上 下
12 / 106

第12話 消えろッッッッ!!

しおりを挟む
 汚染獣との距離を半分ほど詰めると数十ある触手が集結して並ぶとドクドクと脈打つようになる。

 何をするのか知りたい。

 攻撃される前に斬り落とすこともできたが、今回は討伐ではなく調査を優先している。腰を落として槍を構え、待ち構えることにした。

 触手の先端部分が急速に膨れ上がると、大量の黒い液体が放たれた。もうこれは壁だ。数メートルの壁が迫ってきている。

 周辺の瘴気はさらに濃くなり汚染がさらに広がっていく。倒した後のケアも必要となるだろう。

「はぁぁぁあああッッ!」

 声を出しながら槍に強めの光属性の魔力を注ぐと光り出した。

 僅かではあるが、触手の動きが鈍る。苦手な属性を前にして怯えているのだ。

 黒い壁が目の前に来るのと同時に槍を突き刺す。

 鉄よりも固い。僅かに刺さっただけで止まってしまう。押し返すなんてできずつぶされそうになるが、俺の攻撃はこれでは終わらない。

 槍に溜めていた光属性の魔力を穂先から放出するッ!

「――――!!」

 知能が存在しないはずの触手から驚きの声が聞こえたように感じた。

 穂先で僅かにひび割れた箇所から黒い壁の内部に入り込み、光属性の魔力が全体に広がる。

 ピシッ。

 亀裂が走った。割れ目から光が漏れ出す。

 黒い壁が脆くなった。

 槍を前に押し貫通させると、勢いよく飛んで触手の先端に突き刺さった。

 これだけでは倒せない。止めを刺すべく崩壊中の黒い壁を通り抜けて触手に近づく。

 数十もの触手を鞭のように使って俺を狙ってきた。

 体に当たりそうなものだけ回避すると触手は地面を叩く。ひび割れるほどの威力を秘めていた。当たり所が悪ければ即死だな。

 一般兵や騎士なら為す術もなく倒されていただろうが、だが俺は違う。元とはいえ勇者として長年活動してきたのだ。パーティメンバー内では最弱だったが、それでも汚染獣の一部ぐらいなら一人でも勝てる。

 五つもの触手が同時に狙ってきた。

 回避する隙はない。

「消えろッッッッ!!」

 光属性をたっぷりまとわせた右腕を横に振ると光の刃が飛ぶ。迫ってきた五本の触手を斬り落とし、勢いは衰えず上空へ消えていった。

 相手が普通の動物や魔物であれば体に当たって終わるのだが、相手が汚染獣であればこれほどの威力を発揮する。

 光属性とは浄化に特化した属性だ。

 だからこそ、対汚染獣にのみ最大の攻撃と防御ができるのだった。

「斬り落とされた触手は黒くなってすぐに消える……と」

 元が小型の汚染獣のものだとしたら一般的な結果である。不審な点はない。

 大型はもうこの場から離れたのか? それともどこかで様子をうかがっているのか?

 周囲を観察していたら、今度は十本の触手が俺を叩き潰そうとして迫ってくる。

 両腕に光属性の魔力をまとわせてから、また光の刃を放つ。抵抗なくすぱっと斬れると触手はボトボトと地面に落ちた。

 さらに続けて何度か腕を振るってすべての触手を切断し、残ったのは大本だけになる。気持ち悪くウネウネ動きながら、切断面から黒い液体をぴゅぴゅっと出している。攻撃部位を失ったので何もできない。

 全身に薄く光属性の魔力をまとわせてから、根元を引き抜く。

 地面に深い根があると思っていたのだが、なんと置かれているだけだったようだ。あっさり持ち上がってしまう。

 根元の方を見ると切断面はグチャグチャになっていた。刃物ではなく強引に引き抜いたような、そんな感じだ。もし汚染獣が自らの意思で分離させたのであれば、切断面はもっと綺麗であることが多い。

 小型とはいえ誰かが汚染獣と戦って肉体の一部を奪った。

 そう考えるのが自然だろう。すると「なぜ」と「誰」の部分が気になってくる。

 情報が足らなさすぎるので理由は何も思い浮かばず、今は後回しにするしかない。

 犯人について精度はともかく推測可能だ。怪力自慢のトエーリエですら不可能な芸当であるため人間は除外される。

 魔物や怪力自慢のドワーフ辺りなら可能だろうが、瘴気に耐えながら全力を出すなんてことは、さすがにできないはず。すると、俺や新勇者以外の光属性持ちのサポートがあった、と考えるのが自然だ。

 だが周辺国も含めて近隣にいる光属性持ちは俺と新勇者しかいない。

 遠路はるばるやってきた、ということになるのだが……。

「あり得ない」

 首を横に振って非現実的な考えを否定した。

 樹海から出てくる汚染獣対策のために光属性持ちは分散させなければならず、狭い地域に光属性持ちが三人もいるなんて話、聞いたことがない。

 新勇者のように隠された光属性持ちがいる……可能性は考えにくい。親から子に遺伝する物でもないので狙って生み出せるものではなく、一国に三人も生まれるなんてことは、奇跡が起こらない限り実現しない。

 想像したくはないが、大型の汚染獣が手を下したという結論が一番しっくりくる。

 光属性の魔力を手に持つ触手の根元に注ぎ込んで消滅させた。

 考えるのはやめだ。

 後で情報を羊皮紙にまとめて、ベラトリックス経由で新勇者に情報を渡そう。

 後は勝手にやってくれるはず。

 俺は解決するまでこっそりと見守っていれば良いのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

処理中です...