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第26話 俺はもう勇者じゃない
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エーリカに頼んで野営するための道具、保存食を買い取らせてもらった。これでしばらくは山脈で活動できるだろう。
借りている部屋から槍だけを持ち出すと、俺は汚染獣の動向や能力を確認するために動く。
村の守りはプルドたちに任せる。勇者認定されたぐらい何だから、小型の汚染獣に襲われても負けることはないはず。信じているぞ!
* * *
気づかれないようこっそりと村から出ると、数時間かけて真っ黒に変色したバルドルド山脈へ着く。
予想を超えるほど瘴気が濃い。それだけ汚染獣が長期間滞在したか、もしくは強力な個体がいた証拠である。
山を登り始めると枯れた木々がいくつも見えてきた。汚染物質をたっぷりと含んでいるため、浄化しない限り薪にすら使えない。麓がこんな状況なんだから山脈全体で動物はおろか植物や虫すらいないだろう。
ソーブザが活躍したときと状況が似ている。
死の山となっているのだ。
大型が潜んでいる可能性もあるので山道を歩くのは危険かもしれない。枯れ木だとしても多少は身を隠せる。そっちの方から上を目指すべきだろうか。
パキッ。
悩み事をしていると後ろから枯れ木を踏んだ音がした。
振り返りながら槍を構える。
黒と黄色の修道服を着ている女性が立っていた。鮮やかな長い青色の髪と垂れ目が印象的だ。背中には大きめなリュックを背負っており、手には弓がある。矢は持っていないように見えるので魔力で作り出すタイプなのだろう。
顔に見覚えはないが、彼女が所属している組織には心当たりがあった。
「光教会の関係者か?」
この修道服は光教会の中でもごく一部に限られる。光属性持ちの中でも勇者と定められた人間のために生きて死ぬことを誓ったものたちだ。人によっては現神として敬うほど心酔している。
ただ光教会のために動くことも多いので完全には信用できない。取扱注意の人たちだ。
「お初にお目にかかります。勇者ポルン様」
「国から連絡が来てないのか? 俺はもう勇者じゃない」
交代の連絡は俺と同時に光教会にも行っていたはずだ。知らないとは言わせない。
「愚王はそんなことを言ったらしいですね」
ドルンダを批判するようなことを言った。
相手の考えが分からず自然と目が細まると、警戒していることが相手に伝わったようだ。
「私たち光教会は今もポルン様の味方です。ご安心ください」
「お前たちは勇者を助けるためだけに存在する。俺じゃなく新勇者プルドを助けたらどうだ?」
「確かにこの服を着ている者は勇者のために存在しています。本来であれば彼を助けるために動くべきですが……勇者とは何でしょうか?」
「国が選別した光属性持ちの人間のことだ」
勇者の認定から汚染獣の討伐指示まですべて国が主導している。光教会に大きな権力を持たせたくない貴族たちが、強引に決めたルールだ。
あくまでも光教会は、勇者のサポートや光属性持ちの保護するだけに存在する組織でしかない。
光教会関係者は勇者とは何か、といった疑問すら本来は持ってはいけないのである。
「一般的な認識はその通りですね。ですが、我々の考えは違います」
正面から国の制度を否定しやがった。
しかも光教会を代表しているような発言だ。
国と揉めているな。
そう考えるには充分な状況であった。
「勇者とは光属性に高い適性を持ち、決して権力者にはすり寄らず、全人類を平等に扱う人間でなければいけません」
広場で兵士が言っていたことを思い出す。プルドは勇者であり第四王子でもあるらしい。
出自からして権力側であり、今は国王のドルンダとも親密な関係だ。
目の前の女性が定義する勇者と大きく違う。それが気にいらないのか。
「それは光教会の考えだろ? 国民は汚染獣さえ倒してくれれば、権力側についていても気にしない」
「嘆かわしいことにポルン様の考えは正しいでしょう。ですが、過去、権力側に付いた勇者はことごとく汚染獣討伐をしなくなりました。当然ですよね。欲望のおもむくまま贅沢な生活ができるのに、わざわざ危険な戦いに行こうなんて思いません。贅沢を覚えた豚になってしまったのです」
だから勇者は清貧であれ。
そう言いたいのだろう。
「ですから意識を変えなければいけません」
「どのように?」
「新勇者よりも先に汚染獣を倒して、ポルンさまが勇者に相応しいと証明するのです。そして人類に国の認定なんて価値がないと宣言しましょうっっ!!」
「断る」
光教会がプルドを認めてないことは分かった。国と衝突しているのも間違いない。
だが、俺には関係ないことだ。
チャンスがあれば汚染獣と戦って倒すつもりではあるので前半部分は良いが、その後が気にいらない。
どいつもこいつも勇者として俺を利用とするようなヤツらばかりで嫌になってくる。
話す時間がもったいないので、すぐにでもこの場から去ろう。
彼女から背を向けようとする。
「お待ちください」
「話すことはない」
「この山脈に住む汚染獣の情報を持っています」
「……本当か?」
「光教会の名誉にかけて誓います」
汚染獣は個体差が大きい。能力や見た目が大きく違う。
情報があれば安全に調査ができるので、今回の提案は非常に魅力的だ。
「話を聞いても光教会には協力しないぞ?」
「かまいません。ポルン様のお役に立てることが、私たちの喜びですから」
あくまで俺の行動は制限しないつもりみたいだ。
であれば問題ない。情報を提供してもらう。
「いいだろう。話を聞かせてくれ」
「かしこまりました。私が知っているすべてをお伝えします」
借りている部屋から槍だけを持ち出すと、俺は汚染獣の動向や能力を確認するために動く。
村の守りはプルドたちに任せる。勇者認定されたぐらい何だから、小型の汚染獣に襲われても負けることはないはず。信じているぞ!
* * *
気づかれないようこっそりと村から出ると、数時間かけて真っ黒に変色したバルドルド山脈へ着く。
予想を超えるほど瘴気が濃い。それだけ汚染獣が長期間滞在したか、もしくは強力な個体がいた証拠である。
山を登り始めると枯れた木々がいくつも見えてきた。汚染物質をたっぷりと含んでいるため、浄化しない限り薪にすら使えない。麓がこんな状況なんだから山脈全体で動物はおろか植物や虫すらいないだろう。
ソーブザが活躍したときと状況が似ている。
死の山となっているのだ。
大型が潜んでいる可能性もあるので山道を歩くのは危険かもしれない。枯れ木だとしても多少は身を隠せる。そっちの方から上を目指すべきだろうか。
パキッ。
悩み事をしていると後ろから枯れ木を踏んだ音がした。
振り返りながら槍を構える。
黒と黄色の修道服を着ている女性が立っていた。鮮やかな長い青色の髪と垂れ目が印象的だ。背中には大きめなリュックを背負っており、手には弓がある。矢は持っていないように見えるので魔力で作り出すタイプなのだろう。
顔に見覚えはないが、彼女が所属している組織には心当たりがあった。
「光教会の関係者か?」
この修道服は光教会の中でもごく一部に限られる。光属性持ちの中でも勇者と定められた人間のために生きて死ぬことを誓ったものたちだ。人によっては現神として敬うほど心酔している。
ただ光教会のために動くことも多いので完全には信用できない。取扱注意の人たちだ。
「お初にお目にかかります。勇者ポルン様」
「国から連絡が来てないのか? 俺はもう勇者じゃない」
交代の連絡は俺と同時に光教会にも行っていたはずだ。知らないとは言わせない。
「愚王はそんなことを言ったらしいですね」
ドルンダを批判するようなことを言った。
相手の考えが分からず自然と目が細まると、警戒していることが相手に伝わったようだ。
「私たち光教会は今もポルン様の味方です。ご安心ください」
「お前たちは勇者を助けるためだけに存在する。俺じゃなく新勇者プルドを助けたらどうだ?」
「確かにこの服を着ている者は勇者のために存在しています。本来であれば彼を助けるために動くべきですが……勇者とは何でしょうか?」
「国が選別した光属性持ちの人間のことだ」
勇者の認定から汚染獣の討伐指示まですべて国が主導している。光教会に大きな権力を持たせたくない貴族たちが、強引に決めたルールだ。
あくまでも光教会は、勇者のサポートや光属性持ちの保護するだけに存在する組織でしかない。
光教会関係者は勇者とは何か、といった疑問すら本来は持ってはいけないのである。
「一般的な認識はその通りですね。ですが、我々の考えは違います」
正面から国の制度を否定しやがった。
しかも光教会を代表しているような発言だ。
国と揉めているな。
そう考えるには充分な状況であった。
「勇者とは光属性に高い適性を持ち、決して権力者にはすり寄らず、全人類を平等に扱う人間でなければいけません」
広場で兵士が言っていたことを思い出す。プルドは勇者であり第四王子でもあるらしい。
出自からして権力側であり、今は国王のドルンダとも親密な関係だ。
目の前の女性が定義する勇者と大きく違う。それが気にいらないのか。
「それは光教会の考えだろ? 国民は汚染獣さえ倒してくれれば、権力側についていても気にしない」
「嘆かわしいことにポルン様の考えは正しいでしょう。ですが、過去、権力側に付いた勇者はことごとく汚染獣討伐をしなくなりました。当然ですよね。欲望のおもむくまま贅沢な生活ができるのに、わざわざ危険な戦いに行こうなんて思いません。贅沢を覚えた豚になってしまったのです」
だから勇者は清貧であれ。
そう言いたいのだろう。
「ですから意識を変えなければいけません」
「どのように?」
「新勇者よりも先に汚染獣を倒して、ポルンさまが勇者に相応しいと証明するのです。そして人類に国の認定なんて価値がないと宣言しましょうっっ!!」
「断る」
光教会がプルドを認めてないことは分かった。国と衝突しているのも間違いない。
だが、俺には関係ないことだ。
チャンスがあれば汚染獣と戦って倒すつもりではあるので前半部分は良いが、その後が気にいらない。
どいつもこいつも勇者として俺を利用とするようなヤツらばかりで嫌になってくる。
話す時間がもったいないので、すぐにでもこの場から去ろう。
彼女から背を向けようとする。
「お待ちください」
「話すことはない」
「この山脈に住む汚染獣の情報を持っています」
「……本当か?」
「光教会の名誉にかけて誓います」
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情報があれば安全に調査ができるので、今回の提案は非常に魅力的だ。
「話を聞いても光教会には協力しないぞ?」
「かまいません。ポルン様のお役に立てることが、私たちの喜びですから」
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