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「エマ……もうすべてが遅いんだよ。終わったことなんだ……」

アンドレの決意は固く、揺るがないものだった。

シェリーは悪魔が乗り移っているかのような顔をして、からからと笑い始めた。

空には暗雲が立ち込め、カラスの鳴き声が響いていた。それにシェリーの嘲笑が混じり、精霊の心を突き刺した。

精霊は胸が苦しくなった。アンドレの妻という選ばれた立場にいながら、愛を受け入れてもらえない自分の不甲斐なさが嫌になった。そして、諦めの境地に入っていった。

(所詮、わたしは精霊……人間なんて向いてなかった)

秘めていた想いが溢れ、ついに精霊は口を開いた。
「アンドレ、ごめんなさい。実はわたし、エマじゃないの」

アンドレは精霊の発言の意図がわからず、首をかしげた。

「どうしたの? 突然?」

精霊の目から涙が垂れてきた。

「わたしはね、森の精霊です。エマがお祈りに来たときに、この身に乗り移ってしまったの。ずっとエマのふりをしていてごめんなさい。森に帰ります」

アンドレは目が点になり、状況が飲み込めなかった。「え? ……え?」と戸惑うだけで、きちんとした言葉を発せなかった。

しかし、シェリーだけは変わらず笑っていた。単にエマの気がおかしくなったと思い、精霊の言葉を真に受けず、ただ自分の勝利を楽しんでいるようだった。

「あははは、そうなの? あんた精霊だったんだ! 人間のふりしてご苦労さま。森で独りで大人しくしてなさい、ばーか」

精霊は目元をこすりながら、シェリーを睨みつけた。ふとアンドレのほうを見ると、アンドレも半笑いである。彼は困ったような顔をしていたが、心のどこかでは彼女の言葉に真実を感じ始めているような様子もあった。

彼女はアンドレとシェリーへの怒りが湧き上がるのを感じ、彼らに教訓を与える決意をした。これは、かつての精霊としての自分が抱いていた人間への断罪意識が、潜在的な本能として表れた瞬間だった。

精霊はアンドレとシェリーのもとから立ち去り、広場の通行人に時たまぶつかりながら、一心不乱に走った。涙を拭い、彼女はかつての故郷へ向かった。大樹とともに生きた、あの森へ。
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