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お父様に言われて、私は先に客間を出ました。

後から聞いた話なのですが、お父様はダスティン辺境伯に軍事費用として多額の資金提供をしているとのことでした。辺境伯はお父様からの資金にかなり依存しているようで、今回の事件ではある意味、娘を犠牲にして資金源を守ったかたちとなったのでした。あれほど恐ろしい辺境伯がお父様に対して低姿勢だったのは、そのような金銭事情があったからのようです。あの後も何かしらの交渉があったとのことですが……詳細はわかりません。

お父様がカサンドラの謝罪をすぐに受け入れなかったとき、私はそれを愛情のように解釈していました。傷ついた娘を思うと、簡単に怒りが収まらない。お父様のそんな人間らしい姿を見た気がしたのですが、そう単純ではなかったみたいです。辺境伯とは政治経済のつながりがある以上、私の離縁は格好の取引材料だったということです。もちろんそれだけではないと信じたいですが……少し寂しい気がしました。




カサンドラは王立学院を退学し、辺境伯領の最も厳格な修道院に入ったと報告がありました。もうこれで、二度と貴族社会には帰ってこれません。俗世にまみれた彼女にとっては、不本意の極みに違いありません。

恨みを持つに近かった私にとって、計画の目的は達成されたことになります。長い道のりでしたが、諦めずに計画を進めてこれてよかったなと思っています。憎き者に距離を取るのも人生かもしれませんが、徹底的にやり返すのもまた人生です。たまには調査を命じて、カサンドラに”貞淑な生活”とやらができているか見てあげましょう。ふふふふふ。





さて、カサンドラが修道院に入ったという報告が入って一週間後、私は老婆の言葉を思い出しました。

『かつてのご主人様に最後の追い打ちとやらをした後に、そのご主人様に一度会ってやりなさい。……追い打ちをして、半年くらい経った頃かな』

よくよく考えてみると、半年という期間はけっこう長いです。頭の片隅に残り続けるのも気持ち悪いので、さっさとエルキュールに会ってしまいたいと思いました。



ジェロームを呼び、話をしました。

「一度エルキュールに会いたいんだけど、どこにいるか教えてくれない?」

ジェロームは目を見開いて「え!?」と言いました。眉をひそめ、目に困惑の色を浮かべながらも「お会いになるのでございますか?」と、少し震える声で確認の問いを投げかけてきました。

「そうよ」

「それはまた……どのようなご心境の変化で……?」

老婆との約束……とジェロームに言ってもしかたない気がしたので、ごまかしました。

「貴族社会は評判が命よ。カサンドラもいなくなったことだし、ここで一度私が情けをかけてあげるの。そうすれば、私に対する同情がより集まるわ」

ジェロームは「ふむ……」と言いながら、私の目をじっと見つめました。あからさまに怪しんでいます。

「まあ……大丈夫かと思いますが……ベアトリス様の身の安全が心配です……。エルキュール伯爵がいるのは治安の悪いところですし、十分な護衛が必要ですね」

「そんなに仰々しく考えなくていいわ。五分でも話せたら満足なのよ。辺境伯の件ではがんばってあげたでしょ?」

「……わかりました。段取りを組みましょう」
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