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第二章
10·最後の教え
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花の匂いがした。
かつての記憶を思い起こさせる匂いだ。
静かでちょっと退屈で平和な村の光景。
黄色い花だった。
名前はわからないが、黄色い小さな花弁がたくさんついていて、その花畑の中にブルーが飛び込んだら花粉だらけになって、服も真っ黄色になって大変なことになった。
-----あれは幸せな日々だった。
グレンは微笑みながら目覚めた。
ぼんやりしていた視点があってくると枕元に小さな瓶にいけた色い花がおいてあるのが目に入った。
「花が… 」
出た声は、自分のものとは思えないくらいしゃがれていた。
「…レン、起きた!」
かけられた声に花から視線を映すと、泣きそうな顔をしたシエルがいた。人型になっているから発情の気配は完全になりを潜めているのが見てすぐわかる。
自分の体からもあれほどの熱がすっかり消えているのがわかり安堵しながらグレンは身を起こした。
全体的に体がだるいが発情による性交だったためか、獣人の人間離れした性器を受け入れても裂傷などのダメージを受けなかったのは不幸中の幸いだろう。
もしそうならしばらく馬にのれなかっただろうから。
「大丈夫」
「レン、昨日はごめんなさい。でも…」
「---大したことはない」
グレンは淡々と立ち上がった。
体の内側に違和感があるが、動けないこともなさそうだった。
そうだ、こんなことなどなんということもない。
「もう少し休んでないと」
「いい、大丈夫だから」
グレンは淡々とシエルの手をのけた。
悲しそうな顔をするのに仏心を出してはいけないと心を引き締める。
グレンは起き上がった。体は拭き清められ、新しい夜着に変えられている。
意図しない性交-ーー陵辱とは言いたくないーーのあとに無防備な姿をさらすのは勇気がいったが、しかしそれを苦にしてるとは思われなくなかった。
何事もなかったかのようにグレンが身なりを整えるのをシエルは手持ち無沙汰に見ていたが、旅装になるのを見て青ざめた。
「レン…どっかいってしまう?」
「予定通り、もとの家に帰る」
「昨夜のせい?でも僕は、レンの事が好きで、レンと番になりたくて」
「ーーこんな形でか?」
静かに、けれども厳しくグレンはシエルを見返した。
「発情で身体を繋げたからそれを理由に俺が番になることが、それがお前の満足なのか?俺の意思は無視して」
「・・・それはっ」
「今回のことは事故にすぎない。忘れろ」
「でも」
「俺はお前の番になる気はない」
シエルの幸せのためにも、グレンとシエルの人生の線はこれ以上交わらないほうがいい。
グレンははっきりと言い渡した。
「俺はお前の親だ。お前は可愛い子供だが、それ以上の気持ちを持つことはない。決して」
身体を繋げても、心は支配できない。
その厳しさを身をもって教えることが、最後の親としての教えであり、また矜持でもあった。
かつての記憶を思い起こさせる匂いだ。
静かでちょっと退屈で平和な村の光景。
黄色い花だった。
名前はわからないが、黄色い小さな花弁がたくさんついていて、その花畑の中にブルーが飛び込んだら花粉だらけになって、服も真っ黄色になって大変なことになった。
-----あれは幸せな日々だった。
グレンは微笑みながら目覚めた。
ぼんやりしていた視点があってくると枕元に小さな瓶にいけた色い花がおいてあるのが目に入った。
「花が… 」
出た声は、自分のものとは思えないくらいしゃがれていた。
「…レン、起きた!」
かけられた声に花から視線を映すと、泣きそうな顔をしたシエルがいた。人型になっているから発情の気配は完全になりを潜めているのが見てすぐわかる。
自分の体からもあれほどの熱がすっかり消えているのがわかり安堵しながらグレンは身を起こした。
全体的に体がだるいが発情による性交だったためか、獣人の人間離れした性器を受け入れても裂傷などのダメージを受けなかったのは不幸中の幸いだろう。
もしそうならしばらく馬にのれなかっただろうから。
「大丈夫」
「レン、昨日はごめんなさい。でも…」
「---大したことはない」
グレンは淡々と立ち上がった。
体の内側に違和感があるが、動けないこともなさそうだった。
そうだ、こんなことなどなんということもない。
「もう少し休んでないと」
「いい、大丈夫だから」
グレンは淡々とシエルの手をのけた。
悲しそうな顔をするのに仏心を出してはいけないと心を引き締める。
グレンは起き上がった。体は拭き清められ、新しい夜着に変えられている。
意図しない性交-ーー陵辱とは言いたくないーーのあとに無防備な姿をさらすのは勇気がいったが、しかしそれを苦にしてるとは思われなくなかった。
何事もなかったかのようにグレンが身なりを整えるのをシエルは手持ち無沙汰に見ていたが、旅装になるのを見て青ざめた。
「レン…どっかいってしまう?」
「予定通り、もとの家に帰る」
「昨夜のせい?でも僕は、レンの事が好きで、レンと番になりたくて」
「ーーこんな形でか?」
静かに、けれども厳しくグレンはシエルを見返した。
「発情で身体を繋げたからそれを理由に俺が番になることが、それがお前の満足なのか?俺の意思は無視して」
「・・・それはっ」
「今回のことは事故にすぎない。忘れろ」
「でも」
「俺はお前の番になる気はない」
シエルの幸せのためにも、グレンとシエルの人生の線はこれ以上交わらないほうがいい。
グレンははっきりと言い渡した。
「俺はお前の親だ。お前は可愛い子供だが、それ以上の気持ちを持つことはない。決して」
身体を繋げても、心は支配できない。
その厳しさを身をもって教えることが、最後の親としての教えであり、また矜持でもあった。
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