上 下
22 / 25

22 再会

しおりを挟む
 
美しく、目を惹かれるほどの色とりどりの極彩色に、赤い宝石の瞳、金色に光る尾は煌いていた。アリウスは眩しそうに目を細め、切ない表情で表情を歪めた。
 
「レイ…っ」
 
バサッ、バサッ、…バサッ
 
「やあ、アリウス。無事で良かった。…とても会いたかったんだ。だから、君の言いつけを破って、君に会いに来てしまった。そんな僕を、許してくれる?」
「レイ、何故…」
 
綺麗に笑うレイに、アリウスは何も言えずに見つめていた。レイは鎖で拘束され、手錠が擦れて血の滲んだ手首を見て、悲しそうに笑った。
 
「アリウス、とても痛そう…。それに、血が出てる」
「レイ、今すぐ帰るんだ…っ」
「きっと僕のせい」
「違う!!」
 
レイは今にも泣きそうな顔でアリウスを見ている。自分のせいだと言うレイに、アリウスは叫んだ。
 
そんな二人の様子を近くで見ていたロゼインは、一度剣を下ろし、口を閉じたまま動かない。
 
王は突然、歓喜の声でガバリと立ち上がった。
 
「不死鳥よ!!ようやく見つけた!!儂の不死鳥!!」
 
そんな王の様子を横目で見て、アリウスはそっとレイの手を握った。誰にも渡さない、と言うようにしっかりと握っている。
 
動揺し、戸惑いを見せるロゼインに、王はギラついた目をして言った。
 
「ロゼイン何をしておる!!早くその男を殺せ!!そして不死鳥を儂の前に持って来い!!」
「……っ、は、はい…、承知しました…っ」
 
明らかにロゼインは躊躇っている。しかし、どうすることもできず、剣を再び振り上げる。だが、両手で振り上げた剣を、そのまま振り下ろすことがどうしても出来ないでいる。
 
焦れた王は苛立ちながら、ロゼインに重ねて命令する。
 
「ロゼイン!!貴様、儂の命令に背くつもりか!!そうなれば貴様の命も、家族の命も、一族全ての命を亡き者にしてくれる!!それでもいいのか、ロゼインよ!!」
「……っ、いえ、いますぐ命令の通りに…っ」
「……ロゼイン殿…、あなたは、家族を人質に…っ」
「………」
 
王は、ロゼインの家族や親族を人質として、ロゼインを意のままに操っていたらしい。騎士団長としての立場と、人質にされた者たちを逆手に、王は思うまま生きてきたのだ。
 
アリウスはロゼインを見て、苦しそうに唇を噛み締めた。その振り上げた剣を下ろしてくれなど、言えるはずのない状況に、アリウスはただ口を閉じているしか出来なくなってしまった。
 
そんな状況の中、レイが静かに口を開いた。
 
「東の国王、人間とはいつか死ぬものではないのかい?君は永遠の命を手に入れて、その先に誰もいなくなったとして、それで幸せ?」
「鳥如きに何がわかる。永遠を望んで何が悪い。支配者は生き続けねばならぬ。その先など知ったことか。儂は今、それを欲しておるのだ。不死鳥の身を食らい、その命を取り入れ、儂は永遠に生き続けるのだ!!」
 
禁書を手にした時、王は狂った。
 
老けゆく自分を見て、恐怖を覚えてしまったのだ。死が怖くないものなど、いるはずもない。いずれは皆が同じように老け、死んでゆくものなのに。
 
レイは、いつも空から見ていた。人が死にゆく光景と、それい悲しみと寂しさに涙を流し、憂い、そして前を向き進む者たちを。彼らの生き方が羨ましくて、堪らなかった。
 
「…僕にはわからない。何故、君はそこまでして生に執着するのか。人間の寿命は長いようで短いけれど、その寿命の中で必死に生きている。それのどこが、嫌なのか、僕にはわからない」
「レイ…」
 
アンドレイは望んで死んだわけではないのに、国のために死んでしまった。残された者は、アリウスは、こうして前を向いて生きている。それでもいつかは死んでしまうのだ。それが人間だ。
 
レイはアリウスを抱き締め、王を見た。
 
「東の国王、君の寿命はもう終わっているのだろう。それを繋いでいたのは、僕の羽根の加護と血の再生力。これ以上君は自然の理に、輪廻に背いてはならない」
「知ったことか。儂は永遠を生きるのだ!!…逃げる前はあれほど大人しかった鳥が、饒舌になったものよ。それも全てはこやつのせいか。…まあいい。ならば再び死んで、全てを忘れればよい。ロゼイン!鳥を殺せ!生意気なこの鳥を、再びその剣で刺し殺せ!!」
「………っ、…っ…」
 
ロゼインの手が震えていた。何度も刺し殺したその剣で、再びレイを殺せと言う王の命令に、拒絶するように手が震え、額から汗が滲んでいた。
 
王はロゼインとレイを睨み、苛立ったように立ち上がる。
 
「何をしておる!!早く不死鳥を殺せ!!そやつとの記憶を忘れさせ、また始めから飼えばよいだけのこと!!ロゼイン、何故動かぬ!!」
「お、王よ…、私は…っ」
 
とうとう王は自ら行動を起こした。後ろに控えていた守衛の弓を奪い取り、矢を射た。そしてその矢はレイに向かって一直線に飛び、アリウスの胸に突き刺さろうとしていた。
 
その瞬間、アリウスがレイを思い切り突き飛ばした。
 
ズドッ
 
「……ぐっ…」
 
矢が、アリウスの胸を貫いた。
 
レイの目の前で、アリウスの体が倒れ、レイの思考は真っ白になった。アリウスの口から大量の血が溢れ、咳き込みながら苦しそうに息をしている。
 
突き刺さった矢を見つめ、震えながらレイは倒れたアリウスの上半身を起こした。レイの目から次々と涙が溢れ、地面を濡らす。
 
震える手でアリウスの頬に触れ、真っ青な顔でレイは口を開いた。
 
「…あ、あ、…アリ、ウス…っ、矢がっ、…血が…っ、あっ、あああ…っ…」
「ごほっ、…ぐうっ……、げほっ……っ…レ、レイ…っ…」
 
アリウスの胸からドクドクと血が流れ続け、レイは必死にアリウスに言う。
 
「僕のっ、僕の血をっ、血を飲めば、あ、アリウスっ、再生するからっ…、は、早く、血を…っ」
「…っ、……レイ…、だい、じょうぶ、だから…っ」
「大丈夫じゃない!!血がっ、矢がっ、アリウスっ!!」
 
このままではアリウスは死んでしまうだろう。レイは必死にアリウスに呼びかけ、自身の血の再生力でアリウスの傷を治そうとした。しかし、ロゼインが小さな声で言った。
 
「…無駄だ。その矢は、お前の羽根で出来ている…っ」
「それならっ、それならこの矢には僕の加護が…っ」
「違うのだ!王が禁書に記述されている方法で矢に猛毒を塗らせ、お前の加護は死の呪術となった。呪術のかけられた羽根の矢の毒は、お前の血の再生力を以てしても、毒の効力は消えず、傷も治らない。…つまり、アリウスが受けたのは加護ではなく、死を誘う呪いだ…っ」
「な、何て、ことを………っ」
 
アリウスの息遣いが荒くなり、猛毒によって全身の熱が冷めてゆく。
 
何も考えられなくなった。どうすればいいのかもわからず、レイは全身から力が抜け、震える指先でアリウスの唇に触れた。
 
アリウスが、死ぬ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

お弁当屋さんの僕と強面のあなた

寺蔵
BL
社会人×18歳。 「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。 高校を卒業してようやく両親から離れ、 お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。 そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。 プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*) 地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。

召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】

クリム
BL
 僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。 「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」  実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。  ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。  天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。 このお話は、拙著 『巨人族の花嫁』 『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』 の続作になります。  主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。  重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。 ★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される

志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。 帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。 だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。 なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。 そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。 かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。

処理中です...