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ヴィクタール公国の現状
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普段通りに手を軽く上げて挨拶した兄さんは、何事もなかったかのように館を去る。ダモンさんは無言で、エミリーさん、ナナリーさんは、小さく手を振って別れの挨拶をした。
「アミーユお嬢様、一緒に行きましょうか」
「はい!」
見送った僕らは、リア様の部屋に向かって一緒に歩き始めた。
厚手の絨毯の上を歩いて部屋の前に到着すると、アミーユお嬢様がドアをノックする。
ガチャリと音を立ててドアが開くと、メイド服を着た黒髪の女性が通路に出てきた。おそらく、リア様専属のメイドさんだろう。
「こんにちは。お母様はいらっしゃる?」
「リア様は中でお待ちです」
「クリス先生も一緒で良い?」
メイドさんの視線が、一瞬だけ僕に移り、すぐアミーユお嬢様に戻った。
「……問題ないと思います」
返事を聞いたアミーユお嬢様が僕の顔を見上げる。
予定通りにことが進んで嬉しそうだ。
黒髪のメイドさんは反転すると、室内へと戻る。
「アミーユお嬢様とクリス様をご案内しました」
メイドさんの後を追って、アミーユお嬢様と僕が部屋に入った。
アミーユお嬢様付きのメイドであるカルラさんとメイさんは、部外者なので入り口で待機だ。
部屋の中は花の甘い匂いが漂っていた。
壁に掛けられた絵画、ティーカップの置かれたテーブル。調度品は少ないけど、一つ一つの質は高そうに見える。
「今はプライベートの時間です。堅苦しい礼儀は、忘れて良いわ」
声をかけてくれたリア様は、部屋の中心にあるソファーに座っている。ティーカップが手にあるので、先ほどまでお茶をのでいたようだ。
「はい!」
リア様の言葉に、アミーユお嬢様が元気よく返事をした。僕は軽く会釈をする程度だ。向かい側に置かれているソファーにアミーユお嬢様が座り、僕もそれに続く。
すぐに黒髪のメイドさんが二人分のお茶を入れると、ティーカップをテーブルの上に置く。そのまま音を立てずに歩くと、リア様の後ろに控えた。
身にこなしからして、武術は学んでいるように思える。襲撃事件もあったんだし、もしかしたらリア様の護衛も兼ねているのかもしれない。
「アミーユは、元気そうで何より。クリスは休暇を楽しみましたか?」
「学びの多い、有意義な休暇でした」
「学び……ヘルセに行くまでに色々と見てきたようね」
「はい。今まで見ていた世界が、いかに小さかったか、思い知らされました」
「では、それを教えてもらえるかしら?」
「…………」
リア様の質問にどうやって答えるべきか悩んでしまい、言葉に詰まる。
素直に感想を述べれば、それは公爵家への批判につながる。とはいって、国家運営の手腕を褒める気にはならなかった。
日本人の得意技、玉虫色の回答をするのが無難だろう。さて、何て言おうか……。
「ここで見聞きしたことは他言しません。思い、感じたままの感想を聞かせてね」
僕が沈黙した理由を正確に理解していたリア様が、先ほどの発言に説明を付け足す。先ほどまで親しみやすかったリア様の空気が一変。優しい言葉とは反対に、上に立つ人間としての威厳を放っていた。
「お母様?」
アミーユお嬢様も雰囲気が変わったことに気づいたのだろう。
僕とリア様を交互に見ながら戸惑っている。
「今日、アミーユを呼んだ理由にもつながります。しっかりと聞くように」
他言しない、感じたまま、か。
この流れだと、誤魔化したら不興を買いそうだ。覚悟を決めて、キッチリと話すべきだろう。
「……分かりました」
リア様とアミーユお嬢様に見つめられた僕は、大きく息を吐いてから口を開いた。
「私が旅で見たのは、貧困にあえぎ、モンスターの襲撃におびえて日々を過ごしている人々の姿でした。復興の税金によって所持金が減り、ハンターを雇えなくなる。その危険度は、首都のスラム街より悪いと感じました」
日本では衣食住が大切と言われていた。その「住」の安全性が脅かされている。そして真綿で首を絞めるようにして、食料の生産が減り「食」も危うい。
人間が生きていくために必要な要素の2つが欠け始めているのだ。
このまま状況が改善されなければ……。
「先生……それは本当なんですか?」
アミーユお嬢様の驚いた声で、僕の思考が中断された。
「クリスが言っていることは事実よ」
「お母様、助けてあげられないんですか?」
「私も今すぐ助けてあげたいと思うけど、そうするにはこの国は疲れ切ってしまっているの」
そう言ったリア様は悲しみを含んだ瞳をしていた。
「きっかけは数年前の戦争ね。大陸からの侵略軍は強かった。彼らの国内でモンスターの大氾濫が発生していなければ、間違いなく負けていた。人類の敵に助けられるなんて、皮肉なものね」
圧倒的な物量差によって、次々と撤退を余儀なくされる公国軍。占拠された場所は一度も取り返すこともできず、首都が包囲されるのも時間の問題だった。そんな時、大陸側でモンターが、各都市を襲う事件が同時多発的に発生。一部の国では、首都が陥落するほど凄惨な状況だったらしい。
帰る家が襲われているんだ。当然、士気なんて上がらない。侵略戦争を続ける余裕なんてなかった。驚くべき速さで全軍がヴィクタール公国から撤退すると、負けが決まっていた僕たちの国は守られた。
「運良く守られたけど、亡くなってしまった人、壊れてしまった建物、荒れた土地は戻ってこない。でも、戦争で国庫は底をついて、復旧のめどが立たない。もちろん、借りられるところからは、借りたわ。それでも足りない……だから増税したの」
戦争に勝てば、莫大なお金が手に入った。でも勝者のいない戦争は違う。壊されたものを元に戻すためには、国庫から資金を捻出しなければいけない。
またこの世界では、傭兵を雇って戦争をする。一応、常備軍――騎士団もいるが、その数は多くない。モンスター退治はハンターが請け負っているので、仕事がないからだ。
戦争が始まれば傭兵を雇う費用で金は溶けていく。劣勢であればなおさらだ。その結果、国としての体制を維持するのが難しくなるほど、金をばらまくしかなかった。
「当初の計画なら、増税してもなんとかなるはずだった。でも終戦から、モンスターが急増して、ハンターの費用が増えている。絶妙なバランスで考えた計画が、一気に崩れたわ」
ハンターギルドは国営だ。報酬は依頼者と国が折半している。ハンターの報酬が銀貨十枚であれば、依頼者が銀貨五枚、国が銀貨五枚を負担することになる。
あたりまえだけど、モンスターが急増して依頼が増えると、その分だけ公国の出費も増えるのだ。大氾濫が発生していないだけマシだけど、疲弊しきった公国には決定打だったんだろう。
「追い詰められた私たちは、全てを救うことを諦めたわ。数の少ない騎士団で主要都市を守り、それ以外の場所は、国からの資金的な援助を止めて、自力でモンスターを撃退する方針に切り替えたのよ」
「リア様、それは……」
「クリスの言いたいことは、分かっているつもり」
モンスターや他国から守ってくれるからこそ、村や街の住人は公国に所属して税金を払っている。その前提が、崩れようとしている。
これは見過ごして良い問題ではない。その先に待っているのは内戦だからだ。
「でも、魔術師しか取り柄のない私と結婚して、国民の支持を得ようとするぐらい、公国は追い詰められているのよ」
そうか! 子持ちのリア様が再婚した理由が分かったぞ! 公爵家の身内が、モンスター討伐をしていると、国民に印象付けるためだったのか!
僕が知る限り、公爵様の狙い通りの効果は出ている。けどそれは、首都カイル内だけ。地方では、金だけとって、脅威から守ってくれない。そんな評価が蔓延している。
「だから、二度にわたる特殊個体の討伐は、有効に活用させてもらった。良い宣伝になったわ」
特殊個体の脅威は、誰もが知るところだからね。それを騎士が守ったとなれば、嫌でも評判は上がる。特にオーガーの特殊個体を討伐したときは、ハンターが一度全滅しているから、戦争によって低下した騎士団に対する信頼も回復してそうだ。
「それに、地方は助けてもらえないと恨んでいるけど、騎士を増員してから遠征させれば解決よ」
「兄さんたちのことですね」
リア様はうなずくことで、僕の発言を肯定した。
今までは、有力な家系の子供を従者として迎え入れて、鍛えた後、騎士に昇格させていた。
けど、ここ最近は違う。兄さんみたいに有能なハンターをスカウトして入団させている。今までその意図が理解できなかったけど、ようやくわかった。遠征用としての使うのが目的か。確かに対モンスターは彼らの専門分野だ。人材の配置としては間違っていない。
それは失われ続けている「住」への安全を取り戻すのに必要なことだ。
今のところ僕は、リア様の方針は間違っていないように思える……人員を揃えるのに時間がかかるという点を除けばね。
「その遠征は、いつになりますか?」
「……半年後ね。モンスターの被害が減るのは、さらに数年は必要よ」
やっぱり時間がかかるか。モンスターの脅威にさらされている彼らは、待ってくれるだろうか? たぶん無理だろう……。
「その顔、不満そうね。遅いって言いたいのでしょ? 公爵家のパーティーが襲撃されるほど事態が悪化しているということぐらい、わかっているつもり」
「では、どうするのですか?」
「復興を進めなければ物の生産は減ったままだし、最悪、物流も止まる。増税は止められない。仕方がないけど、反抗的な組織を潰し回って、時間を稼ぐしか方法がないの」
内戦が勃発しそうな火種を、無理矢理、消して回るつもりなのか。でもそれが激化すれば、恐怖政治につながる。そうなったら公爵家が滅ぶまで止められないし、行き着く先は破滅だ。
本当にリア様は、暴力的な方法で内戦を防ごうとしているのだろうか?
優しいアミーユお嬢様は耐えられるのだろうか?
そして僕は、そんな公国を許せるだろうか……。
「だから、今回の襲撃犯は見せしめとして絶対に捕まえる。どんな手段を使ったとしてもね」
そう宣言したリア様の声は、ひどく冷たいものだった。
「アミーユお嬢様、一緒に行きましょうか」
「はい!」
見送った僕らは、リア様の部屋に向かって一緒に歩き始めた。
厚手の絨毯の上を歩いて部屋の前に到着すると、アミーユお嬢様がドアをノックする。
ガチャリと音を立ててドアが開くと、メイド服を着た黒髪の女性が通路に出てきた。おそらく、リア様専属のメイドさんだろう。
「こんにちは。お母様はいらっしゃる?」
「リア様は中でお待ちです」
「クリス先生も一緒で良い?」
メイドさんの視線が、一瞬だけ僕に移り、すぐアミーユお嬢様に戻った。
「……問題ないと思います」
返事を聞いたアミーユお嬢様が僕の顔を見上げる。
予定通りにことが進んで嬉しそうだ。
黒髪のメイドさんは反転すると、室内へと戻る。
「アミーユお嬢様とクリス様をご案内しました」
メイドさんの後を追って、アミーユお嬢様と僕が部屋に入った。
アミーユお嬢様付きのメイドであるカルラさんとメイさんは、部外者なので入り口で待機だ。
部屋の中は花の甘い匂いが漂っていた。
壁に掛けられた絵画、ティーカップの置かれたテーブル。調度品は少ないけど、一つ一つの質は高そうに見える。
「今はプライベートの時間です。堅苦しい礼儀は、忘れて良いわ」
声をかけてくれたリア様は、部屋の中心にあるソファーに座っている。ティーカップが手にあるので、先ほどまでお茶をのでいたようだ。
「はい!」
リア様の言葉に、アミーユお嬢様が元気よく返事をした。僕は軽く会釈をする程度だ。向かい側に置かれているソファーにアミーユお嬢様が座り、僕もそれに続く。
すぐに黒髪のメイドさんが二人分のお茶を入れると、ティーカップをテーブルの上に置く。そのまま音を立てずに歩くと、リア様の後ろに控えた。
身にこなしからして、武術は学んでいるように思える。襲撃事件もあったんだし、もしかしたらリア様の護衛も兼ねているのかもしれない。
「アミーユは、元気そうで何より。クリスは休暇を楽しみましたか?」
「学びの多い、有意義な休暇でした」
「学び……ヘルセに行くまでに色々と見てきたようね」
「はい。今まで見ていた世界が、いかに小さかったか、思い知らされました」
「では、それを教えてもらえるかしら?」
「…………」
リア様の質問にどうやって答えるべきか悩んでしまい、言葉に詰まる。
素直に感想を述べれば、それは公爵家への批判につながる。とはいって、国家運営の手腕を褒める気にはならなかった。
日本人の得意技、玉虫色の回答をするのが無難だろう。さて、何て言おうか……。
「ここで見聞きしたことは他言しません。思い、感じたままの感想を聞かせてね」
僕が沈黙した理由を正確に理解していたリア様が、先ほどの発言に説明を付け足す。先ほどまで親しみやすかったリア様の空気が一変。優しい言葉とは反対に、上に立つ人間としての威厳を放っていた。
「お母様?」
アミーユお嬢様も雰囲気が変わったことに気づいたのだろう。
僕とリア様を交互に見ながら戸惑っている。
「今日、アミーユを呼んだ理由にもつながります。しっかりと聞くように」
他言しない、感じたまま、か。
この流れだと、誤魔化したら不興を買いそうだ。覚悟を決めて、キッチリと話すべきだろう。
「……分かりました」
リア様とアミーユお嬢様に見つめられた僕は、大きく息を吐いてから口を開いた。
「私が旅で見たのは、貧困にあえぎ、モンスターの襲撃におびえて日々を過ごしている人々の姿でした。復興の税金によって所持金が減り、ハンターを雇えなくなる。その危険度は、首都のスラム街より悪いと感じました」
日本では衣食住が大切と言われていた。その「住」の安全性が脅かされている。そして真綿で首を絞めるようにして、食料の生産が減り「食」も危うい。
人間が生きていくために必要な要素の2つが欠け始めているのだ。
このまま状況が改善されなければ……。
「先生……それは本当なんですか?」
アミーユお嬢様の驚いた声で、僕の思考が中断された。
「クリスが言っていることは事実よ」
「お母様、助けてあげられないんですか?」
「私も今すぐ助けてあげたいと思うけど、そうするにはこの国は疲れ切ってしまっているの」
そう言ったリア様は悲しみを含んだ瞳をしていた。
「きっかけは数年前の戦争ね。大陸からの侵略軍は強かった。彼らの国内でモンスターの大氾濫が発生していなければ、間違いなく負けていた。人類の敵に助けられるなんて、皮肉なものね」
圧倒的な物量差によって、次々と撤退を余儀なくされる公国軍。占拠された場所は一度も取り返すこともできず、首都が包囲されるのも時間の問題だった。そんな時、大陸側でモンターが、各都市を襲う事件が同時多発的に発生。一部の国では、首都が陥落するほど凄惨な状況だったらしい。
帰る家が襲われているんだ。当然、士気なんて上がらない。侵略戦争を続ける余裕なんてなかった。驚くべき速さで全軍がヴィクタール公国から撤退すると、負けが決まっていた僕たちの国は守られた。
「運良く守られたけど、亡くなってしまった人、壊れてしまった建物、荒れた土地は戻ってこない。でも、戦争で国庫は底をついて、復旧のめどが立たない。もちろん、借りられるところからは、借りたわ。それでも足りない……だから増税したの」
戦争に勝てば、莫大なお金が手に入った。でも勝者のいない戦争は違う。壊されたものを元に戻すためには、国庫から資金を捻出しなければいけない。
またこの世界では、傭兵を雇って戦争をする。一応、常備軍――騎士団もいるが、その数は多くない。モンスター退治はハンターが請け負っているので、仕事がないからだ。
戦争が始まれば傭兵を雇う費用で金は溶けていく。劣勢であればなおさらだ。その結果、国としての体制を維持するのが難しくなるほど、金をばらまくしかなかった。
「当初の計画なら、増税してもなんとかなるはずだった。でも終戦から、モンスターが急増して、ハンターの費用が増えている。絶妙なバランスで考えた計画が、一気に崩れたわ」
ハンターギルドは国営だ。報酬は依頼者と国が折半している。ハンターの報酬が銀貨十枚であれば、依頼者が銀貨五枚、国が銀貨五枚を負担することになる。
あたりまえだけど、モンスターが急増して依頼が増えると、その分だけ公国の出費も増えるのだ。大氾濫が発生していないだけマシだけど、疲弊しきった公国には決定打だったんだろう。
「追い詰められた私たちは、全てを救うことを諦めたわ。数の少ない騎士団で主要都市を守り、それ以外の場所は、国からの資金的な援助を止めて、自力でモンスターを撃退する方針に切り替えたのよ」
「リア様、それは……」
「クリスの言いたいことは、分かっているつもり」
モンスターや他国から守ってくれるからこそ、村や街の住人は公国に所属して税金を払っている。その前提が、崩れようとしている。
これは見過ごして良い問題ではない。その先に待っているのは内戦だからだ。
「でも、魔術師しか取り柄のない私と結婚して、国民の支持を得ようとするぐらい、公国は追い詰められているのよ」
そうか! 子持ちのリア様が再婚した理由が分かったぞ! 公爵家の身内が、モンスター討伐をしていると、国民に印象付けるためだったのか!
僕が知る限り、公爵様の狙い通りの効果は出ている。けどそれは、首都カイル内だけ。地方では、金だけとって、脅威から守ってくれない。そんな評価が蔓延している。
「だから、二度にわたる特殊個体の討伐は、有効に活用させてもらった。良い宣伝になったわ」
特殊個体の脅威は、誰もが知るところだからね。それを騎士が守ったとなれば、嫌でも評判は上がる。特にオーガーの特殊個体を討伐したときは、ハンターが一度全滅しているから、戦争によって低下した騎士団に対する信頼も回復してそうだ。
「それに、地方は助けてもらえないと恨んでいるけど、騎士を増員してから遠征させれば解決よ」
「兄さんたちのことですね」
リア様はうなずくことで、僕の発言を肯定した。
今までは、有力な家系の子供を従者として迎え入れて、鍛えた後、騎士に昇格させていた。
けど、ここ最近は違う。兄さんみたいに有能なハンターをスカウトして入団させている。今までその意図が理解できなかったけど、ようやくわかった。遠征用としての使うのが目的か。確かに対モンスターは彼らの専門分野だ。人材の配置としては間違っていない。
それは失われ続けている「住」への安全を取り戻すのに必要なことだ。
今のところ僕は、リア様の方針は間違っていないように思える……人員を揃えるのに時間がかかるという点を除けばね。
「その遠征は、いつになりますか?」
「……半年後ね。モンスターの被害が減るのは、さらに数年は必要よ」
やっぱり時間がかかるか。モンスターの脅威にさらされている彼らは、待ってくれるだろうか? たぶん無理だろう……。
「その顔、不満そうね。遅いって言いたいのでしょ? 公爵家のパーティーが襲撃されるほど事態が悪化しているということぐらい、わかっているつもり」
「では、どうするのですか?」
「復興を進めなければ物の生産は減ったままだし、最悪、物流も止まる。増税は止められない。仕方がないけど、反抗的な組織を潰し回って、時間を稼ぐしか方法がないの」
内戦が勃発しそうな火種を、無理矢理、消して回るつもりなのか。でもそれが激化すれば、恐怖政治につながる。そうなったら公爵家が滅ぶまで止められないし、行き着く先は破滅だ。
本当にリア様は、暴力的な方法で内戦を防ごうとしているのだろうか?
優しいアミーユお嬢様は耐えられるのだろうか?
そして僕は、そんな公国を許せるだろうか……。
「だから、今回の襲撃犯は見せしめとして絶対に捕まえる。どんな手段を使ったとしてもね」
そう宣言したリア様の声は、ひどく冷たいものだった。
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