上 下
28 / 49

27.規格外のDOM

しおりを挟む
桐原はしばし戸惑いと慣れない種類の満足感の狭間でぼんやりしていたが、すぐに本来の彼らしさを取り戻した。

「…俺より犬飼が気になるならDOM同士でプレイしたらどうですか」

「おもしろこと言うね。DOM同士だと不毛の極みだね」

桐原が冷たく言い放つと、アレクシスはいかにもまいったというていで肩をすくめ、金色の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。そんな仕草もさまもむかつくほどにさまになる。

「グレアで争って彼の足元にはいつくばるハメになるのはさすがに遠慮したいよ」

DOM同士がもめた時にはグレアで争い、それが強いかどうかで勝ち負けが決まると聞いたことがある。逆は容易に想像できるが、アレクシスが若造である犬飼に負けるなどあるのかと胡乱に思う。

「それはないでしょう」

「どうだろう。彼はおそらく規格外イレギュラーのDOMみたいだし」

「・・・イレギュラー?」

グレアが不安定と言ってたことと関係があるのだろうかと思っていると桐原の疑問はアレクシスによって解決された。

「稀にいる力が強すぎるDOMのことだよ。能力が安定すれは強大な力を持つDOMになるのかもしれないが、大抵は力が不安定なことが多い」

最も、DOMとして優れてるからといって様々なことに成功できるわけではないが、と成功者のほうである男は言った。 

強すぎる力といわれても桐原は半信半疑であったが、アレクシスの言うことが本当だとしてもだから何なんだとしか思えないかった。
とはいえ、犬飼もアレクシスをかなり意識していたことを思うと、もしかしたらDOM同士では力関係においての激しい対抗意識のようなものがあるのかもしれない。
SUBである桐原には関係ないし、鞘当てに巻き込まれるのはごめんだった。

「・・・この話を続けるなら俺は帰る」 

「ごめんごめん、すねないで。ケイ、Stayそのまま

桐原が立ち上がろうとするとコマンドに絡めとられる。
拒否するほどのことまでもなかったので桐原は従ったが、アレクシスはそのまま子供をなだめるようにハグしてきた。厚い胸板に抱き寄せられたまではまだ良かったが、こめかみにキスをされるにつけて桐原は憮然とした。

「やめてくれ」

「失敬。日本人はあまりこういうスキンシップはしないんだっけ」

しかもわざとらしくチークキスまでを何度かしてくるので桐原はこの悪ふざけを閉口しながらよけた。

「ふざけるなよ。海外でも男同士はしないだろうが」

「小さいことは気にしない。リラックス!」

すねたわけでもアレクシスの事を特別に思っているわけではないのだが、自分にDOMの関心が戻ったことの歓びがわいてくるのがわかった。

「ケイはつれないよね」

ひとしきりアレクシスは桐原をかまいつけたが、反応が鈍いためかため息をついた。

「…でもそこがいい」

急にアレクシスの声色が変わる。
空気は張り詰めたような気がした。

「その口から、支配されたい、命令して欲しいって言わせたくなる。それ以上のすごいことも」

刹那、今まで覆い隠されていたアレクシスの征服欲を突きつけられた気がして、桐原の背中に戦慄が走り抜けた。
それはどこか甘い期待を含んでいる。
その気になれば、アレクシスはコマンドで簡単に桐原に言わせることができるだろう。
そしてだんだん、望んで言うようにそういう風に作り替えられてしまうのかもしれない。
そうしたい、されたいと思う自分がいることも間違いないのだ。

それを気づいて改めて絶望し、いっそ桐原は笑った。

笑いの意味をどうしてか悟ったのかわからないが、アレクシスは桐原のそれを感じ取ったようだった。
あるいは、彼の今までの経験で似たようなことがあったのかもしれない。

「嫌そうだね…でも、複雑に考えないで本能に従うのも悪くないと思う。どのみちSUBもDOMも一人ではどうしようも埋められないんだから、受け入れて、苦しまないで楽しんだほうがいい」

アレクシスの言葉は静かで、自身の欲望からではないというのがわかる真剣みを帯びたものだった。
彼なりの思いやりがこもってすらいた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...