上 下
10 / 43
第二章

10·最後の教え

しおりを挟む
花の匂いがした。
かつての記憶を思い起こさせる匂いだ。

静かでちょっと退屈で平和な村の光景。
黄色い花だった。
名前はわからないが、黄色い小さな花弁がたくさんついていて、その花畑の中にブルーが飛び込んだら花粉だらけになって、服も真っ黄色になって大変なことになった。


-----あれは幸せな日々だった。


グレンは微笑みながら目覚めた。

ぼんやりしていた視点があってくると枕元に小さな瓶にいけた色い花がおいてあるのが目に入った。

「花が… 」

出た声は、自分のものとは思えないくらいしゃがれていた。

「…レン、起きた!」

かけられた声に花から視線を映すと、泣きそうな顔をしたシエルがいた。人型になっているから発情の気配は完全になりを潜めているのが見てすぐわかる。

自分の体からもあれほどの熱がすっかり消えているのがわかり安堵しながらグレンは身を起こした。

全体的に体がだるいが発情による性交だったためか、獣人の人間離れした性器を受け入れても裂傷などのダメージを受けなかったのは不幸中の幸いだろう。
もしそうならしばらく馬にのれなかっただろうから。

「大丈夫」

「レン、昨日はごめんなさい。でも…」

「---大したことはない」

グレンは淡々と立ち上がった。
体の内側に違和感があるが、動けないこともなさそうだった。
そうだ、こんなことなどなんということもない。

「もう少し休んでないと」

「いい、大丈夫だから」

グレンは淡々とシエルの手をのけた。
悲しそうな顔をするのに仏心を出してはいけないと心を引き締める。
グレンは起き上がった。体は拭き清められ、新しい夜着に変えられている。
意図しない性交-ーー陵辱とは言いたくないーーのあとに無防備な姿をさらすのは勇気がいったが、しかしそれを苦にしてるとは思われなくなかった。
何事もなかったかのようにグレンが身なりを整えるのをシエルは手持ち無沙汰に見ていたが、旅装になるのを見て青ざめた。

「レン…どっかいってしまう?」

「予定通り、もとの家に帰る」

「昨夜のせい?でも僕は、レンの事が好きで、レンと番になりたくて」

「ーーこんな形でか?」

静かに、けれども厳しくグレンはシエルを見返した。

「発情で身体を繋げたからそれを理由に俺が番になることが、それがお前の満足なのか?俺の意思は無視して」

「・・・それはっ」

「今回のことは事故にすぎない。忘れろ」

「でも」

「俺はお前の番になる気はない」

シエルの幸せのためにも、グレンとシエルの人生の線はこれ以上交わらないほうがいい。
グレンははっきりと言い渡した。

「俺はお前の親だ。お前は可愛い子供だが、それ以上の気持ちを持つことはない。決して」

身体を繋げても、心は支配できない。
その厳しさを身をもって教えることが、最後の親としての教えであり、また矜持でもあった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

甘えた狼

桜子あんこ
BL
オメガバースの世界です。 身長が大きく体格も良いオメガの大神千紘(おおがみ ちひろ)は、いつもひとりぼっち。みんなからは、怖いと恐れられてます。 その彼には裏の顔があり、、 なんと彼は、とても甘えん坊の寂しがり屋。 いつか彼も誰かに愛されることを望んでいます。 そんな日常からある日生徒会に目をつけられます。その彼は、アルファで優等生の大里誠(おおさと まこと)という男です。 またその彼にも裏の顔があり、、 この物語は運命と出会い愛を育むお話です。

オメガの騎士は愛される

マメ
BL
隣国、レガラド国との長年に渡る戦に決着が着き、リノのいるリオス国は敗れてしまった。 騎士団に所属しているリノは、何度も剣を交えたことのあるレガラドの騎士団長・ユアンの希望で「彼の花嫁」となる事を要求される。 国のためになるならばと鎧を脱ぎ、ユアンに嫁いだリノだが、夫になったはずのユアンは婚礼の日を境に、数ヶ月経ってもリノの元に姿を現すことはなかった……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。 早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。 ***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。

処理中です...