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第43話 ううん、なんか違う
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「ああ、俺たちは間違いなく勝った」
だが別の汚染獣は出てくるかもしれない。
仲間も同じ事を思っているみたいで、一定の距離を保ちながら油断せずに灰の山を見続けている。
しかしどれほど待っても動きはなかった。
「本当に終わったのか?」
であれば、槍を回収しよう。
気が一瞬だけ緩んだ。その瞬間、上空から汚染獣がいた場所に何かが落ちてきた。
土煙で視界が悪い。
「ヴァリィ、下がれ!」
「はいっ!」
敵の近くにいた彼女は走りながら槍を拾い、俺の所まで戻ってくる。
その間、隙だらけだったんだが攻撃はしてこなかった。
「弓で攻撃しましょうか?」
あんな登場の仕方をして味方です、って結果ではないだろう。
遠距離から攻撃する案は採用だ。
「頼んだ」
弓を構えたテレサが光の矢を一本放つ。真っ直ぐ進み、土煙の中に入っていく。
反応はない。
外したと思ったのか、再びテレサが攻撃しようと弦を引くと、土煙から女性が出てきた。
見た目は人間に近いが肌は褐色、髪は白銀で蛇のように動いている。独立した意思があるみたいだ。
服装は真っ赤なドレスを着ていて大きい胸を強調している。頭には二本の鹿のような角が左右に生えていた。
「人間……それとも獣人? 魔物? ううん、なんか違う」
ヴァリィが戸惑うのも無理はない。見た目は人間に近いのだが、髪や発する雰囲気がそれとは違う。エルフやドワーフなど他人種とも一致しない。
言葉にして表現するのは難しいのだが、精巧に作った作り物みたいな感じなのだ。
模倣しているだけで本質は違う。
そういった類いの違和感である。
「いきなり攻撃するなんて酷いわね」
綺麗な声なのに不快になる。
心がざわついた。
「これ以上、近づくな」
俺の間合いへ入る前に女性は止まった。
ヴァリィから受け取った槍を向ける。屋根の上で待機しているベラトリックスは周囲に光の球を浮かべ、即座に攻撃できる準備を整えていた。
「ここはホコリっぽくて嫌になるわね。ポルンもそう思わない?」
正体不明の相手は、少なくとも相手は俺のことを知っているようだ。そしてわざわざ汚染獣が倒されたばかりのこの地にきたと。
路地裏にいる強盗が真っ当に見えるほど怪しい存在だ。
「君みたいに素敵な女性を見れば忘れないんだはずなんだが……。もし知り合いなら名前を教えてくれ」
隣で俺を守ろうとしているヴァリィが尻をつねってきた。
もっと真面目にやれ、なんて声が聞こえてきそうだ。
こうやって突っ込まれるのは意外とクセになる。何かに目覚めたら責任を取ってくれよ。
「あら、そういえば紹介がまだだったわね」
女性は腕を組んで胸を強調させた。
「私はセレーヌよ」
バカ正直に名乗るとは考えにくい。恐らく偽名だろう。
「何の用でここにきた?」
「挨拶しに来ただけ、といったら不満かしら?」
「いまいち納得できない理由だな」
他にもあるんだろ。
それを言えと無言で伝える。
「ポルンが倒した汚染獣を助けに来たと言ったら、どうするつもりかしら?」
冗談でも今の発言は許されない。攻撃する理由となる。
上空に待機している光の玉がセリーヌに向けて一斉に動いたが、大量の瘴気が放出されてしまい、盾となって防ぐ。
「喋る汚染獣……だとッ!?」
驚きながらも、死地をくぐり抜けてきた体は自然と動いていた。
光属性の魔力を全力で放出して瘴気を浄化させ、同時に顔が地面にこするほど低くして走り出す。
案外動物ってのは足下が死角になりやすい。
さらにヴァリィが囮として跳躍して攻撃しようとしているのだから、数秒は反応が遅れるはず。その隙があれば俺の槍は届く。
「良く訓練されてて素敵よ」
光属性の魔力で瘴気による防御は不可能だと思っていたのだが、俺の力を上回る量を放出したらしく、セレーヌに黒い壁が出現する。
槍と剣が衝突した。
ヴァリィは弾かれてしまったが、俺は足に力を入れて耐える。
「この場で消すッッ!」
人の形をして言葉を扱う汚染獣なんて聞いたことがない。
瘴気の量からして黒い球体と同等かそれ以上で、こんなのが王都にいたら国が滅ぶ。
全力で貫こうと力を入れる。
ピシッと音がした。
これで二度目だ。
瘴気や俺の体ではなく、連戦続きで整備すらしてなかった槍の方が保たなかったみたいである。
砕け散ってしまった。
攻撃手段を失ったので下がろうとすると、紐のような形をした瘴気が伸びてくる。
俺に当たる直前で透明の膜に当たって止まった。
物理的な干渉が可能と言うことは、トエーリエが使う【結界】でも防げるのだ。
さらにベラトリックスが攻撃を再開したので僅かだが時間は稼げるだろう。
「助かった」
「お礼は良いですから、新しい武器を!」
トエーリエに言われなくても分かっているが、運良く近くに武器なんて落ちてない。
クソッ。町中を探す余裕なんてないぞ。
「私のを使って下さい!」
差し出されたのは弓の魔道具だ。
「光属性を持つ人が魔力を込めれば威力は上がります」
さすが教会が所有している逸品だ。そんな便利な能力があるなら槍の代わりにはなる。
「使わせてもらうッ!」
受け取って弓を構え弦を引く。
魔力を注ぎ込むと矢が生まれた。だがこれじゃ瘴気の壁を貫くには足りない。もっと力を込めなければ。
だが別の汚染獣は出てくるかもしれない。
仲間も同じ事を思っているみたいで、一定の距離を保ちながら油断せずに灰の山を見続けている。
しかしどれほど待っても動きはなかった。
「本当に終わったのか?」
であれば、槍を回収しよう。
気が一瞬だけ緩んだ。その瞬間、上空から汚染獣がいた場所に何かが落ちてきた。
土煙で視界が悪い。
「ヴァリィ、下がれ!」
「はいっ!」
敵の近くにいた彼女は走りながら槍を拾い、俺の所まで戻ってくる。
その間、隙だらけだったんだが攻撃はしてこなかった。
「弓で攻撃しましょうか?」
あんな登場の仕方をして味方です、って結果ではないだろう。
遠距離から攻撃する案は採用だ。
「頼んだ」
弓を構えたテレサが光の矢を一本放つ。真っ直ぐ進み、土煙の中に入っていく。
反応はない。
外したと思ったのか、再びテレサが攻撃しようと弦を引くと、土煙から女性が出てきた。
見た目は人間に近いが肌は褐色、髪は白銀で蛇のように動いている。独立した意思があるみたいだ。
服装は真っ赤なドレスを着ていて大きい胸を強調している。頭には二本の鹿のような角が左右に生えていた。
「人間……それとも獣人? 魔物? ううん、なんか違う」
ヴァリィが戸惑うのも無理はない。見た目は人間に近いのだが、髪や発する雰囲気がそれとは違う。エルフやドワーフなど他人種とも一致しない。
言葉にして表現するのは難しいのだが、精巧に作った作り物みたいな感じなのだ。
模倣しているだけで本質は違う。
そういった類いの違和感である。
「いきなり攻撃するなんて酷いわね」
綺麗な声なのに不快になる。
心がざわついた。
「これ以上、近づくな」
俺の間合いへ入る前に女性は止まった。
ヴァリィから受け取った槍を向ける。屋根の上で待機しているベラトリックスは周囲に光の球を浮かべ、即座に攻撃できる準備を整えていた。
「ここはホコリっぽくて嫌になるわね。ポルンもそう思わない?」
正体不明の相手は、少なくとも相手は俺のことを知っているようだ。そしてわざわざ汚染獣が倒されたばかりのこの地にきたと。
路地裏にいる強盗が真っ当に見えるほど怪しい存在だ。
「君みたいに素敵な女性を見れば忘れないんだはずなんだが……。もし知り合いなら名前を教えてくれ」
隣で俺を守ろうとしているヴァリィが尻をつねってきた。
もっと真面目にやれ、なんて声が聞こえてきそうだ。
こうやって突っ込まれるのは意外とクセになる。何かに目覚めたら責任を取ってくれよ。
「あら、そういえば紹介がまだだったわね」
女性は腕を組んで胸を強調させた。
「私はセレーヌよ」
バカ正直に名乗るとは考えにくい。恐らく偽名だろう。
「何の用でここにきた?」
「挨拶しに来ただけ、といったら不満かしら?」
「いまいち納得できない理由だな」
他にもあるんだろ。
それを言えと無言で伝える。
「ポルンが倒した汚染獣を助けに来たと言ったら、どうするつもりかしら?」
冗談でも今の発言は許されない。攻撃する理由となる。
上空に待機している光の玉がセリーヌに向けて一斉に動いたが、大量の瘴気が放出されてしまい、盾となって防ぐ。
「喋る汚染獣……だとッ!?」
驚きながらも、死地をくぐり抜けてきた体は自然と動いていた。
光属性の魔力を全力で放出して瘴気を浄化させ、同時に顔が地面にこするほど低くして走り出す。
案外動物ってのは足下が死角になりやすい。
さらにヴァリィが囮として跳躍して攻撃しようとしているのだから、数秒は反応が遅れるはず。その隙があれば俺の槍は届く。
「良く訓練されてて素敵よ」
光属性の魔力で瘴気による防御は不可能だと思っていたのだが、俺の力を上回る量を放出したらしく、セレーヌに黒い壁が出現する。
槍と剣が衝突した。
ヴァリィは弾かれてしまったが、俺は足に力を入れて耐える。
「この場で消すッッ!」
人の形をして言葉を扱う汚染獣なんて聞いたことがない。
瘴気の量からして黒い球体と同等かそれ以上で、こんなのが王都にいたら国が滅ぶ。
全力で貫こうと力を入れる。
ピシッと音がした。
これで二度目だ。
瘴気や俺の体ではなく、連戦続きで整備すらしてなかった槍の方が保たなかったみたいである。
砕け散ってしまった。
攻撃手段を失ったので下がろうとすると、紐のような形をした瘴気が伸びてくる。
俺に当たる直前で透明の膜に当たって止まった。
物理的な干渉が可能と言うことは、トエーリエが使う【結界】でも防げるのだ。
さらにベラトリックスが攻撃を再開したので僅かだが時間は稼げるだろう。
「助かった」
「お礼は良いですから、新しい武器を!」
トエーリエに言われなくても分かっているが、運良く近くに武器なんて落ちてない。
クソッ。町中を探す余裕なんてないぞ。
「私のを使って下さい!」
差し出されたのは弓の魔道具だ。
「光属性を持つ人が魔力を込めれば威力は上がります」
さすが教会が所有している逸品だ。そんな便利な能力があるなら槍の代わりにはなる。
「使わせてもらうッ!」
受け取って弓を構え弦を引く。
魔力を注ぎ込むと矢が生まれた。だがこれじゃ瘴気の壁を貫くには足りない。もっと力を込めなければ。
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