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アーティファクト1
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僕に呼び出された《氷狼》は、目の前にいた女性の首筋にかみつき、悲鳴を上げる隙もなく殺した。周囲からざわめく声が聞こえる。突如、ゴーレムが出現したのだから驚いているのだろう。
アミーユお嬢様にとって切り札でもあるあーティファクトは、一見すると普通の宝石に見えるよう偽装し、さらに服の裏側に隠していた。誘拐されてからも常に持っていたのだ。
隠し通せていたとは思っていたけどけど、正直少し不安だった。上手くいってよかったと思う。
首を咥えている《氷狼》に向かって魔術が殺到するが、大きく跳躍して回避。天井に張り付き、地面の代わりに蹴って強襲する。
「く、くるな!!!」
低く、年老いた声が聞こえた。
もしかしたら命乞いをしたかったのかもしれないけど、《氷狼》の爪で切り裂かれていたので、最後の言葉を聞くことは出来なかった。まぁ、お前たちがやったことを思い返せよと思う。絶対に許せるわけないよね。
さて、僕を狙う余裕はなさそうだし、残った3人は《氷狼》に任せることにした。
立体的な動きで魔術師をほんろうしている《氷狼》から視線を外すと、正面に立つレオをにらみ付けた。
こちらの反撃を見ているばかりで、助けるどころか動き出すそぶりすらない。余裕の笑みは崩れていなかった。
「何か企んでいると思っていたけど、アーティファクトか。なかなか趣があることをするね。あれは、君が用意したのかな?」
レオは、誰かが放った≪魔力弾≫を跳ね返す≪氷狼≫を指さした。
僕が何かすることに気づいていて、それでも傍観していたのか。
全てを見透かしているような態度に、苛立つより前に恐怖感を覚える。どこまでレオの計算なのか? 自ら考えて最適な行動してきたつもりだけど、全て誘導されたのではないかと、不安にかられる。
正解を選んだのか、それとも罠にはまってしまったのか、まだ答えはでないけど、それでも、一つだけ確かなことがある。
「アミーユお嬢様を返してもらうぞ」
僕の腕の中に感じるぬくもり、呼吸音が、じんわりと伝わり、心に安堵が広がる。触ったときに確認したけど、ダミーでもなければ、ゴーレムでしたというオチでもない。間違いなく本人だ。
レオが何を企んでいるか分からないけど、アミーユお嬢様に再会できた事実だけは揺るぎようがない。
「ふむ、それは少し困ります。彼女はここで生け贄になってもらいたいので」
「そのために今まで生かしていた、と?」
レオは小さく頷く。
「準備は既に終わっています。君がここから連れ出しても彼女の運命は変わりません」
連れ出しても変わらない? 強がりを! と、否定するのは簡単だけど、レオが嘘を言っているようには思えなかった。
この世界に遠距離から呪い殺すような魔術はない。最低でも目視できなければ、狙いを定めることが出来ないはず。だから、ここから脱出できれば、安全は確保できると思っていたんだけど、レオの態度が気になる。何か見落としているのかもしれない。
狙いが必要の無い魔術を開発したのか? それとも秘匿された魔術? その可能性は十分考えられるけど、それだと予想のしようがない。せめて禁忌の魔じゅ……まさか!
「アミーユお嬢様を魔術陣の一部にしたのか!!!」
「正解です。君ならたどり着いてくれると思っていました」
パチパチと手をたたく乾いた音が、僕の神経を逆なでする。
「アミーユお嬢様は召喚の魔術陣の一部になってもらいいました」
魔術陣の一部として人を使う方法は、禁忌として有名な魔術の一つだ。
「魔術陣を起動させると――」
人と魔術陣との間に見えない線で結ばれ、魔術陣が起動すると魔力が吸い取られてしまい、最後は必ず絶命してしまう。遠距離から発動できるので、魔術陣を壊すしか逃げ道はない。
「殺す手間が省けるなんて、効率だとおもいませんか?」
人の命を、そんな軽々しく扱うなんてっ!!
もう、限界だよ。父さん、ルッツさん、スラム街の人たち、多くの人が犠牲になってきた。もう、やめようよ。そんな世界。
なんで、お前たちはそんなことが出来るんだよっ!
自分都合のためだけに他人の命を消費するなんて、許してはいけない。彼らの計画を阻止してやるっ。
「アミーユお嬢様の魔力を使って、御使いを召喚するのが目的か?」
「御使い? あぁ、襲撃犯から聞いたのですね。せっかくだから、君には本当のことを教えてあげましょう」
「なぜ、僕に?」
「君ほどの付与師が仲間にいたら便利ですから。勧誘だと思ってください」
「アミーユお嬢様を誘拐したお前らに手を貸すとでも?」
「まぁ、まぁ、まずは話を聞いてください」
僕の気持ちを置いてきぼりにして、一呼吸置いてから、レオが話を続ける。
「ところで、歴史には詳しいですか?」
「ヴィクタール公国の?」
無視することもできたけど、レオの考えを知るために返事をした。
隣の大陸にあるドングール王国の公爵領だったのが、百年ほど前に独立してヴィクタール公国になった。
ここが島国だからできた荒技なんだけど、その時の禍根は今も続いている。この前の戦争も奪われた領土を取り戻すという目的で、ドングール王国が攻めてきたのが原因だ。
でも、どうやら、レオの視点はもっと広いみたいだ。
「いや、この世界です」
古い文献はいくつか読んだことがあるけど、主に魔術方面だったのと、一般市民は世界史を学ぶ機会がないので、僕はこの方面については無知だ。
「ほとんど知らない」
「かこの魔術や付与は?」
「現在では再現不可能なアーティファクトによって高度な文明が築かれていた。ってことぐらいかな」
僕はアーティファクトを作れるようになったけど、それはまだ隠しているので、一般的な回答はこれで問題ない。一般市民としては模範解答なはずだ。
「不思議に思ったことはありませんか? 現在の文明では再現不可能なアーティファクトがあるなんて」
業腹だけど、同じことを何度も思ったことがある。
魔術や付与の文献はいくつも読んできた。そのどれもが、数千年も前の文明は今より高度で、魔物をペットのように扱っていたと書かれている。出土した古代の美術品や、アーティファクトとから裏付けるような証拠も出ているので、大凡正しいのだろう。
でも不思議なことに、共通して文明が崩壊した理由は不明となっている。
アーティファクトの暴走、魔物の反乱、戦争、氷河期の到来、様々な仮説はある。一般的には戦争で衰退したと言われているけど、決定づける証拠がない。たかが戦争で文明がはかいされるなんて現実的ではないと、反論する人も結構な数いるらしい。
核兵器を使った世界大戦をイメージすれば、十分な説得力はあるんだけどね。
「僕も付与師の端くれだ。当然、ある」
僕が手に入る情報は、どんなに頑張っても一般市民レベルで終わりだ。貴族階級のレオなら、未公開の情報に触れてても不思議ではない。
この場で隠されていた真実をを公表する気なのだろうか?
「そう答えてくれると思っていました。今すぐにでも答えを披露したいところだけど……その前に≪火蜥蜴≫、私を守りなさいっ!」
レオが赤い宝石を上空に投げると、蜥蜴の形をした火のゴーレムが出現した。
「ゴーレム系のアーティファクトは便利で良いですよね。私も一つ、愛用しています」
火蜥蜴は、口を開けるとレオの背後に向けて、サッカーボールほどの大きさの火の玉を吐いた。壁に当たると小さく爆発、炸裂音が室内に木霊する。
「君の氷狼に邪魔されたくないから、護衛として使わせてもらうよ」
手下を全滅させ、背後から忍び寄っていた氷狼に気づいていたのか。
レオを守るように火蜥蜴の尻尾が絡みつく。
油断しているように見えて、隙がない。
「さて、さきほどの疑問は正しい。そんな優れた技術があれば、後世に伝わっていない方が不自然だ」
「戦争で失われたというのが一般的な見解だったはずだけど?」
「戦争と、ひとくくりにするのであれば、間違ってはいませんが……君がイメージしている戦争とは大きく違います」
聴衆が足りないと、死体にも語りかけるように、レオは胸を張り両手を挙げて静かに語る。
「人は一度、生存競争に負けたんですよ」
アミーユお嬢様にとって切り札でもあるあーティファクトは、一見すると普通の宝石に見えるよう偽装し、さらに服の裏側に隠していた。誘拐されてからも常に持っていたのだ。
隠し通せていたとは思っていたけどけど、正直少し不安だった。上手くいってよかったと思う。
首を咥えている《氷狼》に向かって魔術が殺到するが、大きく跳躍して回避。天井に張り付き、地面の代わりに蹴って強襲する。
「く、くるな!!!」
低く、年老いた声が聞こえた。
もしかしたら命乞いをしたかったのかもしれないけど、《氷狼》の爪で切り裂かれていたので、最後の言葉を聞くことは出来なかった。まぁ、お前たちがやったことを思い返せよと思う。絶対に許せるわけないよね。
さて、僕を狙う余裕はなさそうだし、残った3人は《氷狼》に任せることにした。
立体的な動きで魔術師をほんろうしている《氷狼》から視線を外すと、正面に立つレオをにらみ付けた。
こちらの反撃を見ているばかりで、助けるどころか動き出すそぶりすらない。余裕の笑みは崩れていなかった。
「何か企んでいると思っていたけど、アーティファクトか。なかなか趣があることをするね。あれは、君が用意したのかな?」
レオは、誰かが放った≪魔力弾≫を跳ね返す≪氷狼≫を指さした。
僕が何かすることに気づいていて、それでも傍観していたのか。
全てを見透かしているような態度に、苛立つより前に恐怖感を覚える。どこまでレオの計算なのか? 自ら考えて最適な行動してきたつもりだけど、全て誘導されたのではないかと、不安にかられる。
正解を選んだのか、それとも罠にはまってしまったのか、まだ答えはでないけど、それでも、一つだけ確かなことがある。
「アミーユお嬢様を返してもらうぞ」
僕の腕の中に感じるぬくもり、呼吸音が、じんわりと伝わり、心に安堵が広がる。触ったときに確認したけど、ダミーでもなければ、ゴーレムでしたというオチでもない。間違いなく本人だ。
レオが何を企んでいるか分からないけど、アミーユお嬢様に再会できた事実だけは揺るぎようがない。
「ふむ、それは少し困ります。彼女はここで生け贄になってもらいたいので」
「そのために今まで生かしていた、と?」
レオは小さく頷く。
「準備は既に終わっています。君がここから連れ出しても彼女の運命は変わりません」
連れ出しても変わらない? 強がりを! と、否定するのは簡単だけど、レオが嘘を言っているようには思えなかった。
この世界に遠距離から呪い殺すような魔術はない。最低でも目視できなければ、狙いを定めることが出来ないはず。だから、ここから脱出できれば、安全は確保できると思っていたんだけど、レオの態度が気になる。何か見落としているのかもしれない。
狙いが必要の無い魔術を開発したのか? それとも秘匿された魔術? その可能性は十分考えられるけど、それだと予想のしようがない。せめて禁忌の魔じゅ……まさか!
「アミーユお嬢様を魔術陣の一部にしたのか!!!」
「正解です。君ならたどり着いてくれると思っていました」
パチパチと手をたたく乾いた音が、僕の神経を逆なでする。
「アミーユお嬢様は召喚の魔術陣の一部になってもらいいました」
魔術陣の一部として人を使う方法は、禁忌として有名な魔術の一つだ。
「魔術陣を起動させると――」
人と魔術陣との間に見えない線で結ばれ、魔術陣が起動すると魔力が吸い取られてしまい、最後は必ず絶命してしまう。遠距離から発動できるので、魔術陣を壊すしか逃げ道はない。
「殺す手間が省けるなんて、効率だとおもいませんか?」
人の命を、そんな軽々しく扱うなんてっ!!
もう、限界だよ。父さん、ルッツさん、スラム街の人たち、多くの人が犠牲になってきた。もう、やめようよ。そんな世界。
なんで、お前たちはそんなことが出来るんだよっ!
自分都合のためだけに他人の命を消費するなんて、許してはいけない。彼らの計画を阻止してやるっ。
「アミーユお嬢様の魔力を使って、御使いを召喚するのが目的か?」
「御使い? あぁ、襲撃犯から聞いたのですね。せっかくだから、君には本当のことを教えてあげましょう」
「なぜ、僕に?」
「君ほどの付与師が仲間にいたら便利ですから。勧誘だと思ってください」
「アミーユお嬢様を誘拐したお前らに手を貸すとでも?」
「まぁ、まぁ、まずは話を聞いてください」
僕の気持ちを置いてきぼりにして、一呼吸置いてから、レオが話を続ける。
「ところで、歴史には詳しいですか?」
「ヴィクタール公国の?」
無視することもできたけど、レオの考えを知るために返事をした。
隣の大陸にあるドングール王国の公爵領だったのが、百年ほど前に独立してヴィクタール公国になった。
ここが島国だからできた荒技なんだけど、その時の禍根は今も続いている。この前の戦争も奪われた領土を取り戻すという目的で、ドングール王国が攻めてきたのが原因だ。
でも、どうやら、レオの視点はもっと広いみたいだ。
「いや、この世界です」
古い文献はいくつか読んだことがあるけど、主に魔術方面だったのと、一般市民は世界史を学ぶ機会がないので、僕はこの方面については無知だ。
「ほとんど知らない」
「かこの魔術や付与は?」
「現在では再現不可能なアーティファクトによって高度な文明が築かれていた。ってことぐらいかな」
僕はアーティファクトを作れるようになったけど、それはまだ隠しているので、一般的な回答はこれで問題ない。一般市民としては模範解答なはずだ。
「不思議に思ったことはありませんか? 現在の文明では再現不可能なアーティファクトがあるなんて」
業腹だけど、同じことを何度も思ったことがある。
魔術や付与の文献はいくつも読んできた。そのどれもが、数千年も前の文明は今より高度で、魔物をペットのように扱っていたと書かれている。出土した古代の美術品や、アーティファクトとから裏付けるような証拠も出ているので、大凡正しいのだろう。
でも不思議なことに、共通して文明が崩壊した理由は不明となっている。
アーティファクトの暴走、魔物の反乱、戦争、氷河期の到来、様々な仮説はある。一般的には戦争で衰退したと言われているけど、決定づける証拠がない。たかが戦争で文明がはかいされるなんて現実的ではないと、反論する人も結構な数いるらしい。
核兵器を使った世界大戦をイメージすれば、十分な説得力はあるんだけどね。
「僕も付与師の端くれだ。当然、ある」
僕が手に入る情報は、どんなに頑張っても一般市民レベルで終わりだ。貴族階級のレオなら、未公開の情報に触れてても不思議ではない。
この場で隠されていた真実をを公表する気なのだろうか?
「そう答えてくれると思っていました。今すぐにでも答えを披露したいところだけど……その前に≪火蜥蜴≫、私を守りなさいっ!」
レオが赤い宝石を上空に投げると、蜥蜴の形をした火のゴーレムが出現した。
「ゴーレム系のアーティファクトは便利で良いですよね。私も一つ、愛用しています」
火蜥蜴は、口を開けるとレオの背後に向けて、サッカーボールほどの大きさの火の玉を吐いた。壁に当たると小さく爆発、炸裂音が室内に木霊する。
「君の氷狼に邪魔されたくないから、護衛として使わせてもらうよ」
手下を全滅させ、背後から忍び寄っていた氷狼に気づいていたのか。
レオを守るように火蜥蜴の尻尾が絡みつく。
油断しているように見えて、隙がない。
「さて、さきほどの疑問は正しい。そんな優れた技術があれば、後世に伝わっていない方が不自然だ」
「戦争で失われたというのが一般的な見解だったはずだけど?」
「戦争と、ひとくくりにするのであれば、間違ってはいませんが……君がイメージしている戦争とは大きく違います」
聴衆が足りないと、死体にも語りかけるように、レオは胸を張り両手を挙げて静かに語る。
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