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デート当日、私は自分でデート場所に指定した湖畔の庭園に足を運びました。

この庭園は王家が所有していて、彼らの慈悲深い温情により、庶民にも開放されています。庭園はリニューアルされたばかりで、様々な花壇に整えられています。ローズマリーやラベンダーが咲き誇り、芳醇な香りに満ちています。

待ち合わせ場所の噴水を目指し、侍女と一緒に石畳の小道を歩いていました。すると、聞き覚えのある声が耳に入りました。声のする方に目を向けると、湖畔に面したベンチに若い男女が寄り添うように座っているのが見えます。


「ねぇ……あたしと会ってばかりで大丈夫なの? エマニュエル様の婚約者……怒ってるんじゃない? この前の舞踏会も、青ざめたひどい顔をしていたわよ」


エマニュエルの「かっかっか!」という独特な高笑いが聞こえます。


「あの女がひどい顔をしているのはもともとだよ。今日も向こうから誘ってきたから、君とのデートのついでに会ってあげるだけなんだ。あの女なんかどうでもいい! 俺が愛しているのは君だけだよ」


「うふふっ! ほんとうに悪い人。でも、好きよ。真面目な人って想像力がないもの。正しさばっかり気にして、何も生み出さないから。その点、あなたは違う。貴族の常識にも縛られていないし、最高よ」


顔を寄せていちゃつき合う二人はどこからどう見ても男女の仲にしか見えません。極めつけに、キスまでしてくれました。距離があるとはいえ、私が正面から見つめているのにまったく気づいていません。


私の隣で同じようにその光景を眺めていた侍女は気まずそうに焦っていました。「……お嬢様っ! 噴水まで向かいましょう」と小声で私に呼びかけましたが、応えませんでした。



私は内心で「勝った」と思いました。
余韻にひたっていたほどです。


「ちょっと待っててね」


私は侍女にそう声をかけた後、二人が座るベンチへとまっすぐ歩いて行きました。かつてはエマニュエルが女といるところを目撃するたびに苦しかったのですが、もう何も感じません。

私の顔を見たエマニュエルは悪びれもせず「遅刻だぞ! 時間も守れないクズめ」と私に言いました。まだ待ち合わせの時間には三十分ありますし、ここは待ち合わせ場所の噴水近くでもありません。寝言は寝て言えよ。

彼の隣にいる女は足を組んだまま、ケラケラ笑っています。やはり前の舞踏会の時にも見かけた女で、金や銀のアクセサリーをじゃらじゃらつけて、ゴテゴテの指輪をすべての指にはめています。豹柄のカーディガンにゼブラ柄のハイヒール。なぜかノーメイクで眉毛全剃り。どうかしてんのか?


罵倒されたにもかかわらず、私は自然な笑顔になれました。もうこれで終わりなのだと思うと、すがすがしい気持ちでした。苦しんでいたのはきっと、終わりが見えなかったからだと思います。ずっと嫌な思いをしなくちゃならないと思うと、どんなに強い人だって気持ちがめげます。でも……終わらないものなんてありません。


「ごきげんよう、エマニュエル。お楽しみのところ申し訳ないのだけど、用件だけ言いますね。私とあなたの婚約の件ですが、解消する方向で話を進めさせていただきます。それでは失礼します」


それだけ言って私はすぐに振り返り、あぜんとする侍女を連れて庭園を後にしました。道中、後ろの遠くのほうから「ああん? どういうことだ!」とか「説明しろボケ女!」とか聞こえてきましたが、もちろん無視です。いいとこのお坊ちゃんのはずなのに、口が汚すぎです。
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