見えない君と恋をする。

きーち

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2人はファストフード店の前にて別れた。晴れて電話番号を手にした私は、いつでも繋がれる事への幸福感に浸った。それと、「あの男」と呼ぶのはやめた。帰り際に聞いた名前は、「岬」。女にも男にもとれる名前で、一瞬それを本当かどうか疑った。何処へ向かうのか、先を急ぐ岬の背中を見ていると、だんだんしっくりときた。岬、岬、岬…………。
良い名前だな、意味は知らないけど。その名前を口にするだけで何故か良い気になった。その日の岬との記憶は強く脳に焼き付けられた。

「嘘つけ、そんなわけないよ」
「本当だってば、嘘じゃないって」
週初め、まず愛奈が出した話題は当然2日前の事だった。必死にその日のことを説明する愛奈と、一向に信じようとしない美嘉。話すだけ無駄だ………。愛奈にも諦めがかかり、今回は諦めた。写真でもあればいいんだ。今度撮ろうっと。ツーショットなら………あぁ顔がこんなに近くに………むふふふふ。
「ねぇ、なにその顔」
にやけを隠せない愛奈に言った。
「気持ち悪いなぁ、もう。・・・・まさかそのにやけ、あの男のことじゃないよね?」
「岬ですってよ」
美嘉は、愛奈が信じてもらえないといって不機嫌になると思っていた。しかし愛奈のこの表情は何なのだろう、まさか本当に会ったっていうの?。その上、食事、電話番号???…………有り得ない。美嘉はやはり信じてはいなかった。
「ねぇ、今度写真撮って見せてよ」
美嘉は言った。
「そのつもりですよって・・・へへ」
あ、駄目だ、おかしくなってる。とにかく例の男の写真を待とう。普通に考えたら、嘘だけど、こんな愛奈は見たことがなかったものだから、信じざるを得ないよなぁ………なんて思いもしたものの「いやないない」と考えを吹き消した。愛奈が幸せなら嘘であれ、なんでもいいけれど。

1時間目、現代文………妄想にふけた。
2時間目、数学………妄想にふけた。
3時間目…………その日、ノートに黒鉛をすりつぶす事は一度たりともなかった。手を動かす代わりに頭をフル活用していた。ノートに板書をする理由は、脳に記憶するだけでは心もとないからでしょう?。頭をフル活用してこそ、効率の良いというものだ。ところで、頭を使った先はくだらない(一般視より)妄想であるから、効率の「K」の字もない。
あぁ、早く会いたいなぁ。少し日を置いて電話をかけよう。電話をかけるにはまず名乗らないとな。覚えてくれているかな。忘れられてたらどうしよう。まぁ、焦るな、落ち着いていけ。自分に呟いた。
付き合えたわけでもないのに、まだ一回(実質2回)会っただけなのに、もうゴールインした気分になっていた。少し、こう思うときもある。「もし岬に彼女がいたら、気になっている人がいたら」なんて。それでも数秒後には「デートしたら…」なんてことを考えている。感情という名の波動が激しく波打つ。鼓動だって、BPMで表すなら(何故こんな表現をしたか、私は前そんな感じの歌を聴いたのだ)180位だ。鼓動が、脊の髄を伝って体全身へ行き渡る。そんな感覚が、いたくたまらない。恋愛の異常者であった。
そうだ、私は恋愛をしているんだ………。なんだか、それ自体が嬉しくなって、今日もスキップして帰る。
今なら、何でも許せる気がする。



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