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第50話 さあ、ポルン様も――
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ベラトリックスたちが借りているホテルの部屋に入った。リビングがあり5つの寝室につながっている。よく貴族が使うらしく、装飾は豪華だ。金の皿なんて初めて見たぞ。
テーブルを囲むようにソファが設置されていて、俺は最奥の偉い人が座る場所に座らされる。隣にベラトリックス、左前にヴァリィとトエーリエ、右前にテレサというポジションだ。
身分で言えばトエーリエやヴァリィの方が高いので居心地がわるい。
誰か変わってくれないかな。
「床に座っても良いか?」
「馬鹿なこと言わないでください。ポルン様は、その位置にいるのが当然の方なんです」
提案はトエーリエに否定されてしまった。どうやら今でも俺を上位者として扱ってくれるらしい。
地位とかではなく、今まで積み上げてきた実績を見てくれているのだろう。もしくは願望か? 良いのか悪いのか判断はつかないけど、むずがゆい気持ちになる。
「わかった。このままで話そう」
こちらが折れると、トエーリエは満足そうにした。
ベラトリックスやテレサも同様である。メンバーの中で随一の常識人であるヴァリィはどう思っているのだろう。視線を向けてみる。
目が合うとニコッと笑ってくれた。
あ、あれは何も考えてない顔だ。そういえば、こういった話し合いは昔から苦手だったな。いつも難しい話は笑顔だけで逃げ続けている。
「で、四人はどうして外国にいるんだ?」
トエーリエとヴァリィは貴族の令嬢でベラトリックスは国と取引して外国には行かないと約束した立場だ。テレサはともかく、三人はここにいてよい立場ではないのである。
さらに付け加えると、俺の居場所を突き止めた方法もわからない。
出て行くときだって一人だったし、後を付ける存在はいなかったのも確認している。なのに、彼女たちはここにいるのだ。どうやって調べたか聞いても教えてはくれないだろうなぁ。
「メルベル宰相がドルンダ陛下を説得して、許可を出してくれました」
あの汚染獣め! 余計なことをしやがって! 今度あったら体の半分ぐらいは浄化してやる!
「どうしてアイツが協力したんだ?」
「勇者とは仲間の力があってこそ、という判断みたいです。大型の汚染獣と戦うのであれば相応のメンバーが必要だと。まぁ余分なのが一人いますが」
挑発するようなことを言ったトエーリエはテレサを睨んだ。
あ、仲悪いんだ。なんだか嫌な予感がする。
「貴族のお嬢さんより、光教会のバックアップがある私の方が役に立つと思いますが?」
「組織の力に頼らないと何も出来ない方に言われたくありませんね」
「持ってない人ほど良く吠えるんですよね。個人の力でできることなんて、たかがしれています。時代は組織力ですよ」
「私だって家の力を使えば光教会にだって負けませんが?」
「トエーリエさんのご実家は、世界規模の光教会と同じ力があるんですか。すごいですねー」
ふっと、バカにしたような笑みを浮かべたテレサの頬にトエーリエの拳がめり込んだ。
吹き飛んで壁にぶつかる。
早々に嫌な予感は的中してしまった。
「先に手を出しましたね。バカ力女っっ!!」
鼻血を出しながら起き上がったテレサは、近くにあった金の壺を投げつけると同時に走り出し、トエーリエの腹に拳を叩き込む。
「ガハッ」
肺から空気が出て吐き出しそうになったようだが、なんとか耐えたようだ。貴族の令嬢とは思えない憤怒の表情をすると、トエーリエは殴り返し、テレサの胸を強く打ち付ける。
そこからは、お互いに防御と回避を捨てた殴り合いになった。
遠慮なんて一切ない。全力だ。
ドン引きである。
「ヴァリィ、止められないか?」
「頑張ってみるけど……期待しないでね」
重い腰を上げると二人を仲裁するために行ってしまった。
自信なさそうだったが、騎士団長であるヴァリィは格闘技にも精通しているので、力ずくで止めてくれるだろう。と、期待していた俺がバカだったのかもしれない。
偶然にもトエーリエの蹴りがヴァリィの下腹部に当たってしまい、吹き飛んだのだ。
「やったな! 許さないっ!」
怒りで我を忘れたのか、止めに入ったはずなのに参戦しやがった。
三人が争っている。
もう、ぐちゃぐちゃだよ。
「ポルン様、安全なところに行きましょう」
隣にいるベラトリックスが腕を引っ張って立ち上がらせようとしてきた。
見ているだけで嫌になってくるので、この提案はありがたい。
一緒にリビングから出ると寝室へ入る。
薄暗い中、俺は中心に置かれたベッドへ腰掛けた。
ドアがバタンと音を立てて閉まる。
「ようやく落ち着けますね」
「ああ……そうだな……」
言葉にできない迫力をベラトリックスから感じた。
足音を立てずに近寄ってくるので、恐怖を覚えてベッドの中央まで移動する。
「逃がさないんですから」
急にベラトリックスの姿が消え、次の瞬間、背後に気配を感じた。
振り返ると押し倒されてしまい、仰向けになってしまう。すかさず彼女は俺の腰あたりにまたがる。
馬乗りってヤツだ。普通は男が上じゃないのか……?
「ずっと、ずっと、この日が来るのを待っていました。少々騒がしいですが許容範囲でしょう」
腕を伸ばして押しのけようとするが、ベラトリックスの髪が伸び、首に絡まった。
魔力で動かしているようで、さらに腕や足、口までも拘束されてしまって動けなくなってしまった。
力ずくで突破しようとするけど、なぜか力が抜けてしまう。これは相手の力を弱める【ドレイン】の魔法だ。
油断していて気づけなかった。いつの間にか使われていたようである。
「すぐに終わらせてあげますからね」
ベラトリックスが上着を脱ぐと、大きな胸が露わになった。ぷるるんと動いている。薄暗くて詳細までは見えないが、俺の想像していた光景が広がっていることだろう。
だれかライトを付けてくれ!! 記憶に焼き付けたい! いや、違った。誰か助けてくれ!
「さあ、ポルン様も――」
体がゆっくりと近づいてくると、半壊したドアがベラトリックスの頭にぶつかった。
気を失ったのかゆっくりとベッドの上に倒れる。それと同時に魔法の効果が切れた。
髪の毛から解放されたので上半身を持ち上げて、入り口の方を見る。
肩で息をしているトエーリエがいた。片目が腫れ、口から血が出ている。酷い顔だ。
後ろには目の上や頬に痣を作ったテレサ、ヴァリィもいた。
全員が倒れているベラトリックスを見ている。
「ポルン様!」
「はい!」
反射的に背筋を伸ばして返事してしまった。
「何もされてませんよね?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
「では少し部屋から出ていてもらえませんか?」
「どうして……」
「これから女同士の大事な話し合いがあるんです」
圧に負けて何度か首を縦に振ると、ベッドから降りた。
見方を変えれば絶好のチャンスである。
お話し合いが終わるまで娼館で――。
「外に出たらダメですからね」
トエーリエの横を通り過ぎようとしたとき、耳元でささやかれてしまった。
ば、バレている。
すーと、ヴァリィの腕が伸びて俺の肩に乗る。
「体中が痛くて困っているんですよ。介抱してもらえませんか?」
「女同士の話し合いに参加しなくて良いのか」
「トエーリエに任せます。昔から彼女が仕切ってましたから」
何を、とは聞いて良い雰囲気ではなかった。
監視役として一緒にいるつもりなのだろう。
断るわけにはいかない。仕方がないと諦め、小さくため息を吐いてから、リビングに戻ってヴァリィの手当を終わらせる。
結構な時間がたったと思うんだが話し合いは、まだ続いているようだ。長い。
「先に寝ましょうか」
ソファの上で横になったヴァリィは、すぐに静かな寝息を立てる。
やることがないので、棚から酒を持ち出して空いているソファに座りながら飲み続ける。
一杯飲んでも、お話し合いとやらは終わらないようだ。
こっそりと抜け出そうとして腰を浮かすと、ヴァリィが目を開けて俺をじーっと見る。
気配察知が鋭すぎる。やはり外には出られそうにない。
悔しいが諦めるしかないだろう。
俺もソファの上で横になると目を閉じる。
女遊び、今日もできなかったな……。
======
あとがき
これにて一章は終了です。
楽しいと思っていただけたのでしたら、★レビュー等で応援していただけると嬉しいです!よろしくお願いします!
また毎日更新は難しいと思いますが、二章も連載予定でいます。
テーブルを囲むようにソファが設置されていて、俺は最奥の偉い人が座る場所に座らされる。隣にベラトリックス、左前にヴァリィとトエーリエ、右前にテレサというポジションだ。
身分で言えばトエーリエやヴァリィの方が高いので居心地がわるい。
誰か変わってくれないかな。
「床に座っても良いか?」
「馬鹿なこと言わないでください。ポルン様は、その位置にいるのが当然の方なんです」
提案はトエーリエに否定されてしまった。どうやら今でも俺を上位者として扱ってくれるらしい。
地位とかではなく、今まで積み上げてきた実績を見てくれているのだろう。もしくは願望か? 良いのか悪いのか判断はつかないけど、むずがゆい気持ちになる。
「わかった。このままで話そう」
こちらが折れると、トエーリエは満足そうにした。
ベラトリックスやテレサも同様である。メンバーの中で随一の常識人であるヴァリィはどう思っているのだろう。視線を向けてみる。
目が合うとニコッと笑ってくれた。
あ、あれは何も考えてない顔だ。そういえば、こういった話し合いは昔から苦手だったな。いつも難しい話は笑顔だけで逃げ続けている。
「で、四人はどうして外国にいるんだ?」
トエーリエとヴァリィは貴族の令嬢でベラトリックスは国と取引して外国には行かないと約束した立場だ。テレサはともかく、三人はここにいてよい立場ではないのである。
さらに付け加えると、俺の居場所を突き止めた方法もわからない。
出て行くときだって一人だったし、後を付ける存在はいなかったのも確認している。なのに、彼女たちはここにいるのだ。どうやって調べたか聞いても教えてはくれないだろうなぁ。
「メルベル宰相がドルンダ陛下を説得して、許可を出してくれました」
あの汚染獣め! 余計なことをしやがって! 今度あったら体の半分ぐらいは浄化してやる!
「どうしてアイツが協力したんだ?」
「勇者とは仲間の力があってこそ、という判断みたいです。大型の汚染獣と戦うのであれば相応のメンバーが必要だと。まぁ余分なのが一人いますが」
挑発するようなことを言ったトエーリエはテレサを睨んだ。
あ、仲悪いんだ。なんだか嫌な予感がする。
「貴族のお嬢さんより、光教会のバックアップがある私の方が役に立つと思いますが?」
「組織の力に頼らないと何も出来ない方に言われたくありませんね」
「持ってない人ほど良く吠えるんですよね。個人の力でできることなんて、たかがしれています。時代は組織力ですよ」
「私だって家の力を使えば光教会にだって負けませんが?」
「トエーリエさんのご実家は、世界規模の光教会と同じ力があるんですか。すごいですねー」
ふっと、バカにしたような笑みを浮かべたテレサの頬にトエーリエの拳がめり込んだ。
吹き飛んで壁にぶつかる。
早々に嫌な予感は的中してしまった。
「先に手を出しましたね。バカ力女っっ!!」
鼻血を出しながら起き上がったテレサは、近くにあった金の壺を投げつけると同時に走り出し、トエーリエの腹に拳を叩き込む。
「ガハッ」
肺から空気が出て吐き出しそうになったようだが、なんとか耐えたようだ。貴族の令嬢とは思えない憤怒の表情をすると、トエーリエは殴り返し、テレサの胸を強く打ち付ける。
そこからは、お互いに防御と回避を捨てた殴り合いになった。
遠慮なんて一切ない。全力だ。
ドン引きである。
「ヴァリィ、止められないか?」
「頑張ってみるけど……期待しないでね」
重い腰を上げると二人を仲裁するために行ってしまった。
自信なさそうだったが、騎士団長であるヴァリィは格闘技にも精通しているので、力ずくで止めてくれるだろう。と、期待していた俺がバカだったのかもしれない。
偶然にもトエーリエの蹴りがヴァリィの下腹部に当たってしまい、吹き飛んだのだ。
「やったな! 許さないっ!」
怒りで我を忘れたのか、止めに入ったはずなのに参戦しやがった。
三人が争っている。
もう、ぐちゃぐちゃだよ。
「ポルン様、安全なところに行きましょう」
隣にいるベラトリックスが腕を引っ張って立ち上がらせようとしてきた。
見ているだけで嫌になってくるので、この提案はありがたい。
一緒にリビングから出ると寝室へ入る。
薄暗い中、俺は中心に置かれたベッドへ腰掛けた。
ドアがバタンと音を立てて閉まる。
「ようやく落ち着けますね」
「ああ……そうだな……」
言葉にできない迫力をベラトリックスから感じた。
足音を立てずに近寄ってくるので、恐怖を覚えてベッドの中央まで移動する。
「逃がさないんですから」
急にベラトリックスの姿が消え、次の瞬間、背後に気配を感じた。
振り返ると押し倒されてしまい、仰向けになってしまう。すかさず彼女は俺の腰あたりにまたがる。
馬乗りってヤツだ。普通は男が上じゃないのか……?
「ずっと、ずっと、この日が来るのを待っていました。少々騒がしいですが許容範囲でしょう」
腕を伸ばして押しのけようとするが、ベラトリックスの髪が伸び、首に絡まった。
魔力で動かしているようで、さらに腕や足、口までも拘束されてしまって動けなくなってしまった。
力ずくで突破しようとするけど、なぜか力が抜けてしまう。これは相手の力を弱める【ドレイン】の魔法だ。
油断していて気づけなかった。いつの間にか使われていたようである。
「すぐに終わらせてあげますからね」
ベラトリックスが上着を脱ぐと、大きな胸が露わになった。ぷるるんと動いている。薄暗くて詳細までは見えないが、俺の想像していた光景が広がっていることだろう。
だれかライトを付けてくれ!! 記憶に焼き付けたい! いや、違った。誰か助けてくれ!
「さあ、ポルン様も――」
体がゆっくりと近づいてくると、半壊したドアがベラトリックスの頭にぶつかった。
気を失ったのかゆっくりとベッドの上に倒れる。それと同時に魔法の効果が切れた。
髪の毛から解放されたので上半身を持ち上げて、入り口の方を見る。
肩で息をしているトエーリエがいた。片目が腫れ、口から血が出ている。酷い顔だ。
後ろには目の上や頬に痣を作ったテレサ、ヴァリィもいた。
全員が倒れているベラトリックスを見ている。
「ポルン様!」
「はい!」
反射的に背筋を伸ばして返事してしまった。
「何もされてませんよね?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
「では少し部屋から出ていてもらえませんか?」
「どうして……」
「これから女同士の大事な話し合いがあるんです」
圧に負けて何度か首を縦に振ると、ベッドから降りた。
見方を変えれば絶好のチャンスである。
お話し合いが終わるまで娼館で――。
「外に出たらダメですからね」
トエーリエの横を通り過ぎようとしたとき、耳元でささやかれてしまった。
ば、バレている。
すーと、ヴァリィの腕が伸びて俺の肩に乗る。
「体中が痛くて困っているんですよ。介抱してもらえませんか?」
「女同士の話し合いに参加しなくて良いのか」
「トエーリエに任せます。昔から彼女が仕切ってましたから」
何を、とは聞いて良い雰囲気ではなかった。
監視役として一緒にいるつもりなのだろう。
断るわけにはいかない。仕方がないと諦め、小さくため息を吐いてから、リビングに戻ってヴァリィの手当を終わらせる。
結構な時間がたったと思うんだが話し合いは、まだ続いているようだ。長い。
「先に寝ましょうか」
ソファの上で横になったヴァリィは、すぐに静かな寝息を立てる。
やることがないので、棚から酒を持ち出して空いているソファに座りながら飲み続ける。
一杯飲んでも、お話し合いとやらは終わらないようだ。
こっそりと抜け出そうとして腰を浮かすと、ヴァリィが目を開けて俺をじーっと見る。
気配察知が鋭すぎる。やはり外には出られそうにない。
悔しいが諦めるしかないだろう。
俺もソファの上で横になると目を閉じる。
女遊び、今日もできなかったな……。
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