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「ねえオスカー。わたしは愛しいあなたと一緒にいたいの。こうして舞踏会で会うだけじゃなくて、朝も昼も夜も……ずっと一緒に……。でも……」

イザベラは視線をオスカーに合わせないようにしつつ、貞淑な女を演じる。目を閉じて、祖父が死んだときのことを思い出し、まぶたに涙を溜めた。一番効果的なタイミングで泣かなければならない。弱々しさを最大限にアピールして、彼に”守りたい”と思わせる振る舞いを心がけた。



(イザベラにも……苦労をかけているんだな)



顔を伏せているイザベラを見て、オスカーは彼女の肩に触れた。抱き寄せて、自分の正面に向くようにした。



「僕は絶対に父を説得するよ。イザベラと結婚できるように、どんな障害でも乗り越えてみせる」


「無理よ……無理なのよ!」



ここぞとばかりに、イザベラは目を大きく開き、オスカーの瞳を上目遣いで見つめた。大粒の涙が彼女の目尻から流れる。イザベラは知っていた。この涙によって瞳が輝き、男をあたふたさせるということを。



「イザベラ…………」



オスカーはイザベラの涙に動揺した。彼女の頬が紅潮し、泣いているにもかかわらず、可愛いと思ってしまった。一方で、彼女を泣かせてしまった申し訳無さと、その挽回で頭がいっぱいになった。

イザベラは内心でニヤリと笑っていたが、顔は真剣さを保ちつつ、オスカーの胸に身を委ねた。安心したように見せつつも、時折小刻みに震えてみせた。



「わたしの父は……あなたとは別の人を結婚相手として候補に挙げているわ。オスカーと結婚させてほしいと何度もお願いしたの。でも、父は許してくれなかった」



もちろん嘘である。イザベラは、これだけでオスカーが引き下がってくれるとは思わなかった。しかし彼を拒否するにあたって、婉曲的な手段もいちおうは講じておきたかった。真っ直ぐな男には、間接表現が効かないとわかってはいても。

オスカーはイザベラの発言を鵜呑みにした。二人の結婚を妨げているのは、両家の親の問題なのだと信じきった。

「イザベラも……親に説得してくれているんだよね。僕の力がないばかりに……すまないね。でも、絶対に諦めない。家どうしの結婚がこの世界のしきたりとはいえ、本物の愛がなければ、何のために一緒に住むというんだろう。そう思わないかい?」

想像通りに事が運んだので、イザベラの計画は第二段階に入った。



「わたしたちが結ばれるためには……駆け落ちするしかないと思うの。わたしにはその覚悟ができているけど……オスカー……あなたはどうなの……?」
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