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36.無慈悲な通告
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犬飼にパートナーとして病院に報告してよいかと言われた時は、適当にOKしたのであまり深い事は考えていなかった。
だから都内のDOMとSUBの研究施設を持つ大きな病院から直接電話がかかってきた時はかなり驚いたのである。
犬飼には内密に一人で来てほしいと言われた時から、あまりあまり良い話ではないのではという危惧を抱えながら訪問したのだが、思ったより待たされずに桐原は診察室に案内された。
「犬飼さんのパートナーの方ですよね。桐原圭司さん?28歳。生年月日は○○年11月10日生まれ、血液型はA型。間違いないですか?」
「はい」
医師はパソコンの画面を見ながら確認してきた。
DOMとSUBの情報は電子カルテで共有されているから、それを確認しているのだろう。
だいぶプレイしていないが…パートナーと言って差し支えないのだろうかと思いながら桐原は答えた。
「犬飼さんのDOMとしての能力が現在消失しているという話はご本人から聞いていますか?」
「はい」
忙しい間をぬってきているのだが、そんなことは電話でもすむような話ではと思ったのだが、医師の話はいきなり核心に入った。
「言いにくいのですが、単刀直入に言いますと新しいパートナーを探されることをお勧めします」
「…つまり、治らないってことなんですか?」
「正直、わからないとしか。ただ、楽天的に考えてよいものではないです。何かがきっかけで改善する例もないとはいえないですが、戻らない場合も残念ながらあります。よいパートナーを探すことはSUBの方にはとりわけ大変で時間もかかる事なので、あなたのためにお話させていただこうと思いました」
淡々と医師は言った。
気休めの言葉が出ないのはかえって医師の誠実さを感じたが、桐原は今まで事態を簡単に考えすぎていたことを痛感した。
そのうち治るくらいに思っていたのだ。
「犬飼さんはDOMとしての数値がイレギュラーに高いです。そのへんの話はお互いされてますか?」
「いえ…」
そう言われてみると、大して犬飼のことも知らないし、規格外のDOMのこともアレクシスが少し話したことしか知らない。
医者が改めて説明したことによると、能力が強いのは一見よいように感じるが、実際は本人が意図しないところでコマンドが作用してしまったり、グレアで他人を威圧してしまうトラブルを起こしてしまう場合があるとのことだった。
二次障害につながる場合があり、自分の言葉で他人を操作して行動させてしまっているのではないかという不安や疑念を抱えてしまう場合や、逆に万能感を持って犯罪を起こしてしまうといったこともある。
ただ、上手く能力をコントロールできる場合はかなり優秀な能力を保持することになるので、ケースによっては保護観察下や、時に研究の対象となる場合があるということらしかった。
「桐原さんの数値を見ますとDOMに対する耐性が高めなので犬飼さんとは相性よいと思いますが、今のままプレイできない状態が続くと苦しむことになると思いますよ。あなたも、ひいては犬飼さんも」
ーープレイ。
そうだ、元々はといえばプレイのパートナーを探すためだったはずだ。
心がつながろうが身体を繋げようがどうしようもないSUBの欲をどうするべきなのだろうか。
欲望だけの話だけではない。
産業医に下手したら体調不良の末の死もあると忠告を受けていたのではなかったか。
「DOMとSUBは嗜好でなくて、そういう性なんです。気持ちだけではどうにもなりませんよ」
駄目押しのように言われるのを、桐原は黙って聞いているしかなかった。
*
「桐原さん、どうしました」
犬飼に呼ばれ、桐原は顔を上げた。
「いや、何でもない」
結局、以前と同じ事で悩まなければいけないことに気づく。
どうしたらよいのだろうか。
だが、今は恋人となった犬飼がいるだけに、事態はよりややこしさが増している。
まだ足りないとばかりにまとわりついてくる犬飼がキスをしかけてくるのに応え、桐原はとりあえず目を閉じた。
だから都内のDOMとSUBの研究施設を持つ大きな病院から直接電話がかかってきた時はかなり驚いたのである。
犬飼には内密に一人で来てほしいと言われた時から、あまりあまり良い話ではないのではという危惧を抱えながら訪問したのだが、思ったより待たされずに桐原は診察室に案内された。
「犬飼さんのパートナーの方ですよね。桐原圭司さん?28歳。生年月日は○○年11月10日生まれ、血液型はA型。間違いないですか?」
「はい」
医師はパソコンの画面を見ながら確認してきた。
DOMとSUBの情報は電子カルテで共有されているから、それを確認しているのだろう。
だいぶプレイしていないが…パートナーと言って差し支えないのだろうかと思いながら桐原は答えた。
「犬飼さんのDOMとしての能力が現在消失しているという話はご本人から聞いていますか?」
「はい」
忙しい間をぬってきているのだが、そんなことは電話でもすむような話ではと思ったのだが、医師の話はいきなり核心に入った。
「言いにくいのですが、単刀直入に言いますと新しいパートナーを探されることをお勧めします」
「…つまり、治らないってことなんですか?」
「正直、わからないとしか。ただ、楽天的に考えてよいものではないです。何かがきっかけで改善する例もないとはいえないですが、戻らない場合も残念ながらあります。よいパートナーを探すことはSUBの方にはとりわけ大変で時間もかかる事なので、あなたのためにお話させていただこうと思いました」
淡々と医師は言った。
気休めの言葉が出ないのはかえって医師の誠実さを感じたが、桐原は今まで事態を簡単に考えすぎていたことを痛感した。
そのうち治るくらいに思っていたのだ。
「犬飼さんはDOMとしての数値がイレギュラーに高いです。そのへんの話はお互いされてますか?」
「いえ…」
そう言われてみると、大して犬飼のことも知らないし、規格外のDOMのこともアレクシスが少し話したことしか知らない。
医者が改めて説明したことによると、能力が強いのは一見よいように感じるが、実際は本人が意図しないところでコマンドが作用してしまったり、グレアで他人を威圧してしまうトラブルを起こしてしまう場合があるとのことだった。
二次障害につながる場合があり、自分の言葉で他人を操作して行動させてしまっているのではないかという不安や疑念を抱えてしまう場合や、逆に万能感を持って犯罪を起こしてしまうといったこともある。
ただ、上手く能力をコントロールできる場合はかなり優秀な能力を保持することになるので、ケースによっては保護観察下や、時に研究の対象となる場合があるということらしかった。
「桐原さんの数値を見ますとDOMに対する耐性が高めなので犬飼さんとは相性よいと思いますが、今のままプレイできない状態が続くと苦しむことになると思いますよ。あなたも、ひいては犬飼さんも」
ーープレイ。
そうだ、元々はといえばプレイのパートナーを探すためだったはずだ。
心がつながろうが身体を繋げようがどうしようもないSUBの欲をどうするべきなのだろうか。
欲望だけの話だけではない。
産業医に下手したら体調不良の末の死もあると忠告を受けていたのではなかったか。
「DOMとSUBは嗜好でなくて、そういう性なんです。気持ちだけではどうにもなりませんよ」
駄目押しのように言われるのを、桐原は黙って聞いているしかなかった。
*
「桐原さん、どうしました」
犬飼に呼ばれ、桐原は顔を上げた。
「いや、何でもない」
結局、以前と同じ事で悩まなければいけないことに気づく。
どうしたらよいのだろうか。
だが、今は恋人となった犬飼がいるだけに、事態はよりややこしさが増している。
まだ足りないとばかりにまとわりついてくる犬飼がキスをしかけてくるのに応え、桐原はとりあえず目を閉じた。
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