徒なら、それぞれ将来的には領地経営に近いことをする可能性が高いもんな。
 とりあえず勉強しといても、邪魔にはならないだろうっていうことなんだろうなぁ。
 国に仕える役人になるにしても、税収計算だとかもできないと目端の利くヤツにチョロまかされかねないし。

 歴史とか、この世界にしかない授業は、前世のスタッフ時代に会社の皆でうなりながら決めたヤツを思い出せばいけたし、魔法理論の授業とかはむしろ現代日本の化学とか物理に近かったし、まぁなんとかついていけた。
 ───ただ、よりによってこの日、体育の授業があったのは想定外だった。

 待ってくれ、俺今日はムリだから!!
 着替えるにしたって人前で脱げる状態じゃないし、なにより歩くのですらやっとの状態で、走るのもボールを追いかけるのもできっこない。

「あ、あの……少々具合が悪いのですが……」
「なにぃ!?具合が悪いだなんて、たるんで………あー、うん、そうだな。仕方ない、今日は見学しときなさい」
「スミマセン、ありがとうございます」
 ふぅ、助かった。

 意を決して教師に申し出てみれば、俺の少し大きめな制服とそのうえに着た紫のアーガイル柄のベストを見た教師はナニかを察してくれたのか、若干目を泳がせながら見学を許可してくれたけど。
 いや、でもマジでムリだったからな……。





 男女別になって校庭ではじまる体育の授業を、制服のまま、ひとりはしにあるベンチに腰かけてボンヤリとながめていれば、どうしても気になるのは改変者のことだった。
 この世界に呼ばれる前、あの宇宙に似た管理空間で、俺は『星華せいかとき』の世界を司る女神様に会った。

 そこでお願いされたのは、この世界に侵食して一部の権能を奪っていった二次創作の世界の腐女子の魔の手から、この世界を守ってほしいという内容で。
 だから俺にとっての最終目標は、改変者にこの世界から奪ったそれを返納させて、元どおりにすることだ。

 そこは、なにがあろうとブレることはないと思う。

 じゃあそうなると次の問題は、この世界に侵食をしてきたヤツは、今どこにいるのか?ってことになる。
 ふつうにかんがえたら、改変を行うなら、あの宇宙に似た管理空間とやらにいるはずだけど……。

 でもあの残念な女神様に呼ばれたときには、改変者の姿は見えなかった。
 それにそこにいたなら、あんな依頼ができるとも思えないし……。
 ってことは、今俺がこうしてここへと送り込まれたことも加味したら、その彼女もまた、こっちに来ているとかんがえてもいいのかもしれない。

 ───だったら、俺にできることは?
 その原因となる『彼女』とやらを見つけて、説得すればいいんじゃないだろうか。
 うん、そうだ!

 でも、それにはひとつだけ大きな問題がある。
 ───そう、俺は彼女がだれの姿になっているのかを知らないということだった。
 それこそ、犯人は『彼女』だと女神様が言っていたから、元はまちがいなく女性だとしても、この世界でも女性とはかぎらないわけだ。

 なんだよそれ、難易度高すぎないか!?
 鬼だろ、鬼。
 幸いにして、『彼女』の正体自体には心あたりがあるけれど。

 でも、ただのシナリオライターのひとりだった俺が、完全にモブキャラながらも原作世界に元からいたテイラーとして存在している以上、相手もまた、どこにまぎれこんでいるのか知れなかった。
 いったい彼女は、どういうタイプのオタクなんだ……?

 彼女自身がパレルモ推しなのは、この改変の仕方からしてまちがいないとして、はたして自身はどの立ち位置を望んだんだろう?
 本人に成り代わって愛されたいのか、それともヒロインか攻略キャラクターになってパレルモとくっつきたいのか、はたまたそばで毎日見守りたいのか、場合によってはパレルモに手を出すモブになりたいのか。

 パッと思いつくかぎりでも、パレルモ様を愛でたいファンがなりたがるであろう立ち位置は、いくつもある。
 そもそもそれで言ったら、テイラーなんかもそばで見守るには便利なポストだもんな?

 ───って、マズイ、いきなり詰んだぞ?!
 選択肢多すぎるだろ!
 このなかから特定するとか、無理がないか??

 おそらく俺にとってのアドバンテージは、その彼女には俺がこの世界に『テイラー』となって改変を阻止しに来たってことを、まだ知られていないってことだけだ。
 なら、いくらその正体に心あたりがあろうとも、うかつに彼女の名前を出して聞き込みをしてまわるわけにもいかないよな……。

 そんなふうに、悶々とかんがえ込んでいたせいで、気がつくのが遅れた。
「ヤベェ、そっち行ったぞー!」
「ん?───っ!?」
 遠くから聞こえてきた声を認識したときにはもう、眼前にボールが迫っていた。

 そう、男女別の授業で女子はバレーボール、男子はサッカーのようなものをやっていたんだ。
 つまり、どちらもそれなりの大きさのボールを使うわけで……。

 バンッ!!
 よけることもできないままに、おでこにあたる強烈な衝撃に脳みそがゆれる。
 痛てぇ!!
 そう思ったときには、もう遅かった。

 一瞬にして暗くなっていく視界に、まだ少しでもうえにズレていただけマシだったかと、そんなことを思う。
 いや、マジで顔面でボールを受け止めるとか、鼻痛すぎて死ねるからな?!

 あぁ、ヤバい、力が抜けていく……。
 声すら出せないままに、サァーッと血の気が引いていく感覚とともに、意識は闇のなかへと沈んでいったのだった。
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