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39.再び病院へ

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桐原の今までの人生は抗いの人生である。
抗い、戦うことによって様々なことを勝ち取ってきた。
つまり、不戦敗など性にあわないのである。

桐原は考える。
今まで経験をふまえて考えればプレイなしで元気に過ごせるのが2ヶ月ほどであるが、最後にアレクシスとプレイしてから大体2ヶ月ほどたっている。
そろそろ徐々に体調が下降線をたどると考えてよい。
ただでさえ仕事も激務であるし、どのくらい体調がもつかはわからないが、薬を摂取しながら状態は引き延ばしても、時間的に長くても半年から1年くらいがリミットだろう。
健康状態をリスクに晒すことになるのは100も承知だが、犬飼が桐原を受け入れて肯定してくれた。

だから、今度は自分がそれを示す番であると桐原は思っていたし、何とかできる間に何か自分にできることがないか探そうと、決意していたのである。




「何か方法は本当にないんでしょうか」

再び桐原は前に呼ばれた犬飼の犬飼のかかりつけの病院にいた。
調べようにも結局のところ桐原は門外漢である。
ただでさえSUBとDOMの事情にも疎い。まずは医師に聞くのが得策だと思ったわけであるが、幸いなことにあれからどうなっているのか気になっていたという医師は、電話をするとすぐに面談の時間をとってくれた。

「その後、犬飼さんと話しました?」

「ダイナミクスの話になるのを避けられいるので、まだ話していないです」

「そうですか。本当は本人同士で話しあうのがいいんだろうけど、デリケートな事だからできればこのまま、犬飼くんから口を開くまで待っていて欲しいです。それはそうと新しいパートナーは探されてますか?あなたの能力と釣り合うような方を優先的にマッチングすることも可能ですよ」

釣り合うような相手・・・はじめはそれを探していたはずだったのに、今は全く心が動かなかった。

「・・・新しいパートナーを探すほうがいいと先生は言いました。でも、自分は好きでないとパートナーとしてプレイするのは受入れがたいタイプみたいだから、無理です」

桐原は率直な気持ちを告げた。

好意と信頼があればこそ自身を晒すことを許容できる。
プレイを忌避していたのは、そうではなかったからだ。犬飼を好きになったからこそ結果的に気づいた事であった。

もっと早く自分の気持ちに気づいて犬飼を受け入れていれば犬飼を追い込まなかったのではという後悔があった。
しかし同時に、自分でいろいろやってみて納得しなければこの結論まで行き着けなかっただろうという気持ちもあった。

医師は桐原の言葉にしばらく黙っていたが、固かった表情がやがて微かに綻んだように見えた。

「そうですか。犬飼さんが話が出来る状態になったら、是非そう言ってあげてください。気持ちだけではどうにかならないと前回言いましたが、でも、精神が肉体に影響して今回のような事が起こったわけですから、逆によい影響が肉体に影響してよいほうに転ぶことも当然あります。あなたのパートナーの気持ちが大きな支えになるはずです」

こちらでも色々できることは試してみるつもりですし、また協力を仰ぐこともあるかもしれませんと医師は告げた。
通常の医療機関では出してもらえない強めのSUBの抑制剤を処方してもらえたのもありがたかった。

別段、事態はよくなっていはいないが前向きな話が出来たことと、薬の処方されたことで安心できる期間が増えたことに桐原は気をよくした。

だが、よい事もあれば、悪いこともある。
別の言い方をすれば、時期が悪い時には悪いことが重なる。

こういう時にこそ落とし穴があるというのを桐原はすぐ後に思い知ることになるのだった。
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