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(27)母、死す

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 「マイク」、「潤」と呼ばれ、嬉しそうに愛嬌を振舞っている息子。
そのうち婆と爺は二人ともパースで住むことになり、私は唖然としたが…。
 
お母ちゃんは「住みやすいからね」と言ってくる。
まあ、たしかに…。
はい、この家は元々はお母ちゃんの家です。
お父ちゃんは、既に仕事は引退してたらしく、お母ちゃんのナイトとして一緒に来たらしい。

エミリーは、この年寄二人を歓迎してくれた。

お母ちゃんは英語も話せるので、仕事に子育てに、と手伝ってくれようとする。
でも、私はお母ちゃんに子育てを任せなかった。
私は、お父ちゃんとは違う。

お母ちゃんは、クリニックの受付を手伝ってくれた。
まあ英語もそうだけど、なにより童顔だ。実際の年齢より若く見えるからな。

問題はお父ちゃんだ。
肝心の英語は片言だが、なかなか通じない。
ナイトの役目も出来ないぞ。何しに来たんだ?
なので、子育てをお父ちゃんに任せていた。


そして、潤が1歳を迎える前に、エミリーは亡くなった。
事故死だ。


私は39歳になりパスポートとビザの更新の為、1月、冬の日本に一時帰国した。
恋人の博人さんと一緒に。
今度は2人揃って10年間のビザ申告をしてパースに戻ってきた。
その間、クリニックはエドとユタカに任せていた。
潤は、祖父母と3人で仲良く2ヶ月を過ごしてたらしい。

私がパースに戻ると「誰?」とキョトンとしていた。
まあ、2ヶ月も留守にしてたからな。
博人さんは2ヶ月間一緒だったせいか、眉間の縦皺が無くなり常に微笑していた。
だから、潤から「あんた誰?」と言われて私が凹んでいても、微笑んでいたぐらいだ。


その年の7月。
私の40歳を祝ってくれた。
そして、翌月の8月には潤の2歳の誕生日を祝った。
穏やかに3世代が日々を過ごしていた。
翌月の9月。
いきなり、2人がいなくなった。

私は、最初にエドから聞いた。
 「トモ。レディが車にっ…」
続いて、ユタカから。
 「トモ!おばさんとおじさんが、事故に…」


お母ちゃんを庇う様に、お父ちゃんも一緒に・・・。
その事故では30数人が重軽傷を負い、10数人が死んだ。

泣きたくても泣けなかった。
いや、でも心の中では泣いてた。
あまりにもショックが大きすぎた。


この時。
母 90歳。
父 86歳。

2人とも、ここパースにて永眠につく。


お母ちゃんは、自分のことを誰にも言わなかった。
お父ちゃんも。
二人とも、秘密は墓場まで持って行った。
でも、その秘密を私は知ってる。

お母ちゃん。
いつまで経っても、私の母親はお母ちゃんだけだよ。
生みの母なんてくそくらえだ。

お父ちゃん。
軽いチャラ男で最低な奴なんだけど、お母ちゃんの事になると頑として口を割らなかった。
でも、その口を割らせて喋らせた私。
約束するよ。
私も、誰にも言わない。

私が頑固なのは、お父ちゃんだけでなくお母ちゃんにも似てるんだよ。


少し歩くと、1台の車が停まってる。
エドが運転席に座ってる。

車の外に出たらしく、ユタカが蹲っている。
ユタカも、お母ちゃんに懐いていたよな。
小中学校の時は、毎週末ごとに5人の家で勉強会を開いてやってた。
私の家でやる時は、お母ちゃんや私の料理を食べていたからな。

そして、私の後ろには博人さんがいる。
私の背中を、この人に預けている。

このメンバーでやっていける。

だから、心配しないで。
私は、大丈夫だよ。
博人さんが居るから。
空の上から見守ってて。

空を仰ぐと…、珍しく、鷹が飛んでいた。


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