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第二章

5.別離の決意

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「やはりレンはすごい」

剣を下ろすとシエルは悔しそうに言った。
そうはいってもグレンのほうも息がすっかり上がってしまっている。
もう少し長い戦いになっていればグレンの勝算も薄くなってしまったろう。

「あとちょっとお前ががんばっていたら、俺が負けていたよ。俺ももう年だな」

訓練の不十分と年齢を感じながらグレンがため息をつき、グレンは剣を置いた。
見物にきていた兵士たちも、試合がおわったとみるとゆっくり散っていった。

「シエルは強くなったなぁ」

「負けたのにそんな事を言われても…」

「年の功だよ。シエルの何十倍も生きてるし、それに腐っても騎士団長だったからな」 

シュンと肩を落とす。耳かしゅんと垂れている様子が可愛い。撫でてやろうと頭は届きづらいので触りやすい首元あたりのふかふかした毛は思わずうっとりするような手触りで、グレンは思わず何度も指を滑らせた。

「くすぐったい」

「あ、すまん。もう子供じゃないよな」

慌てて手を放すとシエルはもの言いたげにグレンを見た。それには気づかず、グレンは続けた。

「良い餞の試合になったし、最後にもうすっかり1人前なのを見れて嬉しいよ。これで俺も心置きなく帰れる」

「---かえる?どこに?レンが?」

「ああ、色々世話になってしまったが、そろそろ村に戻ろうと思っているんだ。あの、一緒に暮らしていた所に」

シエルが呆然と立ち尽くすのを、グレンは心苦しい気持ちで見た。
彼が幼い者特有の思考で、このままずっと周りがのすべてが変わらないと思いこんでいることはわかっていたし、レン、レン、といってくっついて慕ってくるのを突き放してしまうような気がして心が傷んだ。

「…息子さんのこと探すのは諦めるんですか?」

「息子のことは…これだけ協力してもらってわからなかったから…あとは自分のできる範囲でやろうと思っている。ヴォルフランドの人々には充分良くしてもらって、かりはかえしてもらったよ」

「そんな、かりだなんて…僕は…」

シエルはさらに何か言募ろうとしていたが、その時ちょうど急ぎらしい用事でシエルを探していたらしい人がきたので、言葉を阻まれてしまう。
じゃあ、としぶしぶ言って何回も振り返りながら去ってゆく後ろ姿を見守ると、グレンの胸のうちにも途方もない寂しさが溢れてきた。

おかしくなりかけていた彼を正気に引き戻してくれたのは小狼のブルー---シエルだった。

犬の寿命である10年ほどは普通に一緒にいれると思っていたのに、そのシエルとも思いの外早い別れがくるのは因果なものだった。


別れは辛い。
辛いからこそ、静かに去ろうとグレンは思った。
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