上 下
5 / 17

5

しおりを挟む
クリフォード様は小屋から出てきた女性の手を引いて、私の前に来た。

「エリザベス。紹介するよ。彼女はモニカ。僕が心から愛する人さ」

モニカは不機嫌そうな顔をして、クリフォード様の隣に立っていた。(なんであんたがここにいるの?)みたいな威圧を感じた。正直、私が嫌な顔をされるいわれはないのだけど……。

私はモニカに挨拶した。
「はじめまして。クリフォード様の妻、エリザベスと申します。以後お見知りおきを」

モニカは腕を組んで、顔をぷいっとそらした。
「……文句があるなら早く言えば? 何しに来たのよ」

思ったより子どもっぽいようだ。
「何しにって……。良くないことをしているという認識はあるようね」

「バカにしないで。お飾りの王太子妃はさっさと城に帰ってお菓子でも食べていたらいいのよ。平民には一生食べられないような、贅沢なお菓子をね」

ここまでモニカが言ったタイミングで、クリフォード様が割って入った。

「まあまあ二人とも。エリザベスは、僕とモニカがこれからも愛し合えるようにするために来たんだ」

モニカは私に疑いの眼差しを向けながらきく。
「クリフォード、どういうこと? お飾りさんはあたしたちの邪魔をしに来たんじゃないの?」

私を「お飾りさん」と呼ぶのはまだ許せるとして、クリフォード様を呼び捨てにしているのは許せなかった。

私はモニカに言った。
「クリフォード様と呼びなさい。呼び捨てはいけません」

モニカは嘲笑うようにして言った。
「あたしとクリフォードは長い仲なのよ。初めての出会いはまだ小さい頃。あんたとは違うの。大人しくその辺でお花でも摘んでなさい、お飾りさん」

平民という立場うんぬんではなく、不愉快な女だった。こんな女と一緒にいるクリフォード様を守らねばならないと考えると、めまいがしてきた。


「エリザベス~! 小屋の中や周りの説明をしてあげるよ~」

ライナス様が小屋の扉の前から私に手を振りながらこう言った。おそらくこちら三人の険悪な雰囲気を感じ取ってくれたのだろう。

私はライナス様のもとへ行った。
「あのモニカっていう人……すごく失礼だし、変な女ですね」

ライナスは(でしょ?)というリアクションをした。
「やっぱりエリザベスもそう思う? よかった~、共感してくれる人がいて。やばいでしょ? 俺はあのカップルを見たら目が腐るから見ないようにしてる」

私はライナス様の言葉を聞いて笑ってしまった。目が腐る、は言い過ぎだよ。

「ふふふ、ライナス様はご冗談がお上手ですね」

「思ったことを言っただけだよ。笑ってくれてよかった!」

ライナス様はとても話しやすい。表情も豊かで、人懐っこいところがかわいい。


クリフォード様とモニカがこちらへ来て言った。
「じゃあ僕たちは小屋の中にいるから、君たち二人は狩りに行っておいで」

ライナス様は「オッケー」と即答すると、私を森へ先導した。
私はライナス様に尋ねた。
「クリフォード様は……午前中は狩りをするのではないのですか?」

「そういう日もあるけど、今日はそういう気分じゃないんだろうね」

「ライナス様は……慣れていらっしゃいますね」

「俺は第二王子だし、第一王子と仲良くしておくのは大切なことなんだ。将来兄上が国王になったときに、冷遇されてはたまらないからね。俺はもともと狩りが好きだから、それにかこつけて兄孝行ができるなら、一石二鳥ってわけよ」

それぞれに、それぞれの思惑があるようだった。

私としては、あのモニカという女がどこか嫌な感じがしてならなかった。嫉妬している……とかではなくて……。

「ライナス様。ご存知であれば教えてください。クリフォード様とモニカはどのようにして知り合ったのですか?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました

柚木ゆず
恋愛
 侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。  そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。  しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?

夫は運命の相手ではありませんでした…もう関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

coco
恋愛
夫は、私の運命の相手ではなかった。 彼の本当の相手は…別に居るのだ。 もう夫に関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

完結 裏切りは復讐劇の始まり

音爽(ネソウ)
恋愛
良くある政略結婚、不本意なのはお互い様。 しかし、夫はそうではなく妻に対して憎悪の気持ちを抱いていた。 「お前さえいなければ!俺はもっと幸せになれるのだ」

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに

青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。 仕方がないから従姉妹に譲りますわ。 どうぞ、お幸せに! ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。

クリスティーヌの華麗なる復讐[完]

風龍佳乃
恋愛
伯爵家に生まれたクリスティーヌは 代々ボーン家に現れる魔力が弱く その事が原因で次第に家族から相手に されなくなってしまった。 使用人達からも理不尽な扱いを受けるが 婚約者のビルウィルの笑顔に救われて 過ごしている。 ところが魔力のせいでビルウィルとの 婚約が白紙となってしまい、更には ビルウィルの新しい婚約者が 妹のティファニーだと知り 全てに失望するクリスティーヌだが 突然、強力な魔力を覚醒させた事で 虐げてきたボーン家の人々に復讐を誓う クリスティーヌの華麗なざまぁによって 見事な逆転人生を歩む事になるのだった

処理中です...