歩美ちゃんは勝ちたい

秋谷イル

文字の大きさ
上 下
17 / 106
中学生編

娘vsお風呂

しおりを挟む
 ちっちゃい釣り竿がちっちゃい手で動かされ、プラプラ揺れる釣り糸の先端には釣り針ならぬマグネット。水面に漂うプラスチックの魚達も口に金属がついていて、やがて一匹のそれと釣り糸の先の磁石がくっついた。
「つれた!」
「上手だねー、友樹」
「つぎ、友美」
「はい」
 弟の手から釣り竿を受け取り、友美もチャレンジ。こちらはあっという間に釣り上げてしまった。
「かんたんすぎる」
「そっか、友美にはもう簡単すぎるかー。あ、それなら」
 思いついた私は体を揺らし、水面に波を作る。
「これならどうだー?」
「やってみる!」
「ともきのばんだよ!」
「おねえちゃんが一回やったら、つぎ友樹が二回」
「……」
 どういうことかと考えフリーズしてしまう友樹。その間に友美は釣り糸を垂らす。波のせいで魚達がさっきより激しく動いていて流石に苦戦気味。
「むずかしい」
「ふふふ、これで釣れたら友美は天才釣り師だね」
「あ、つれた」
「天才だ」



「ほら、タオルをこうすると……クラゲみたいでしょ」
「ほんとだ、クラゲさん」
「くらげさん」
「さらにクラゲさんをお湯に沈めると~?」
「あわが出てきた!」
「こーら」
「コーラではないかなあ。でも、ちょっと美味しそうに見えるよね」



「よーし、それじゃあ肩まで浸かって十数えようね」
「うん」
 たくさん遊んだ友美と友樹に仕上げとして体を温めさせる。夏場だからそんなに温まる必要無いとも思うけど、風邪をひかせたくないからね。
「ワン・ツー・スリー」
 相変わらず英語で数える友美。おおかた美樹ねえの仕業だと思っていたら、実は友にいの教えだった。

『小さいうちから英語に慣れておいた方が、将来覚えやすいかなあと思って』

 なるほど言語学者の友にいらしい。家にいる時もたまに美樹ねえと英会話して聞かせているそうだ。
(いいなあ、英語のできる夫婦……かっこいい)
 私も勉強してるけど、まだ会話できるほどじゃないんだよね。
「テーン」
「よーし、それじゃあ上がろう」
 友美は自力で浴槽の外へ。友樹はまだ小さいので抱き上げて一緒に。
「友樹えらいね、ちゃんと十数えるまで我慢できた」
「がんばった」
「頑張ったね」
 かわいい。
 脱衣場まで戻って、バスタオルでまず二人を拭く。
「わしゃわしゃ~」
「うわー!」
「あー!」
「あははは、よーし、それじゃあ行くのだ」
「ママー!」
「ぱーぱー」
 裸で駆け出すちびっ子達。友美はそろそろここで服を着させた方がいいかな?
 私も戸を閉め直し、持って来た着替えを着用。じいちゃん達と暮らしてた頃はともかく、今は父さんも友にいもいるし、流石に下着姿で出ていったりはしない。
「あがったよ~」
 パジャマ姿で居間まで戻ると、キッズの着替えを手伝っていた大人達が振り返る。
「次、誰入る?」
「俺は最後で構わん」
「兄さんいつもそれね」
「美樹ちゃん入る?」
「そうね、たまには一緒に入りましょうか」
「先に入ったらって意味だよ!?」
 美樹ねえ達がいると、いつもより賑やかだなあ。
「あゆゆ、かるたしよー」
 早くも次の遊びに走る友美。元気だねほんと。
「先に髪を乾かさなきゃ駄目だよ、ほらおいで」
 着せ替えられた友美と友樹を連れ、今度は洗面所に。ドライヤーで二人の髪を乾かしてやる。
「あうー」
「友樹、かみばさばさ」
「はい、クシ」
 私がクシを手渡すと、友美はまず友樹の髪から梳いてあげた。たまに意地悪な時もあるけど基本的には良いお姉ちゃん。
 次に友美の髪を梳いてあげていたら、今度は私の髪を整えたいと言ってきた。
「すわって!」
「髪は乾いたし、居間でやろうか」
 というわけで、ちゃぶ台の前に座って友美のなすがままになる。
「みつあみしたげる」
「ありがとー」
 髪を梳くだけだったはずがやってるうちに面白くなってきたらしい。三編みを作ったり、ゴムで縛ったりし始めた。
「あゆゆのかみ、ママのとちがうね」
「うらやましいわ~、サラッサラのストレート」
「お前はお袋に似たからな」
 美樹ねえの髪はうねってるんだよね。あれ、父さん達のお母さん似なのか。
「父さんのそのツンツンヘアーは?」
「親父似だ」
「へ~」
 そういえば写真で見たことあったな。父さんをもうちょっと老けさせて、さらに一回り大きくした上でヒゲを生やした感じの人だった。つまり九割くらい熊。
 隣に立ってた美樹ねえ似の美人がおばあちゃんだったね。
「正道もあなた似ですね、間違い無く」
 すでにツンツンヘアーになりつつある弟。将来父さんみたくでっかくなるのかな? 弟の方が背が高くなるとか、ちょっと悔しいかも。
「柔もこれ、麻由美ちゃんてか母さんの遺伝よね」
「そのようだな」
 ママは私と同じまっすぐな髪。でも柔は美樹ねえっぽい髪質。
「しかし、目許は麻由美に良く似ておる」
「たしかに」
「つまりママと美樹ねえを足して割った感じに育つのかな?」
「どうかしらね。まだ赤ちゃんだもの、これからどんどん変わっていくわよ」
 そか、まだまだ先はわからないんだ。
「楽しみだなあ」
 大きくなったら今日みたいに一緒に海で遊んだり、お風呂に入ったりしたい。
「早く大きくなれよ」
「そう早く成長されたら、親の楽しみが減る」

 せっかちな 娘の期待 背負う双子

「私、そんなにせっかちじゃないでしょ」
「いや」
「兄さんとどっこいどっこいよ」
「俺もなのか……」
「自覚が無い」
「できた!」

 ──この夜、私は友美にせがまれ力作だという芸術的な髪型のまま眠ることになった。
 翌日、癖がついちゃってて美樹ねえに爆笑された。さおちゃんに写真を送ったらもっとウケた。
『パンク!』
『アートだよ!』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

処理中です...