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三章【限りなき獣】
青天の霹靂
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ズウラが自分に? 知った瞬間、ニャーンの頭は真っ白になった。
仮に『愛している』と言われたなら友愛と勘違いしたかもしれない。けれど『恋をしている』とはっきり言われたため、流石にそうなることはなかった。
それでも頭上には疑問符が飛び交う。
(なんで?)
ピンと来ない。異性に女性として好かれた経験など一度も無かった。実際のところそうでもないのだが彼女自身は自覚したことが無い。幼少期の様々な経験から自身の価値を過度に低く見積ってしまうのが彼女の最大の欠点。
でも今回は明確に恋愛感情を示された。本人でなく妹の口からだが、だからこそ自信の無い彼女にとって直接言われるよりすんなり理解できた。スワレは悪質な冗談を言う人間ではないし本当のことなのだろうと。
事実を飲み込んだ途端、急に今までの色々なことが恥ずかしくなり始める。顔を真っ赤にしつつ言葉にならない言葉を絞り出すばかり。
「え、ええと……ええと……」
スワレの顔も見ていられない。あまり似てない双子だと思っていたのに、それでもやはりズウラと似た面影がある。だから視線を外して自分の足下をじっと見つめた。
「ええと……」
どうしても信じられない。スワレは本心から言っているのだと思うが、だとしても勘違いではと疑ってしまう。
(本当に私なんかを好きになったの? ズウラさんみたいな立派な人が?)
そんなことありえない。なんたって自分はポンコツなのだから。こんな女が嫁いでも迷惑ばかりかけてしまうに決まっている。
なのにスワレは顔を近づけ、さらにグイグイ畳みかけて来る。
「どうでしょう、うちの兄では駄目ですか? たしかに少々頼りないところがあるし子供っぽさも残っていますが、少なくとも悪人ではありません。顔もさほど悪くないと思います。面倒見の良い性格なのでニャーンさんとは精神面でも相性が良いかと」
「そっそっ、そうなんですか?」
「妹の私が言うのだから間違いありません。しかも兄と結婚したら必然的に私とも姉妹になれるんですよ」
「あっ」
それは素直に魅力的だと思った。スワレとは今でも良い友達だし、より親密な家族になることになんの抵抗も感じない。
でも『家族になる』が『夫婦になる』をも意味する場合、やはり簡単には頷けない。
スワレの猛攻は続く。
「どうか真剣に考えてみてください。私もニャーンさんのような義姉なら大歓迎です」
押しが強い。この強引さはプラスタに通ずるものがある。もしかしたら自分は彼女達のような人に好かれやすいのだろうか?
ニャーンは一旦そんな友人を手で押し返し、やんわり回答を拒絶した。
「あっあっあのっ、嬉しいんですけど、ご本人の口から聞かないことには……」
「まあ、それはそうですね」
意外とあっさり引き下がるスワレ。天井を見上げてぽつりと呟く。
「ただ、兄は奥手すぎてじれったかったもので。とりあえずあいつが好意を持っていることだけは覚えておいてください」
「はい……」
その事実はしっかり脳に刻み込まれた。改めて赤面するニャーン。そして戸惑う。
(私、どうしたらいいんだろう……?)
そもそも彼女自身、今まで他人に恋愛感情を抱いたことが無い。だからどう答えるべきかが全くわからなかった。
(――うーん、芽はありそうだけど難しいなこれは。ニャーンさんも色恋とは無縁の人生だったんだろうし。清楚な尼さんだものな)
戸惑うニャーンの横で密かにため息をつくスワレ。兄の気持ちを伝えることであわよくば一気に進展させられないかと目論んだのだが、やはりそう簡単にはいかない。
さらに畳みかけるべき? いや、あまりゴリ押しが過ぎると逆効果だろう。少なくとも意識してもらえるようになったのは確実だし今はこれで良しとしておく。
(周りが焚きつけるのは大事だと思うがな。でないと一向に先へ進まんぞ、この二人)
前回ニャーンと別れた時には彼女の邪魔になりたくないという兄の意向を尊重した。けれど今は事情が変わっている。
ニャーンの能力はアイムの予想すら大きく上回り、対怪塵において無敵と言える力だと判明した。怪塵どころか怪物まで我が物とできるのだから、もはや彼女にとって怪塵とその集積体は恐れるに足らない。
ただし無敵ではない。肉体はあくまで常人のそれなのだ。しかもアイムですら赤い凶星を相手に完全に守り切ることは出来なかった。その二つの事実が第六大陸での戦いで明らかになった。
現状、人類が最優先で守るべき対象はニャーン・アクラタカで間違いない。一人一人が身を盾にしてでも守り抜かねば宇宙の免疫システムという脅威を退け、未来を掴み取ることは叶わない。
ズウラとニャーンの結婚を望むのは、それが主な理由。この可憐な英雄との縁をより固く繋いでおきたい。身内になれば今までより気軽に頼ってもらえる。今回のように傷付き疲れた時には遠慮なく帰って来て休んでくれればいい。帰る場所のある人間は無い者より強くなるはずだ。
もちろん当人の意思は尊重する。仮にズウラとの結婚を断ったとしても身内扱いはさせてもらうつもり。自分達はなんにせよ彼女の力になりたいだけ。そのついでに兄の初恋が実るなら、それにこしたことはないが。
大切な人達を喪ったニャーンにとっても新たな家族を持つことは悪くないと思うのだ。少し拙速すぎる気はするが、この星にあとどれだけ猶予が残されているかわからない以上、仕方が無い。
(それに、このままではどのみちお先真っ暗だ)
親の世代が怪物との戦いで全滅したためテアドラスには四人しか若者が残っていない。自分達と幼い男女が一組だけ。しかも幼い方は互いのことを憎からず思っている。あぶれた二人はよりにもよって兄妹。倫理的に問題があるし彼女も兄も互いをそんな目では見られない。
これでは災厄を生き延びたとしてもどのみち先細る。外から移住者を受け入れることはそういう意味でも急務なのだ。皆、彼女には大いに感謝してるし信用もしている。純粋に好きでもある。誰も反対はしない。
スワレは頭上を見上げ、双子の兄に向かって念じた。
(皆で応援するからきっちり射止めろよ。こんなに素晴らしい人を逃す手は無いぞ兄)
「うううっ、どうしたら……」
隣のニャーンはまだ悩んでいる。病み上がりに悪いことをしたかなと苦笑したところへ二人分の明るい声がかかった。
「あっ、姉ちゃんたちだ!」
「ニャーンさん、もう怪我は大丈夫なの?」
「ルッパ、ニッチェル」
七歳の少年ルッパと八歳の少女ニッチェル。テアドラスに二人しかいない子供が駆け寄って来たためスワレとニャーンは素早く気持ちを切り替えた。年下の子への対応は修道院育ちのニャーンも慣れたものである。
「こんにちは、怪我はほとんど治ったよ。毎日お見舞いに来てくれてありがとう」
「今日もこれから行こうとしてたんだ」
「これ、おみやげ」
そう言って袋を差し出すニッチェル。ありがとうと言って受け取り、開いてみたニャーンは目も大きく見開いた。
「キ、キラキラしてる……まさか、これ……」
「ははっ、集めたな」
覗き込んで笑うスワレ。中身はルビーにダイヤ、サファイアなど色とりどりの宝石。しかも大粒。外界の人間が驚くのも無理は無い。
「ここでは珍しくないんですよ、そのへんを掘ったらすぐ出てきます。アイム様が言うには一部の火山地帯では宝石が多く産出するのだとか」
「そうなんですか……」
「もらってあげてください。本当にいくらでも出てきますし、外の世界では『お金』というものに換えて色々なものと交換できるのでしょう?」
アイムも時々持って行って換金している。その礼として薬や布を買って来てくれたりするものの、大抵の物は村内で自給自足できているので実のところ必要無い。厚意はありがたいので受け取っているけれど。
「外の世界の女の人は、こういうキラキラした石が好きだってばあちゃんが言ってた」
「だから二人で集めて来たんだ。ニャーン姉ちゃんにあげるよ」
「あ、ありがとう……」
彼等よりは正しく外界での価値を知るニャーンは引きつった笑みを浮かべた。本当にこんな高価な贈り物をもらってしまっていいものか? でも宝石より眩しい笑顔で純粋な好意を向けてくれる子供達をガッカリさせたくもない。
結局、受け取るべきだと結論を下す。
「大切に取っておくね」
「おう!」
「やったねルッパ!」
嬉しそうに手を叩き合うルッパとニッチェル。そんな幼い二人をニャーンとスワレも微笑ましく見つめる。
――地下空間にもわずかながら風は吹く。下から昇って来る熱とこの空間で冷やされた空気とがぶつかり合い、温度差で気流が生じるからだ。その風がシイビッタスの花畑をそよがせた。農作業中の老人達の汗で濡れた頬も優しく撫でる。
昼に近い時間なので、それぞれの家の中では食事の支度が始まっていた。食欲を刺激する香りもそよ風に乗ってここまで運ばれて来る。
テアドラスでは時間の流れがゆったりとしている。火山の下にあり昼夜問わず溶岩の放つ輝きに照らされる神秘的な空間。危険な場所に存在しながら実際には地上のどの場所よりも安全。
かつてこの平和が破られたことは二回しかない。長い時間をかけ少しずつ内部に侵入した怪塵が怪物化し多くの命を奪った百七十年前の惨劇。そしてスワレやズウラ、ルッパとニッチェルの親の世代が村を守り抜き、その代償として命を落とした四年前の悲劇。
だからこれは三度目。新たな脅威の襲来。
「何者だ!」
突然、背後に振り返るスワレ。するとそこには男が一人いつの間にか立っている。服装は囚人服の上に拘束具。
「気付かれた。驚いたなあ、思ったよりやるじゃないか。解剖して調べてもいいかい?」
そう言って彼はニタリと不気味な笑みを浮かべた。
仮に『愛している』と言われたなら友愛と勘違いしたかもしれない。けれど『恋をしている』とはっきり言われたため、流石にそうなることはなかった。
それでも頭上には疑問符が飛び交う。
(なんで?)
ピンと来ない。異性に女性として好かれた経験など一度も無かった。実際のところそうでもないのだが彼女自身は自覚したことが無い。幼少期の様々な経験から自身の価値を過度に低く見積ってしまうのが彼女の最大の欠点。
でも今回は明確に恋愛感情を示された。本人でなく妹の口からだが、だからこそ自信の無い彼女にとって直接言われるよりすんなり理解できた。スワレは悪質な冗談を言う人間ではないし本当のことなのだろうと。
事実を飲み込んだ途端、急に今までの色々なことが恥ずかしくなり始める。顔を真っ赤にしつつ言葉にならない言葉を絞り出すばかり。
「え、ええと……ええと……」
スワレの顔も見ていられない。あまり似てない双子だと思っていたのに、それでもやはりズウラと似た面影がある。だから視線を外して自分の足下をじっと見つめた。
「ええと……」
どうしても信じられない。スワレは本心から言っているのだと思うが、だとしても勘違いではと疑ってしまう。
(本当に私なんかを好きになったの? ズウラさんみたいな立派な人が?)
そんなことありえない。なんたって自分はポンコツなのだから。こんな女が嫁いでも迷惑ばかりかけてしまうに決まっている。
なのにスワレは顔を近づけ、さらにグイグイ畳みかけて来る。
「どうでしょう、うちの兄では駄目ですか? たしかに少々頼りないところがあるし子供っぽさも残っていますが、少なくとも悪人ではありません。顔もさほど悪くないと思います。面倒見の良い性格なのでニャーンさんとは精神面でも相性が良いかと」
「そっそっ、そうなんですか?」
「妹の私が言うのだから間違いありません。しかも兄と結婚したら必然的に私とも姉妹になれるんですよ」
「あっ」
それは素直に魅力的だと思った。スワレとは今でも良い友達だし、より親密な家族になることになんの抵抗も感じない。
でも『家族になる』が『夫婦になる』をも意味する場合、やはり簡単には頷けない。
スワレの猛攻は続く。
「どうか真剣に考えてみてください。私もニャーンさんのような義姉なら大歓迎です」
押しが強い。この強引さはプラスタに通ずるものがある。もしかしたら自分は彼女達のような人に好かれやすいのだろうか?
ニャーンは一旦そんな友人を手で押し返し、やんわり回答を拒絶した。
「あっあっあのっ、嬉しいんですけど、ご本人の口から聞かないことには……」
「まあ、それはそうですね」
意外とあっさり引き下がるスワレ。天井を見上げてぽつりと呟く。
「ただ、兄は奥手すぎてじれったかったもので。とりあえずあいつが好意を持っていることだけは覚えておいてください」
「はい……」
その事実はしっかり脳に刻み込まれた。改めて赤面するニャーン。そして戸惑う。
(私、どうしたらいいんだろう……?)
そもそも彼女自身、今まで他人に恋愛感情を抱いたことが無い。だからどう答えるべきかが全くわからなかった。
(――うーん、芽はありそうだけど難しいなこれは。ニャーンさんも色恋とは無縁の人生だったんだろうし。清楚な尼さんだものな)
戸惑うニャーンの横で密かにため息をつくスワレ。兄の気持ちを伝えることであわよくば一気に進展させられないかと目論んだのだが、やはりそう簡単にはいかない。
さらに畳みかけるべき? いや、あまりゴリ押しが過ぎると逆効果だろう。少なくとも意識してもらえるようになったのは確実だし今はこれで良しとしておく。
(周りが焚きつけるのは大事だと思うがな。でないと一向に先へ進まんぞ、この二人)
前回ニャーンと別れた時には彼女の邪魔になりたくないという兄の意向を尊重した。けれど今は事情が変わっている。
ニャーンの能力はアイムの予想すら大きく上回り、対怪塵において無敵と言える力だと判明した。怪塵どころか怪物まで我が物とできるのだから、もはや彼女にとって怪塵とその集積体は恐れるに足らない。
ただし無敵ではない。肉体はあくまで常人のそれなのだ。しかもアイムですら赤い凶星を相手に完全に守り切ることは出来なかった。その二つの事実が第六大陸での戦いで明らかになった。
現状、人類が最優先で守るべき対象はニャーン・アクラタカで間違いない。一人一人が身を盾にしてでも守り抜かねば宇宙の免疫システムという脅威を退け、未来を掴み取ることは叶わない。
ズウラとニャーンの結婚を望むのは、それが主な理由。この可憐な英雄との縁をより固く繋いでおきたい。身内になれば今までより気軽に頼ってもらえる。今回のように傷付き疲れた時には遠慮なく帰って来て休んでくれればいい。帰る場所のある人間は無い者より強くなるはずだ。
もちろん当人の意思は尊重する。仮にズウラとの結婚を断ったとしても身内扱いはさせてもらうつもり。自分達はなんにせよ彼女の力になりたいだけ。そのついでに兄の初恋が実るなら、それにこしたことはないが。
大切な人達を喪ったニャーンにとっても新たな家族を持つことは悪くないと思うのだ。少し拙速すぎる気はするが、この星にあとどれだけ猶予が残されているかわからない以上、仕方が無い。
(それに、このままではどのみちお先真っ暗だ)
親の世代が怪物との戦いで全滅したためテアドラスには四人しか若者が残っていない。自分達と幼い男女が一組だけ。しかも幼い方は互いのことを憎からず思っている。あぶれた二人はよりにもよって兄妹。倫理的に問題があるし彼女も兄も互いをそんな目では見られない。
これでは災厄を生き延びたとしてもどのみち先細る。外から移住者を受け入れることはそういう意味でも急務なのだ。皆、彼女には大いに感謝してるし信用もしている。純粋に好きでもある。誰も反対はしない。
スワレは頭上を見上げ、双子の兄に向かって念じた。
(皆で応援するからきっちり射止めろよ。こんなに素晴らしい人を逃す手は無いぞ兄)
「うううっ、どうしたら……」
隣のニャーンはまだ悩んでいる。病み上がりに悪いことをしたかなと苦笑したところへ二人分の明るい声がかかった。
「あっ、姉ちゃんたちだ!」
「ニャーンさん、もう怪我は大丈夫なの?」
「ルッパ、ニッチェル」
七歳の少年ルッパと八歳の少女ニッチェル。テアドラスに二人しかいない子供が駆け寄って来たためスワレとニャーンは素早く気持ちを切り替えた。年下の子への対応は修道院育ちのニャーンも慣れたものである。
「こんにちは、怪我はほとんど治ったよ。毎日お見舞いに来てくれてありがとう」
「今日もこれから行こうとしてたんだ」
「これ、おみやげ」
そう言って袋を差し出すニッチェル。ありがとうと言って受け取り、開いてみたニャーンは目も大きく見開いた。
「キ、キラキラしてる……まさか、これ……」
「ははっ、集めたな」
覗き込んで笑うスワレ。中身はルビーにダイヤ、サファイアなど色とりどりの宝石。しかも大粒。外界の人間が驚くのも無理は無い。
「ここでは珍しくないんですよ、そのへんを掘ったらすぐ出てきます。アイム様が言うには一部の火山地帯では宝石が多く産出するのだとか」
「そうなんですか……」
「もらってあげてください。本当にいくらでも出てきますし、外の世界では『お金』というものに換えて色々なものと交換できるのでしょう?」
アイムも時々持って行って換金している。その礼として薬や布を買って来てくれたりするものの、大抵の物は村内で自給自足できているので実のところ必要無い。厚意はありがたいので受け取っているけれど。
「外の世界の女の人は、こういうキラキラした石が好きだってばあちゃんが言ってた」
「だから二人で集めて来たんだ。ニャーン姉ちゃんにあげるよ」
「あ、ありがとう……」
彼等よりは正しく外界での価値を知るニャーンは引きつった笑みを浮かべた。本当にこんな高価な贈り物をもらってしまっていいものか? でも宝石より眩しい笑顔で純粋な好意を向けてくれる子供達をガッカリさせたくもない。
結局、受け取るべきだと結論を下す。
「大切に取っておくね」
「おう!」
「やったねルッパ!」
嬉しそうに手を叩き合うルッパとニッチェル。そんな幼い二人をニャーンとスワレも微笑ましく見つめる。
――地下空間にもわずかながら風は吹く。下から昇って来る熱とこの空間で冷やされた空気とがぶつかり合い、温度差で気流が生じるからだ。その風がシイビッタスの花畑をそよがせた。農作業中の老人達の汗で濡れた頬も優しく撫でる。
昼に近い時間なので、それぞれの家の中では食事の支度が始まっていた。食欲を刺激する香りもそよ風に乗ってここまで運ばれて来る。
テアドラスでは時間の流れがゆったりとしている。火山の下にあり昼夜問わず溶岩の放つ輝きに照らされる神秘的な空間。危険な場所に存在しながら実際には地上のどの場所よりも安全。
かつてこの平和が破られたことは二回しかない。長い時間をかけ少しずつ内部に侵入した怪塵が怪物化し多くの命を奪った百七十年前の惨劇。そしてスワレやズウラ、ルッパとニッチェルの親の世代が村を守り抜き、その代償として命を落とした四年前の悲劇。
だからこれは三度目。新たな脅威の襲来。
「何者だ!」
突然、背後に振り返るスワレ。するとそこには男が一人いつの間にか立っている。服装は囚人服の上に拘束具。
「気付かれた。驚いたなあ、思ったよりやるじゃないか。解剖して調べてもいいかい?」
そう言って彼はニタリと不気味な笑みを浮かべた。
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