7 / 23
7
しおりを挟む
「ねえオスカー。わたしは愛しいあなたと一緒にいたいの。こうして舞踏会で会うだけじゃなくて、朝も昼も夜も……ずっと一緒に……。でも……」
イザベラは視線をオスカーに合わせないようにしつつ、貞淑な女を演じる。目を閉じて、祖父が死んだときのことを思い出し、まぶたに涙を溜めた。一番効果的なタイミングで泣かなければならない。弱々しさを最大限にアピールして、彼に”守りたい”と思わせる振る舞いを心がけた。
(イザベラにも……苦労をかけているんだな)
顔を伏せているイザベラを見て、オスカーは彼女の肩に触れた。抱き寄せて、自分の正面に向くようにした。
「僕は絶対に父を説得するよ。イザベラと結婚できるように、どんな障害でも乗り越えてみせる」
「無理よ……無理なのよ!」
ここぞとばかりに、イザベラは目を大きく開き、オスカーの瞳を上目遣いで見つめた。大粒の涙が彼女の目尻から流れる。イザベラは知っていた。この涙によって瞳が輝き、男をあたふたさせるということを。
「イザベラ…………」
オスカーはイザベラの涙に動揺した。彼女の頬が紅潮し、泣いているにもかかわらず、可愛いと思ってしまった。一方で、彼女を泣かせてしまった申し訳無さと、その挽回で頭がいっぱいになった。
イザベラは内心でニヤリと笑っていたが、顔は真剣さを保ちつつ、オスカーの胸に身を委ねた。安心したように見せつつも、時折小刻みに震えてみせた。
「わたしの父は……あなたとは別の人を結婚相手として候補に挙げているわ。オスカーと結婚させてほしいと何度もお願いしたの。でも、父は許してくれなかった」
もちろん嘘である。イザベラは、これだけでオスカーが引き下がってくれるとは思わなかった。しかし彼を拒否するにあたって、婉曲的な手段もいちおうは講じておきたかった。真っ直ぐな男には、間接表現が効かないとわかってはいても。
オスカーはイザベラの発言を鵜呑みにした。二人の結婚を妨げているのは、両家の親の問題なのだと信じきった。
「イザベラも……親に説得してくれているんだよね。僕の力がないばかりに……すまないね。でも、絶対に諦めない。家どうしの結婚がこの世界のしきたりとはいえ、本物の愛がなければ、何のために一緒に住むというんだろう。そう思わないかい?」
想像通りに事が運んだので、イザベラの計画は第二段階に入った。
「わたしたちが結ばれるためには……駆け落ちするしかないと思うの。わたしにはその覚悟ができているけど……オスカー……あなたはどうなの……?」
イザベラは視線をオスカーに合わせないようにしつつ、貞淑な女を演じる。目を閉じて、祖父が死んだときのことを思い出し、まぶたに涙を溜めた。一番効果的なタイミングで泣かなければならない。弱々しさを最大限にアピールして、彼に”守りたい”と思わせる振る舞いを心がけた。
(イザベラにも……苦労をかけているんだな)
顔を伏せているイザベラを見て、オスカーは彼女の肩に触れた。抱き寄せて、自分の正面に向くようにした。
「僕は絶対に父を説得するよ。イザベラと結婚できるように、どんな障害でも乗り越えてみせる」
「無理よ……無理なのよ!」
ここぞとばかりに、イザベラは目を大きく開き、オスカーの瞳を上目遣いで見つめた。大粒の涙が彼女の目尻から流れる。イザベラは知っていた。この涙によって瞳が輝き、男をあたふたさせるということを。
「イザベラ…………」
オスカーはイザベラの涙に動揺した。彼女の頬が紅潮し、泣いているにもかかわらず、可愛いと思ってしまった。一方で、彼女を泣かせてしまった申し訳無さと、その挽回で頭がいっぱいになった。
イザベラは内心でニヤリと笑っていたが、顔は真剣さを保ちつつ、オスカーの胸に身を委ねた。安心したように見せつつも、時折小刻みに震えてみせた。
「わたしの父は……あなたとは別の人を結婚相手として候補に挙げているわ。オスカーと結婚させてほしいと何度もお願いしたの。でも、父は許してくれなかった」
もちろん嘘である。イザベラは、これだけでオスカーが引き下がってくれるとは思わなかった。しかし彼を拒否するにあたって、婉曲的な手段もいちおうは講じておきたかった。真っ直ぐな男には、間接表現が効かないとわかってはいても。
オスカーはイザベラの発言を鵜呑みにした。二人の結婚を妨げているのは、両家の親の問題なのだと信じきった。
「イザベラも……親に説得してくれているんだよね。僕の力がないばかりに……すまないね。でも、絶対に諦めない。家どうしの結婚がこの世界のしきたりとはいえ、本物の愛がなければ、何のために一緒に住むというんだろう。そう思わないかい?」
想像通りに事が運んだので、イザベラの計画は第二段階に入った。
「わたしたちが結ばれるためには……駆け落ちするしかないと思うの。わたしにはその覚悟ができているけど……オスカー……あなたはどうなの……?」
1
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!
日向はび
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?
もふっとしたクリームパン
恋愛
ふわっとしたなんちゃって中世っぽい世界観です。*この話に出てくる国名等は適当に雰囲気で付けてます。
『私の名はジオルド。国王の息子ではあるが次男である為、第二王子だ。どんなに努力しても所詮は兄の控えでしかなく、婚約者だって公爵令嬢だからか、可愛げのないことばかり言う。うんざりしていた所に、王立学校で偶然出会った亜麻色の美しい髪を持つ男爵令嬢。彼女の無邪気な笑顔と優しいその心に惹かれてしまうのは至極当然のことだろう。私は彼女と結婚したいと思うようになった。第二王位継承権を持つ王弟の妻となるのだから、妻の後ろ盾など関係ないだろう。…そんな考えがどこかで漏れてしまったのか、どうやら婚約者が彼女を見下し酷い扱いをしているようだ。もう我慢ならない、一刻も早く父上に婚約破棄を申し出ねば…。』(注意、小説の視点は、公爵令嬢です。別の視点の話もあります)
*本編8話+オマケ二話と登場人物紹介で完結、小ネタ話を追加しました。*アルファポリス様のみ公開。
*よくある婚約破棄に関する話で、ざまぁが中心です。*随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
あなたの1番になりたかった
トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。
姉とサムは、ルナの5歳年上。
姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。
その手がとても心地よくて、大好きだった。
15歳になったルナは、まだサムが好き。
気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…
婚約者である王子の近くには何やら不自然なほどに親しい元侍女の女性がいるのですが……? ~幸せになれるなんて思わないことです~
四季
恋愛
婚約者である王子の近くには何やら不自然なほどに親しい元侍女の女性がいるのですが……?
【短編】側室は婚約破棄の末、国外追放されることになりました。
五月ふう
恋愛
「私ね、サイラス王子の
婚約者になるの!
王妃様になってこの国を守るの!」
「それなら、俺は騎士になるよ!
そんで、ラーニャ守る!」
幼馴染のアイザイアは言った。
「そしたら、
二人で国を守れるね!」
10年前のあの日、
私はアイザイアと約束をした。
その時はまだ、
王子の婚約者になった私が
苦難にまみれた人生をたどるなんて
想像すらしていなかった。
「サイラス王子!!
ラーニャを隣国フロイドの王子に
人質というのは本当か?!」
「ああ、本当だよ。
アイザイア。
私はラーニャとの婚約を破棄する。
代わりにラーニャは
フロイド国王子リンドルに
人質にだす。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる