上 下
80 / 99

指揮官ですか。頑張ります

しおりを挟む
「村の防衛方針は決まったので、次はルビー鉱山奪還の詳細を詰めましょう。ベラトリックス、敵の配置はわかるか?」
「もちろん、と言いたいのですが鉱山の中までは確認できてません」

 使い魔はガラスでできた鳥を使っているので上空からの偵察は得意だが、閉鎖空間は少々苦手だ。

 正体がばれないように動いてたため詳細の情報は確認出来なかったのだろう。

「それでかまわない。頼む」

 こくりとうなずくと、ベラトリックスが情報を教えてくれる。

「鉱山の前には警備の兵らしき姿がありました。数は十ぐらいですが正確なことは不明、彼らを倒さなければ中には入れません」
「多少派手に暴れても中にいる相手には気づかれないか?」
「恐らく。ただし、一人でも見逃してしまえば仲間を呼ばれると思うので上手くやる必要があります」
「全滅させる必要があるか……ベラトリックスならできるだろ?」
「はい」

 魔法を使えば一瞬にして大勢を殺せる。

 これはベラトリックスの得意分野であるため、自信ありげに返事してくれた。

「敵を倒して入り口を突破した後は、坑道の中を進む必要はあるが……」

 助けを求めるようにして、俺はアイラを見る。

「地図はありますか?」
「半年前のでよければ」
「見せてください」

 引き出しから地図を取り出すと、デスクの上に広げてくれた。

 発見したばかりだからか、道はさほど複雑じゃない。地盤が緩い危険な箇所は記載されていて、思っていたよりも詳細な情報が手に入った。

「坑内に主犯がいるとしたら、この休憩所か?」

 奥へ進んだところに、大部屋が複数あった。

 仕事を終えた人たちが宿泊する場として用意したのだろう。ベッドだけじゃなく食料や水、採掘したばかりのルビー原石も一時的に保管される場所のようだ。貴重な物資が盗まれないか監視する意味でも集団の責任者はいるだろうと予想した。

「恐らくそうだと思います。現場監督もよく、そこにいましたから」

 であれば、予想は間違いないだろう。

「俺とベラトリックスは入り口の敵を殲滅した後、休憩所に居ると思われる主犯を捕縛、もしくは殺害してルビー鉱山を解放する。ヴァリィとトエーリエは村の警備を頼んだ」

 名前を呼んだ三人はうなずいてくれた。

「私は何をすれば良いですか?」

 一人だけ会話に入れず仕事を振られなかったテレサは、仲間はずれにされたと思ったようで不安そうな声をしていた。

 いつも四人で行動していたので彼女のことを忘れていた……。ごめん。悪いことをしてしまった。

「ヴァリィたちと村の警備をお願いできないか」
「ルビー鉱山への同行は……だめでしょうか……」

 正直なところ俺とベラトリックスがいれば戦力としては充分だ。そこにテレサが加わっても意味は無い。それよりも大軍が展開できる平原にある村の方が人は欲しい。今回ばかりは受け入れられなかった。

「ダメだ。計画は変えられない。理由は言わなくても分かるだろう?」
「……はい」
「私はポルンさんに同行しても良いですよね?」

 テレサを無理やり納得させたと思ったら、今度はアイラがとんでもないことを言いだした。

 何も考えずに発言する人じゃない。何か考えがあるのだろう。

「屋敷にいてもらう予定でした。なぜルビー鉱山へ行きたいのですか?」
「守られてばかりでは使用人たちに舐められてしまいます。当主代理としての功績が欲しいのです」

 バドロフ子爵を退けた後、俺たちはいなくなる。

 その時に、何の実績もないアイラは再び使用人たちに見くびられるだろう。

 下に見られて不正をする輩が出てくるかもしれない。いや、間違いなく出る。

 ヴォルデンク当主が毒で衰弱死するのが避けられないのであれば、力ある領主という分かりやすい功績は必要なのだ。なるほど、先のことを考えれば理解できる話だった。

「わかりました。アイラ様は指揮官として同行を許可しましょう。現場では私が指示を出しますが、それでいいですよね?」
「もちろんです」
「であれば決定です。護衛も兵を二人ほど追加で用意してください」

 活躍したという目撃者が必要なので兵の追加を依頼した。

 無事にルビー鉱山を奪い返せれば、指揮官として参加した領主の成果となる。実績が積めるようになるので、俺たちがいなくなったあとも使用人や兵がバカにすることは減るだろう。

「わかりました。私、頑張ります」

 小さく拳を握って気合いを入れていた。

「ポルン様と一緒……ぐやじぃ……」

 一方で同行を却下されたテレサは涙ぐみながら、ぶつぶつとつぶやいていた。

 負のオーラが出ているように感じて恐ろしくて声をかけられない。

 俺を神のように扱ってくるから付き合いにくいな。

 今は放置して話を進めよう。

「ルビー鉱山奪還作戦は明日から始めよう。今日中に準備を終わらせてくれ」

 パンと軽く手を叩いて合図するとベラトリックスとトエーリエはすぐに執務室から出て行った。ヴァリィに首根っこを掴まれたテレサもいなくなる。

 食料や必需品の買い出しに行ったのだろう。

 こういったことには慣れているので、半日もあれば終わるはずだ。

「護衛の人選や兵への命令、冒険者への依頼はアイラ様にお任せします」
「わかりました。今日中にすべて終わらせます。ですから、ルビー鉱山の奪還頼みましたよ」
「お任せください」

 胸に手を当てて騎士っぽい振る舞いをしたらアイラは満足してくれたようだ。良い笑顔になった。


 * * *


 俺――バドロフは執務室で仕事していると、高速移動を得意とする使い魔からの伝達によって、ルビー鉱山の襲撃と占拠が成功したとの連絡を受けた。

 それは当然だろう。切り札まで使ったのだから失敗された方が困る。

「朗報のようですね」

 笑みがこぼれていたのだろう。

 執務室のドア前で立っている金髪の男は、薄笑いを浮かべながら俺を見ていた。

「ルビー鉱山を占拠した」
「おめでとうございます。あの道具は役に立ったようですね」

 手を叩いて祝っているように見せているが、本心は違うことを思っているように思える。

 この男、ペルライルと名乗っていたが偽名だろう。出身や経歴、家族などすべてが不明の男ではあるが、人知れずヴォルデンク領内に必殺の兵器を運び込むだけでなく、便利な道具まで無償で提供した有能な人物だ。

「ああ。間違いなく役立ったぞ。村の方の襲撃もそろそろ始まる頃だ。長かった争いもこれで終わる」

 村まで破滅させられれば、ヴォルデンク家は領地を守る力がないと訴え、没落させられる。領地は空白になって一時的に王国直轄になってしまうのだが、金さえ積めば理由を付けて受け取れる手はずになっていた。

 あと一歩で領地が増える。我が家の繁栄はこれからだ。

「バドロフ子爵、わかってますよね?」
「むろんだ。俺は裏切らない。ヴォルデンク領が手に入れば報酬を渡そう」

 この男が求めているのは隣国で宰相をしているメルベルの情報だ。国の重鎮であるため知っていることは少ないが、それでも良いから欲しいと言われている。

 何を企んでいるのかわからないため普段なら断るのだが、ベルライルの持ち込んだ道具が有益だったので、とりあえず受け入れていた。

「期待しております」

 深く頭を下げるとベルライルは執務室から出て行ってしまった。

 しばらく間を置いてから息を吐く。

「気味の悪いやつだ」

 あの男は、事実が公になれば俺が失脚するほどの情報を持っている。

 生きていたら心の平穏が保てない。今回の襲撃が終わったら、情報を渡してから消す予定だ。

 これなら約束は守ったことになる。

 あの世で、メルベルについて教えてもらったことを感謝するんだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ロクさんの遠めがね ~我等口多美術館館長には不思議な力がある~

黒星★チーコ
ミステリー
近所のおせっかいおばあちゃんとして認知されているロクさん。 彼女には不思議な力がある。チラシや新聞紙を丸めて作った「遠めがね」で見ると、何でもわかってしまうのだ。 また今日も桜の木の下で出会った男におせっかいを焼くのだが……。 ※基本ほのぼの進行。血など流れず全年齢対象のお話ですが、事件物ですので途中で少しだけ荒っぽいシーンがあります。 ※主人公、ロクさんの名前と能力の原案者:海堂直也様(https://mypage.syosetu.com/2058863/)です。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

寝てても勝手にレベルアップ!? ~転生商人がゲーム知識で最強に!?~

月城 友麻
ファンタジー
 就活に失敗し、人生に絶望した主人公・ユータ。「楽して生きていけたらいいのに」と願いながら、ゲーム漬けのニート生活を送っていた彼は、ある日、不摂生がたたってあっさりと死んでしまう。 「まあ、こんな人生だったし」と諦めかけたその時、まぶしい光に包まれて美しい女性が現れる。それはなんと大学時代の憧れの先輩! どうやら彼女は異世界の女神様だったらしい。 「もったいないことして……。あなたにチャンスをあげる」  女神は、ユータに「鑑定スキル」を授けて異世界へと送り出した。  ユータは鑑定スキルを使って試行錯誤するうちに、勝手にレベルアップする【世界のバグ】を見つけてしまう。  どんどん勝手に強くなっていくユータだったが、なかなか人生上手くいかないものである。彼の前に立ちはだかったのは、この世界の英雄「勇者」だった。  イケメンで人気者の勇者。しかし、その正体は女性を食い物にする最低野郎。ユータの大切な人までもが勇者にさらわれてしまう。 「許さねえ...絶対に許さねえぞ、このクソ勇者野郎!」  こうして、寝るだけで最強になったニート転生者と、クソ勇者の対決の幕が上がった――――。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

処理中です...