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(12)病室で壁ドン!

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気が付くと、そこは病室だった。
どうしてここに居るのだろうと思ったが、なかなか思い出すことが出来ず、人の気配を感じたのでそちらを向くとニックがいた。
ニックは腕を怪我したのか包帯が巻かれてある。
で…、私は何で横になってるんだろう。
すると、ニックは私が目を覚ましたことに気が付いだのだろう、コールしてるのが見える。


しばらくするとマスターが病室へ駈け込んできた。
まずはニックに向かい「このままオフィスに行ってくれ。」と言ってるのが聞こえる。
ニックは、すぐに出て行った。

次は、私の番だ。
 「自分がどうなってここに居るのか、分かるか?」
そう聞いてきたが、私には分からないのでキョトンとしていた。
でも、次の言葉を聞くとショックを受けた。
 「銃撃戦に巻き込まれ、撃たれたんだよ。それに… 」
しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
実に言いにくそうに、言ってきた。
 「トモ。私は、メスが持ててのドクターだと…、そう思っているんだ。」


何を言ってるのか分からない。

 「トモの…」と言ったきり、また黙る。
意を決したのか、早口で言ってきた。

 「オファーが来てるところには、私が断っておく。1週間後には退院だ。」
勝手に言いたい事を言って、出て行った。


ほんとに、なんのことかさっぱり分からなかった。
退院が1週間後?
どんな理由で入院なのか言ってほしいね。
夜半になると、目が冴えて病室から出る。
廊下を歩いてると、うめき声や鳴き声が聞こえてくる。
彼らも、銃撃戦に巻き込まれたのだろうか。

私は自分の身体の異変に気が付かないまま、巡回をし始めた。
子供から年を召した人まで、たくさん居る。
子供は「怖い、怖いよ…」と言って震えてるので、抱いてやろうと思い持ち上げると抵抗してくるが、「大丈夫だよ」と言いながら背中を優しくポンポンと叩いて抱きしめてやる。
すると、安心したのか寝てくれる。
 (まるで康介が死んだ時の、優介のようだ)と思いながら…。


勝手に夜の巡回をするようになり3日ほど経つと、ジョンがアンソニーを連れて病室にやってきた。
いきなり怒鳴られた。
 「なに勝手なことやってる!自分の身体がどうなってもいいのか!!」
と、アンソニーは言ってくれるが、私にだって言い分はある。
 「そう言うのなら、どうして入院が必要なのか教えてほしいね」と言い放してやる。
 「回診に来てるだろ。」と言うが、誰が来てるんだ?
当然、私の答えはこれだ。
 「NO!誰も来ない。」
続けて言ってやる。
 「誰も来ないし、誰も何も言わない。もう一度聞くが、私はどうして入院してるんだ?」
入院の必要はあるのか?
すると、ジョンが口を挟んでくる。
 「マスター。何も言ってあげてないのですか?」
 「うるさい。黙れ!」
ジョンは私に聞いてくる。
 「回診の時間が何時なのか、知ってますよね?」
 「もちろん」
変だな、眼科の先生は知ってるはずだ。オペしたのだから…と、ブツブツ言いながら、ジョンは電話していた。

まて、今ジョンは眼科って言ったのか?


すると、ジョンの大きな声が聞こえてきた。
 「・・・なにバカなこと言ってる!日本人だろうが、どこの国の人間だろうが関係ないだろ!」
珍しくジョンが怒鳴ってる。
アンソニーがジョンの電話を引ったくり答える。
 「とっとと、回診に来い。」
ドスを効かせたつもりだったのだろう、少し掠れた感じの低音ボイスだった。
 「私には、その権限はある。オペだけしてフォローは無しか?
…オペの時は気が付かなかっただと?1度もフォローもせずに退院させるつもりか?診察は?それらも無しで、それでもドクターか?」
アンソニーが泣いてる・・・。
(ウソだろ。こんな事ぐらいで泣きながら電話なんて…。お前、ここのボスだろ!)

 「…分かった。ドクター、これは命令だ。これから自分の荷物を纏めて国へ帰れ!お前を解雇する。文句は言わせない。ボス命令として、5分後に解雇通知をボードに貼り出す!」
まったく、チャイニーズやジャパニーズは嫌いだとさ…。

 (なんて奴だ。この位のことで解雇なのか?アンソニー、お前ボスだろっ!他の手を考えろ。)
なんか、イライラしてきたぞ。

ジョンに携帯を返したアンソニーは何かを取り出し、それに書いていた。
それをジョンに渡し、指示を出した。
 「ジョン。それをスタッフボードに貼れ!今すぐだ。」
ジョンはそれを受け取り、病室から出て行った。

アンソニーと2人きりになった。
 「とにかく横になれ。お前1人で何かをやろうとしてもダメなんだよ。
やった分だけ時間の無駄なんだよ!」
なんか腹が立ってきたので、文句を言ってやった。
 「ダメなのかどうかは、やってみないと分からない。特に子供なんて怖がっていて、抱いてやると安心し」 
 「うるさい!入院クランケは医者の言う事を聞くもんだ。」
 「私だって医者だ。」
 「分かってる。だけど、今はクランケだ。」
 「でもっ・・・」

 「トモ!」


ドンッ!

と、壁に押された。 

 「頼むから大人しく、言う事を聞いてくれ。寝ててくれ。何もするな。
…違うドクターを呼ぶ。フォローが一度も無しだと、状態が分からない。」
 「それは私も同感だな。はっきりと状態を教えてもらいたい。」
その言葉に安心したのだろう、アンソニーはホッとした表情をしていた。
私がベッドに入るのを待ち、ジョンからの連絡を待つ間、アンソニーはホットタオルを作ってそれを私の額に当ててこようとする。

え・・・。
うわっ、気持ちいい。
思わず目を瞑ってしまい、声が漏れてしまっていた。

その時、唇に柔らかいものが触れてきた。
この野郎と睨むが、アンソニーは既に電話に出ていた。
そして、眼科のドクターを回診に来させるように指示を出していた。


このやりとりで、私はフィルの言葉を思い出していた。
 「アンソニーは人の上に立つ器ではない。俺は、あいつの下で働くつもりはない。」
 「あいつは感情的になりやすいし、気分にムラがある。」

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