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22 再会
しおりを挟む美しく、目を惹かれるほどの色とりどりの極彩色に、赤い宝石の瞳、金色に光る尾は煌いていた。アリウスは眩しそうに目を細め、切ない表情で表情を歪めた。
「レイ…っ」
バサッ、バサッ、…バサッ
「やあ、アリウス。無事で良かった。…とても会いたかったんだ。だから、君の言いつけを破って、君に会いに来てしまった。そんな僕を、許してくれる?」
「レイ、何故…」
綺麗に笑うレイに、アリウスは何も言えずに見つめていた。レイは鎖で拘束され、手錠が擦れて血の滲んだ手首を見て、悲しそうに笑った。
「アリウス、とても痛そう…。それに、血が出てる」
「レイ、今すぐ帰るんだ…っ」
「きっと僕のせい」
「違う!!」
レイは今にも泣きそうな顔でアリウスを見ている。自分のせいだと言うレイに、アリウスは叫んだ。
そんな二人の様子を近くで見ていたロゼインは、一度剣を下ろし、口を閉じたまま動かない。
王は突然、歓喜の声でガバリと立ち上がった。
「不死鳥よ!!ようやく見つけた!!儂の不死鳥!!」
そんな王の様子を横目で見て、アリウスはそっとレイの手を握った。誰にも渡さない、と言うようにしっかりと握っている。
動揺し、戸惑いを見せるロゼインに、王はギラついた目をして言った。
「ロゼイン何をしておる!!早くその男を殺せ!!そして不死鳥を儂の前に持って来い!!」
「……っ、は、はい…、承知しました…っ」
明らかにロゼインは躊躇っている。しかし、どうすることもできず、剣を再び振り上げる。だが、両手で振り上げた剣を、そのまま振り下ろすことがどうしても出来ないでいる。
焦れた王は苛立ちながら、ロゼインに重ねて命令する。
「ロゼイン!!貴様、儂の命令に背くつもりか!!そうなれば貴様の命も、家族の命も、一族全ての命を亡き者にしてくれる!!それでもいいのか、ロゼインよ!!」
「……っ、いえ、いますぐ命令の通りに…っ」
「……ロゼイン殿…、あなたは、家族を人質に…っ」
「………」
王は、ロゼインの家族や親族を人質として、ロゼインを意のままに操っていたらしい。騎士団長としての立場と、人質にされた者たちを逆手に、王は思うまま生きてきたのだ。
アリウスはロゼインを見て、苦しそうに唇を噛み締めた。その振り上げた剣を下ろしてくれなど、言えるはずのない状況に、アリウスはただ口を閉じているしか出来なくなってしまった。
そんな状況の中、レイが静かに口を開いた。
「東の国王、人間とはいつか死ぬものではないのかい?君は永遠の命を手に入れて、その先に誰もいなくなったとして、それで幸せ?」
「鳥如きに何がわかる。永遠を望んで何が悪い。支配者は生き続けねばならぬ。その先など知ったことか。儂は今、それを欲しておるのだ。不死鳥の身を食らい、その命を取り入れ、儂は永遠に生き続けるのだ!!」
禁書を手にした時、王は狂った。
老けゆく自分を見て、恐怖を覚えてしまったのだ。死が怖くないものなど、いるはずもない。いずれは皆が同じように老け、死んでゆくものなのに。
レイは、いつも空から見ていた。人が死にゆく光景と、それい悲しみと寂しさに涙を流し、憂い、そして前を向き進む者たちを。彼らの生き方が羨ましくて、堪らなかった。
「…僕にはわからない。何故、君はそこまでして生に執着するのか。人間の寿命は長いようで短いけれど、その寿命の中で必死に生きている。それのどこが、嫌なのか、僕にはわからない」
「レイ…」
アンドレイは望んで死んだわけではないのに、国のために死んでしまった。残された者は、アリウスは、こうして前を向いて生きている。それでもいつかは死んでしまうのだ。それが人間だ。
レイはアリウスを抱き締め、王を見た。
「東の国王、君の寿命はもう終わっているのだろう。それを繋いでいたのは、僕の羽根の加護と血の再生力。これ以上君は自然の理に、輪廻に背いてはならない」
「知ったことか。儂は永遠を生きるのだ!!…逃げる前はあれほど大人しかった鳥が、饒舌になったものよ。それも全てはこやつのせいか。…まあいい。ならば再び死んで、全てを忘れればよい。ロゼイン!鳥を殺せ!生意気なこの鳥を、再びその剣で刺し殺せ!!」
「………っ、…っ…」
ロゼインの手が震えていた。何度も刺し殺したその剣で、再びレイを殺せと言う王の命令に、拒絶するように手が震え、額から汗が滲んでいた。
王はロゼインとレイを睨み、苛立ったように立ち上がる。
「何をしておる!!早く不死鳥を殺せ!!そやつとの記憶を忘れさせ、また始めから飼えばよいだけのこと!!ロゼイン、何故動かぬ!!」
「お、王よ…、私は…っ」
とうとう王は自ら行動を起こした。後ろに控えていた守衛の弓を奪い取り、矢を射た。そしてその矢はレイに向かって一直線に飛び、アリウスの胸に突き刺さろうとしていた。
その瞬間、アリウスがレイを思い切り突き飛ばした。
ズドッ
「……ぐっ…」
矢が、アリウスの胸を貫いた。
レイの目の前で、アリウスの体が倒れ、レイの思考は真っ白になった。アリウスの口から大量の血が溢れ、咳き込みながら苦しそうに息をしている。
突き刺さった矢を見つめ、震えながらレイは倒れたアリウスの上半身を起こした。レイの目から次々と涙が溢れ、地面を濡らす。
震える手でアリウスの頬に触れ、真っ青な顔でレイは口を開いた。
「…あ、あ、…アリ、ウス…っ、矢がっ、…血が…っ、あっ、あああ…っ…」
「ごほっ、…ぐうっ……、げほっ……っ…レ、レイ…っ…」
アリウスの胸からドクドクと血が流れ続け、レイは必死にアリウスに言う。
「僕のっ、僕の血をっ、血を飲めば、あ、アリウスっ、再生するからっ…、は、早く、血を…っ」
「…っ、……レイ…、だい、じょうぶ、だから…っ」
「大丈夫じゃない!!血がっ、矢がっ、アリウスっ!!」
このままではアリウスは死んでしまうだろう。レイは必死にアリウスに呼びかけ、自身の血の再生力でアリウスの傷を治そうとした。しかし、ロゼインが小さな声で言った。
「…無駄だ。その矢は、お前の羽根で出来ている…っ」
「それならっ、それならこの矢には僕の加護が…っ」
「違うのだ!王が禁書に記述されている方法で矢に猛毒を塗らせ、お前の加護は死の呪術となった。呪術のかけられた羽根の矢の毒は、お前の血の再生力を以てしても、毒の効力は消えず、傷も治らない。…つまり、アリウスが受けたのは加護ではなく、死を誘う呪いだ…っ」
「な、何て、ことを………っ」
アリウスの息遣いが荒くなり、猛毒によって全身の熱が冷めてゆく。
何も考えられなくなった。どうすればいいのかもわからず、レイは全身から力が抜け、震える指先でアリウスの唇に触れた。
アリウスが、死ぬ。
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