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28.心と本能と

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----どうしようもないなら、楽しんだほうがいい。

結局そこしかないのだろうかと、なかば思考が投げやり気味になった桐原をアレクシスは易々と体ごと引き寄せた。
白人の血が強いアレクシスの体格は桐原と高さも厚みも違うから、まるで子供のように抱き込まれると、よるべないような気分が癒やされるような気がするのが不思議だった。

Comeおいで、グレアをあげる」

目を合わせると、今度はアレクシスは甘やかすようにたっぷりグレアを放った。
そうするとただでさえ弛緩しかけていた桐原の意識はとろりと溶け始める。

Look目をそらさないで!」

目をそらそうとするのを今度はアレクシスはやや強いコマンドで縛った。

「自分から踏み越えられないなら、言い訳を作ってあげようか」

囁やきが、意思が固めらない桐原を後押しする。
一度踏み越えてしまえば二度目以降はハードルは下がってゆき、やがて慣れと諦念がやってくる。
その心の動きを知りつくしているからこそ、アレクシスの言葉は、自分のせいではないと言い訳すればよいのだと甘く誘いかけ、迷いを断ち切ろうとしてくる。

Stand up立て、ケイ」

桐原はコマンドの導きに従って立った。

これはただプレイだ。
だから、やめるには「RED」と言えばよい。

桐原の心はふらふら迷い、彷徨いはじめた。

自分というものの基を形づくるものが己の意思なのだとすると、そこを本能に明け渡してしまえばそれはもう自分ではない気がする。
でも、このまま本能に流されるようにいくとこまでいってしまったほうが、楽になるのかもしれない。

Strip脱いで

どこか頭の冷静な部分が警鐘を鳴らしていたが、心と剥離したように身体だけが動いていた。

何を、誰と、どうしたいのか。
それは今なのか、そして、アレクシスとなのか。
それでよいのか。

ソファーに足を組んで座り、頰杖をついてじっと見ているアレクシスの目の前で、桐原はワイシャツを払い落とした。
 
「下もStrip脱いで

無為無言のまま、下着ごとスラックスを脱ぎ落とす。
アレクシスは感情を表さないまま、桐原の裸体を検分するように見た。
冷たい灰色の鋭い視線が通過したあとの肌に燃えるような怒りじみた羞恥が感駆け抜ける。

「もう少し恥じらいが欲しいけどgoodいいね。思ったよりちゃんと筋肉もついてるし、綺麗な体だ」

温度はちょうどよいくらいなのに、緊張ゆえにか汗が滲む。
普段は家でも風呂の中でくらいしかそんな格好はしない。
なのに、いま、明るい部屋の真ん中、全裸を無防備に晒していることに肌がそそけたつような気がした。
だが、本能的なSUBの部分では悦びが脈打っていた。

「普段冷静沈着なケイが、こんなところでこんな格好して悦んでいるなんて、背徳的でとてもやらしいくて、そそるね」
 
姿勢を変えないまま、アレクシスは言葉で桐原を嫐った。
嬲る言葉はさながら鞭で、心の柔らかい部分を打たれる。叩かれたあとが痺れてじんじん疼くように、心も同様に痺れ疼くのだった。
高揚を覚える桐原の体から、さらに心だけ剥離してゆく気がした。我がことなのにまるで他人事のように感じ、まるで自分はSUBの役を演じていて、それのを遠くから見ているような気がする。

「恥ずかしい?それとも、気持ちいい?」

「……」
 
say答えて

「…わから、ない」

「そうか。」

いつになく混乱している桐原に、アレクシスは表情を緩め、グレアを放った。
安心感が与えられ、意識が再びゆるゆると溶けだしてくる。

keel跪いて

そのコマンドが嫌だとを伝えるのを忘れたと、桐原はぼんやりと思った。
プレイするときのSUBの常套的なコマンドなので、それを忌避しているとはアレクシスは思わなかったのだろう。

桐原が動かなかったので、アレクシスは先ほどより強めに命じた。

「ケイ、keel跪け

コマンドの強制力に、自分の膝から力が抜けてゆくのを桐原は感じた。


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