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8 ※クロード目線
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同時刻。
村の中を巡回していた自警団のがその声を聞きつけたのは、国境沿いから戻る途中のことだった。
「誰か、助けて!」
遠くで聞こえた女性の助けを求める声。すぐに反応したのは獣人の二人だ。足を止めて耳をそば立てるクロードとオリーブを、人族の自警団員が訝しげに見る。
「今の……」
オリーブの呟きを皆まで聞かず、クロードは我先に駆け出した。孤児院へと続く橋に差し掛かった時、女性がこちらに気付いて声を上げた。
「お願い、息子が……!」
縋り付いてきた女性は膝がから崩れ落ちた。慌てて支えると、彼女は川を指差して訴える。
「川に落ちたの! そしたら、女の子が……!」
ハッとして川面に目を凝らす。だが、すぐには溺れている人影は見つけられない。代わりにクロードの目が捕らえたのは、川縁に転がる見覚えのある一対の靴。
「クロード!」
「彼女を。息子さんが溺れているそうだ。それと、もう一人」
「なんだって? おい、クロード……!」
追い付いた同僚に女性を任せ、クロードは素早く上着を脱ぐ。それを別の同僚に押し付けながら、下流の川縁を指差した。
「あそこに靴がある。拾っといてくれ」
「は? 靴? どこに?」
「茶色いブーツだ。履き口のところに花の絵が描かれてる……メイベルのだ」
返事を待たず、クロードは水面に目を凝らしたまま靴を脱ぎ捨て川に飛び込んだ。
春先の川は雪解け水を多く含んでいて、一気に体温が奪われる。さらに増した水量で、流れが早い。川の流れを利用して加速しながら、クロードは二人の姿を探した。
呼吸のために水面に顔を出した時、一瞬、視界の端にチラリと何かが映った。クロードは勢いをつけて潜ると、下流のカーブに差し掛かる手前に生えている脚の長い草地に向かって泳ぎ出した。
あそこにメイベルがいる。そう確信したのは、彼女の長い栗毛の髪が見えたからだ。仕事中は邪魔だからと纏めている一本の三つ編み。その先に結び付けられた赤いリボンは、子供たちからのプレゼントなのだと嬉しそうに語ってくれた。
この水温で長く浸かっているのは危険だ。早く助けなければと気持ちが急く。二人の姿が間近に迫る。子供を片腕に抱き抱え、もう片方の手を頭上に伸ばし、流されないよう草を掴んでいるのだと理解したその時だった。もう少しと言うところで力尽きてしまったのか、二人の姿が流れに飲まれる。必死に手を伸ばしたが届かず、クロードは内心舌打ちした。
メイベル。メイベル。心の中で呼びながら、二人の姿を見失うまいと水中で目を凝らす。川の水がある程度の透明度を保っていたことが功を奏し、クロードは最短距離を泳いで、ついにメイベルの腕を掴んだ。
すぐさま子供諸共腕にかき抱いて水面に顔を出す。
「クロード!」
先回りして下流で待ち受けていた同僚が投げてくれた縄を掴み、しっかりと腕に巻き付ける。引っ張り上げてもらいながら、クロードの心臓はバクバクと大きく跳ねていた。
「大丈夫か?!」
「子供を……」
足が着くところまで来れば、後は自力で上がれる。少年の方は駆け寄ってきた同僚に任せ、クロードはメイベルを川原に横たわらせ、呼吸を確認する。浅いが呼吸はしている。
「メイベルっ、メイベルっ!」
彼女の名前を今度はハッキリと声に出して呼ぶ。さっきから心臓がうるさい。身動ぎもしないメイベルの顔は蒼白で、頬に添えた手が震えた。
「メイベル、起きろ。メイベルっ!」
同僚が持ってきた毛布で彼女の身体を包み、身体を摩りながら名前を呼び続けた。
村の中を巡回していた自警団のがその声を聞きつけたのは、国境沿いから戻る途中のことだった。
「誰か、助けて!」
遠くで聞こえた女性の助けを求める声。すぐに反応したのは獣人の二人だ。足を止めて耳をそば立てるクロードとオリーブを、人族の自警団員が訝しげに見る。
「今の……」
オリーブの呟きを皆まで聞かず、クロードは我先に駆け出した。孤児院へと続く橋に差し掛かった時、女性がこちらに気付いて声を上げた。
「お願い、息子が……!」
縋り付いてきた女性は膝がから崩れ落ちた。慌てて支えると、彼女は川を指差して訴える。
「川に落ちたの! そしたら、女の子が……!」
ハッとして川面に目を凝らす。だが、すぐには溺れている人影は見つけられない。代わりにクロードの目が捕らえたのは、川縁に転がる見覚えのある一対の靴。
「クロード!」
「彼女を。息子さんが溺れているそうだ。それと、もう一人」
「なんだって? おい、クロード……!」
追い付いた同僚に女性を任せ、クロードは素早く上着を脱ぐ。それを別の同僚に押し付けながら、下流の川縁を指差した。
「あそこに靴がある。拾っといてくれ」
「は? 靴? どこに?」
「茶色いブーツだ。履き口のところに花の絵が描かれてる……メイベルのだ」
返事を待たず、クロードは水面に目を凝らしたまま靴を脱ぎ捨て川に飛び込んだ。
春先の川は雪解け水を多く含んでいて、一気に体温が奪われる。さらに増した水量で、流れが早い。川の流れを利用して加速しながら、クロードは二人の姿を探した。
呼吸のために水面に顔を出した時、一瞬、視界の端にチラリと何かが映った。クロードは勢いをつけて潜ると、下流のカーブに差し掛かる手前に生えている脚の長い草地に向かって泳ぎ出した。
あそこにメイベルがいる。そう確信したのは、彼女の長い栗毛の髪が見えたからだ。仕事中は邪魔だからと纏めている一本の三つ編み。その先に結び付けられた赤いリボンは、子供たちからのプレゼントなのだと嬉しそうに語ってくれた。
この水温で長く浸かっているのは危険だ。早く助けなければと気持ちが急く。二人の姿が間近に迫る。子供を片腕に抱き抱え、もう片方の手を頭上に伸ばし、流されないよう草を掴んでいるのだと理解したその時だった。もう少しと言うところで力尽きてしまったのか、二人の姿が流れに飲まれる。必死に手を伸ばしたが届かず、クロードは内心舌打ちした。
メイベル。メイベル。心の中で呼びながら、二人の姿を見失うまいと水中で目を凝らす。川の水がある程度の透明度を保っていたことが功を奏し、クロードは最短距離を泳いで、ついにメイベルの腕を掴んだ。
すぐさま子供諸共腕にかき抱いて水面に顔を出す。
「クロード!」
先回りして下流で待ち受けていた同僚が投げてくれた縄を掴み、しっかりと腕に巻き付ける。引っ張り上げてもらいながら、クロードの心臓はバクバクと大きく跳ねていた。
「大丈夫か?!」
「子供を……」
足が着くところまで来れば、後は自力で上がれる。少年の方は駆け寄ってきた同僚に任せ、クロードはメイベルを川原に横たわらせ、呼吸を確認する。浅いが呼吸はしている。
「メイベルっ、メイベルっ!」
彼女の名前を今度はハッキリと声に出して呼ぶ。さっきから心臓がうるさい。身動ぎもしないメイベルの顔は蒼白で、頬に添えた手が震えた。
「メイベル、起きろ。メイベルっ!」
同僚が持ってきた毛布で彼女の身体を包み、身体を摩りながら名前を呼び続けた。
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