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私は、うつむき加減のままでいるフランケンに、
「どうして? 私といるのは嫌?」
ときいた。
するとフランケンは「いえいえ! とんでもございません。でも……」と歯切れが悪かった。やはりちらちらとレオンハルトを見ている。私もレオンハルトを見ると、目が合った。
(なるほど……私がレオンハルトの婚約者だから、気を遣っているのね)
「フランケン。レオンハルトのことは気にしなくていいのよ。あいつは私のことなんてなんとも思っていないんだから。今だって両脇の女たちにデレデレしてるし」
「いえ、やはり二人きりで裏庭に行くのはまずいです……なぜなら……」
フランケンは言いかけてやめた。
こういうのが一番気になる。
「なに? はっきり言って?」
私はフランケンの顔の正面までぐいっと顔を近づけて、圧をかけた。フランケンはぱっと顔をそらし、言いにくいことを告白するように言った。
「レオンハルト様は、エリーゼ様のことがお好きだからです」
「……はあ?」
フランケンは何を言っているの。レオンハルトが私のことを好きなはずないじゃない。まあ……フランケンだって恋愛経験が豊富なわけじゃなさそうだし……。レオンハルトの婚約者が私だから、私に恋してるはず、という図式かしら?
…………!
いいことを思いついた。
フランケンのこの勘違いを利用しない手はない。
「実は私ね、もっとレオンハルトに振り向いてほしいの。だから、私と一緒に裏庭に消えてくれない? そうしたらレオンハルトが追いかけてきて、愛情を確かめられるわ。フランケンの協力があれば、私とレオンハルトの愛はもっと深まるのよ? 協力して?」
フランケンは戸惑いながらも、
「そういうことでしたら……協力しましょう……。でも、あとから誤解は必ず解いてくださいね?」
私は両手をぱんと合わせ、
「じゃあ決まりね!」
と言うと、フランケンの手を握った。
フランケンはびくっとして手を離そうとしたけど、私は「演技よ、演技。よろしく頼むわね」と耳元でささやいた。
こくこくとうなずくフランケン。
レオンハルトの様子を確認すると、やはり私たちの様子に釘付けだった。
(作戦成功ね。これで裏庭まで行きつつ、あとはレオンハルトの弱点を聞き出せばいいわ)
そう、私の目的はあくまでレオンハルトにぎゃふんと言わせること。そのために、この茶番は必要なのよ。
私はフランケンの手を引いて、裏庭まで来た。何度来ても素晴らしい場所。色とりどりの薔薇が咲いていて、”薔薇男爵”の管理の行き届き具合が見て取れる。
フランケンは「あれ……おかしいですね」と、来た道を幾度も振り返る。
「待っても来ないわよ。好かれていないんだから」
レオンハルトが追ってくるはずなんてない。彼はただただ女から女へ渡り歩くだけの男。結婚も、家の繁栄のための手段で、それ以上でもそれ以下でもない。妻としての私は、所詮お飾り。
「薔薇を見ましょ。あなた、薔薇は好きなの?」
健気に私の手を握ったままのフランケンは「はい。とても」と答えた。
フランケンの薔薇好きは本物で、一緒に眺めるとそれぞれの品種まで言うことができた。記憶力がとてもいいらしく、美しいものを美しいとみる感性もあった。
「何色の薔薇が好き?」
「青色です」
「私も!」
好きな薔薇の色まで同じだった。一緒に薔薇を眺め、庭の木々に目をやり、植物についてお喋りした。私は薔薇も好きだけど植物全般が好きなので、博学のフランケンといると刺激的だった。
フランケンは突然かがんで花壇を見た。
「フランケン、どうしたの?」
「ここを見てください」
フランケンが指先で柔らかく包んでいたのは、四つ葉のクローバーだった。
「よく見つけたわね」
懐かしかった。子どもの頃はよく探していた。
四つ葉のクローバーを見つけて嬉しそうにしているフランケンを見ていると、誰が彼を”怪物”だなんて呼んでいるのだろうと思った。
「ねえフランケン」
四つ葉のクローバーに注がれていたフランケンの視線が、私の視線と重なり合う。
「なんでしょう? エリーゼ様」
「私のものになって」
「どうして? 私といるのは嫌?」
ときいた。
するとフランケンは「いえいえ! とんでもございません。でも……」と歯切れが悪かった。やはりちらちらとレオンハルトを見ている。私もレオンハルトを見ると、目が合った。
(なるほど……私がレオンハルトの婚約者だから、気を遣っているのね)
「フランケン。レオンハルトのことは気にしなくていいのよ。あいつは私のことなんてなんとも思っていないんだから。今だって両脇の女たちにデレデレしてるし」
「いえ、やはり二人きりで裏庭に行くのはまずいです……なぜなら……」
フランケンは言いかけてやめた。
こういうのが一番気になる。
「なに? はっきり言って?」
私はフランケンの顔の正面までぐいっと顔を近づけて、圧をかけた。フランケンはぱっと顔をそらし、言いにくいことを告白するように言った。
「レオンハルト様は、エリーゼ様のことがお好きだからです」
「……はあ?」
フランケンは何を言っているの。レオンハルトが私のことを好きなはずないじゃない。まあ……フランケンだって恋愛経験が豊富なわけじゃなさそうだし……。レオンハルトの婚約者が私だから、私に恋してるはず、という図式かしら?
…………!
いいことを思いついた。
フランケンのこの勘違いを利用しない手はない。
「実は私ね、もっとレオンハルトに振り向いてほしいの。だから、私と一緒に裏庭に消えてくれない? そうしたらレオンハルトが追いかけてきて、愛情を確かめられるわ。フランケンの協力があれば、私とレオンハルトの愛はもっと深まるのよ? 協力して?」
フランケンは戸惑いながらも、
「そういうことでしたら……協力しましょう……。でも、あとから誤解は必ず解いてくださいね?」
私は両手をぱんと合わせ、
「じゃあ決まりね!」
と言うと、フランケンの手を握った。
フランケンはびくっとして手を離そうとしたけど、私は「演技よ、演技。よろしく頼むわね」と耳元でささやいた。
こくこくとうなずくフランケン。
レオンハルトの様子を確認すると、やはり私たちの様子に釘付けだった。
(作戦成功ね。これで裏庭まで行きつつ、あとはレオンハルトの弱点を聞き出せばいいわ)
そう、私の目的はあくまでレオンハルトにぎゃふんと言わせること。そのために、この茶番は必要なのよ。
私はフランケンの手を引いて、裏庭まで来た。何度来ても素晴らしい場所。色とりどりの薔薇が咲いていて、”薔薇男爵”の管理の行き届き具合が見て取れる。
フランケンは「あれ……おかしいですね」と、来た道を幾度も振り返る。
「待っても来ないわよ。好かれていないんだから」
レオンハルトが追ってくるはずなんてない。彼はただただ女から女へ渡り歩くだけの男。結婚も、家の繁栄のための手段で、それ以上でもそれ以下でもない。妻としての私は、所詮お飾り。
「薔薇を見ましょ。あなた、薔薇は好きなの?」
健気に私の手を握ったままのフランケンは「はい。とても」と答えた。
フランケンの薔薇好きは本物で、一緒に眺めるとそれぞれの品種まで言うことができた。記憶力がとてもいいらしく、美しいものを美しいとみる感性もあった。
「何色の薔薇が好き?」
「青色です」
「私も!」
好きな薔薇の色まで同じだった。一緒に薔薇を眺め、庭の木々に目をやり、植物についてお喋りした。私は薔薇も好きだけど植物全般が好きなので、博学のフランケンといると刺激的だった。
フランケンは突然かがんで花壇を見た。
「フランケン、どうしたの?」
「ここを見てください」
フランケンが指先で柔らかく包んでいたのは、四つ葉のクローバーだった。
「よく見つけたわね」
懐かしかった。子どもの頃はよく探していた。
四つ葉のクローバーを見つけて嬉しそうにしているフランケンを見ていると、誰が彼を”怪物”だなんて呼んでいるのだろうと思った。
「ねえフランケン」
四つ葉のクローバーに注がれていたフランケンの視線が、私の視線と重なり合う。
「なんでしょう? エリーゼ様」
「私のものになって」
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