上 下
14 / 14

14 最終話

しおりを挟む
エドガーは扉のノブに手をかけた。



心臓の鼓動が耳に響くほどに速く、彼は自分がこの扉を開けることで何を見ることになるのか、どんな現実が待っているのかについて、考えを巡らせた。しかし、何もわからなかった。できることはただ、寝室に入り確かめることだけ……。



エドガーは扉のノブを回し、ゆっくりと開けた。



寝室に一歩足を踏み入れると、カーテンの隙間から朝日が淡く差し込む幻想的な光景が広がっていた。窓が少し開いていて、そこから心地よい風が入っていた。時間が止まったかのような静けさに包まれ、隅にはクラリスがよく使っていた椅子があり、その上に彼女の白いショールが掛けられていた。



「旦那様。エドガーでございます。失礼します」



ベッドに目を向けると、エドガーはバーナード伯爵が仰向けで一人横になっているのを確認した。隣にクラリスはいなかった。



「旦那様。朝になりました。朝食の準備ができております」



バーナード伯爵の反応がなかった。



エドガーは不審に思ってベッドの側まで近寄る。



「旦那様!!!!」



バーナード伯爵は安らかな表情で息を引き取っていた。彼の唇の端には微笑みがあり、平和が訪れていた。

枕元にはクラリスの一番のお気に入りのバスケットがあった。中には形の綺麗なりんごがぎっしり詰まっており、クラリスが亡くなった時と同じように赤く熟れていた。



エドガーはバスケットとシーツの間に挟まっていたメモ紙を見つけ、拾い上げた。そのとき、一羽の白いアゲハ蝶がバスケットの中から舞い上がるようにして飛び立ち、朝日が差し込む窓へ消えていった。

メモには、バーナード伯爵の筆跡で以下のように書かれてあった。


”クラリスとピクニックに行ってくる。しばらくしたら、また戻る”
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。 だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。 全2話。

全部未遂に終わって、王太子殿下がけちょんけちょんに叱られていますわ。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられそうだった女性が、目の前でけちょんけちょんに叱られる婚約者を見つめているだけのお話です。 国王陛下は主人公の婚約者である実の息子をけちょんけちょんに叱ります。主人公の婚約者は相応の対応をされます。 小説家になろう様でも投稿しています。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
 私はイリス=レイバン、侯爵令嬢で現在22歳よ。お父様と亡くなったお母様との間にはお兄様と私、二人の子供がいる。そんな生活の中、一か月前にお父様の再婚話を聞かされた。  もう私もいい年だし、婚約者も決まっている身。それぐらいならと思って、お兄様と二人で了承したのだけれど……。  やってきたのは、ケイト=エルマン子爵令嬢。御年16歳! 昔からプレイボーイと言われたお父様でも、流石にこれは…。 『家出した伯爵令嬢』で序盤と終盤に登場する令嬢を描いた外伝的作品です。本編には出ない人物で一部設定を使い回した話ですが、独立したお話です。 完結済み!

彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...