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*14:モブのあつかいがヒドすぎる*

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・たいした描写はないつもりですが、念のため注意喚起の*つけときます。
・苦手な雰囲気だと感じた方は、すばやく自力回避願います。





 最悪の展開だ。
 仲悪そうなセラーノとブレイン殿下に巻き込まれて連れてこられたのは、学生寮に隣接する校舎のなかにある保健室だった。

 周囲は静まりかえり、廊下の照明も最低限のものにしぼられているせいで、正直ゾッとしてしまう。
 なんだかオバケでも出そうというか……。

「はい、それじゃあその子はここにおろしてアゲてねー」
「───ったく、人づかい荒いですよね、デルソル先生は!」
「いいじゃないの、僕と君との仲デショ~♪」

 ふたりのやりとりは、そこだけ聞いていれば心やすい仲なのかと思えなくもないけれど、正直、今の俺にとっては最悪の組み合わせだった。
 だって、こんなに体調がよろしくないことになっているときに、ふたりともが気をつかわなきゃいけないゲームの隠し攻略キャラクターとか、ツラすぎるだろ!

「っ!」
 てっきり雑に放り出されるかと思ったのに、思った以上にていねいにおろされたのは、診察用の長椅子の上だった。
 けれど、やっぱりその程度の衝撃でさえも、息がつまるほどに強烈な刺激に感じられる。

「ふーん、君にしてはめずらしく地味な子だネェ?」
 そんな俺の顔を目の前に立って無遠慮にながめるセラーノが、失礼なことを口にする。
 悪かったな、俺がいかにもなモブ顔をしてて!

「あなたの大好きな天使ちゃんを守るために、代わりに犠牲にした子ですよ。曲がりなりにも伯爵家のご令息ですからね、責任はとらねばならないでしょう?まぁ、それ以外にも興味がなくはないんですけども……」
 悪かったな、曲がりなり程度の貴族感しかなくて!

 ……だったらモブらしく、放置してくれて良かったのに。
 いや、でもあの部屋に放置されるのは危険なんだっけか?

「へーそっか、マイスイートエンジェル♡の代わりになってくれた子なのカァ……なら、たっぷりお礼代わりに診察してあげナイとね~!」
「ヒッ……!」
 するりとほっぺたをなでられ、そのままの流れでふたたびシャツの前をはだけさせられた。

「だ、大丈夫ですから!ちょっとまだうまく動けないだけで、放置しとけば、どうにかなりますって!」
 ようやくふつうにしゃべれるようになってきたのにいきおいづいて、必死に相手を止める。

 ……といっても、腕のほうはかろうじて動くくらいだから、シャツの前をかきあわせるので精一杯だったけど。

「うん、そういうのは医者が診断することダカラね、素人は少し黙ってようカ?」
「~~っん!」
 両手をほっぺたにそえられて上を向かされたと思ったら、指先でくちびるをなぞるようにして、ついでのようにそのまま口のなかへと突っ込まれた。

「っ、ひゃにすんっ……!?」
 いきなりなにするんだよ!?
 そう言いたかったのに、口のなかへと突っ込まれた指先がこちらの舌をつまんできたせいで、うまくしゃべれなくなる。

「んー、こっちには特にヤバい兆候は見られナイかな?」
「ンぐっ!」
 そう言いながらも、セラーノは遠慮なしに舌を引き出したり、口のなかで指を動かしてくる。
 バカヤロー、苦しいだろ?!

「……ブレインくん、それでこの子は結局なんの薬物投与されたのカナ?」
「どうせあなたのことですから、それくらい知ってるくせに」
「ンフフ~、教えてくれナイなら、この子に直接聞かなきゃねぇ?」
 ……なんだか嫌な展開になってきた気がする。

「ん~~~っ!!」
 つーか、そもそもすなおにこたえたくとも、こんなふうに舌をつままれてたらしゃべれるわけないし!
 早くその指をどけてくれと、相手を必死ににらみつける。

「おやマァ、先生にたいして反抗的な態度だなぁ……マイスイートエンジェル♡とはちがって、カワイくないネ、君」
 ふっざけんなよ、この変態医者が!!
 口のなかに突っ込まれた指でまさぐられるとか、そのあまりの苦しさに生理的な涙が浮かぶ。

「んっ、ふ……ぁっ……」
 上あごをなぞられたときは、どうにもくすぐったくて鼻にかかったような声が出てしまったけど、これはセーフだと思いたい。
 ───だってこれは、『魅了香チャーム・パフューム』のせいなんだから。

「ふぅん?なかなかどうして、地味な子ダと思ってたケド……こんなことされて勃たせてるなんて、とんだ変態サンじゃナイか!」
「んぅっ!?」
 両手で己のシャツを必死に合わせていたせいで油断していたら突然、ゆるやかに反応しかけていたをもう片方の手でわしづかまれた。

「んんっ!ん~~~っ!!」
 やめろ、バカ!
 そんなとこ揉むんじゃねぇ!
 必死にその手をつかんで止めようとしたところで、やっぱりまだ手に力が入らなかった。

「ハハッ、硬くなってキタね、こんなんでも感じるンだ?」
 口のなかに指を突っ込まれたまま、好き勝手にいじられるのが息苦しくて。
 閉じられないせいで、口はしから飲み込めなかった唾液がこぼれていく。

 ただでさえ、怪しい薬のせいで感度が無理やりに高められているような感じだったのに、さらに無理やりに揉まれて否応なしに高められてしまう。
 それがすごい、くやしかった。

 キリキリと胸が締めつけられる。
 そのくやしさは涙となって、目尻からこぼれていく。

 ───なぁ、俺がいったいなにしたんだよ?
 こんなふうに適当な感じにイジられて、バカにされて。
 モブ相手なら、なにをしてもいいなんて思ってるのかよ!?

 さっきも、ブレイン殿下に言われた『キミならいいか』というセリフもそうだ。
 俺の人権なんて、まるで無視だ。
 身分差の明確なこの世界線なら、しょせん伯爵家の次男にすぎない俺をどうしようと、決しておかしなことではないのかもしれないけれど……。

 でも俺にとって、なによりもいちばんくやしかったのが、それをしてるのが───『星華せいかとき』の主要キャラクターたちだっていうことだった。
 俺たちゲームの開発スタッフにとって、本当に大切な子どものような存在が、そんなことをするヤツにゆがめられている。

 たったひとりの溺愛されるキャラクターを持ち上げるためだけに、倫理観すら持ち合わせないロクでもないキャラクターへと成り果てているという、この現実。
 それがなにより、心が痛くなる原因となっていた。
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