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5. TEST PLAY
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挑発的な桐原の物言いに、犬飼は動じなかった。
どちらがSUBでどちらがDOMかわかったもんじゃない会話だと桐原は思ったが、でも考えてみればSUBがDOMを必要なのと同じでDOMもSUBが必要なわけだから、へりくだる必要はないはずだ。
「セーフワード何にします?」
「『死ね』でいいんじゃないか」
「…あの、露骨すぎませんか?じゃあ月並みですが『RED』で」
「じゃあ『RED』」
「…え、待って待って、桐原さんひどい!まだ始まってもないのにセーフワード言わないで」
泣き言をいいつつも犬飼は機嫌を良さそうに眼鏡を取ろうとしたが、一旦やめてちょっと考えるとスーツの上衣を脱いで床に敷いた。
何のためにと一瞬思いかけて、はっと気づく。
ここに跪かせるためだ。
カーっと血が登る。
桐原のスーツを汚すまいという周到な心遣いに、そのようにするのは当然という傲慢な気持ちと、大切に扱われることへの喜び、これから始まることへのほのかな期待が交じる。
それがSUBの喜びだとわかって桐原は厭わしさに心の中で舌打ちした。
それにしてもここは会社で、壁一つ隔てた所では人々が忙しく働いている。
いまから、こんなところでプレイするのだという背徳的な状況に桐原は動揺したが、だが、犬飼がゆっくりした動作で眼鏡をとり、彼をまっすぐ見ると、急に思考する余裕がなくなってしまう。
犬飼の瞳に、自分が写っている。
桐原の頭の中はじっと見られているという事でいっぱいになるが、まっすぐひたむきに見つめてくる男の頭の中も自分のことで占めれれてゆくのがわかる。
その目に吸い込まれるような錯覚とともに、感覚がシンクロしてゆくと、寄り添ってくるようなそれが心地よくて、なぜ、犬飼とプレイするのがそれほどまでに嫌だったのか、わからなくなる。
「じゃあ桐原さん、come」
犬飼の口からコマンドが紡がれる。
自分から同意したせいか、昨日よりもそれはするりと心に触れてきた。
桐原は、誘われるままにゆっくり足を進めた。
靴の下に上衣を踏む感触があったが、桐原も犬飼も、もうそれには目もくれなかった。
ここは会社の会議室だというのに、こんなところでこんなことをしてしまっているのに、まるで互いの存在だけになってしまったようだった。
「嫌じゃ、ない?」
問われて頷くと、彼は笑った。
桐原だけに向けられた笑顔に、じわりと心の中に歓びが滲む。
それは自分が、自分だけが今相手を喜ばせることができるという歓びであった。
「good」
褒める言葉と共に優しいグレアが与えられた。
目には見えないそれに包み込まれると、とても気持ちよくて。まるで暖かく抱きしめられているようだ。
「more」
ゆっくり慎重に、犬飼は次のコマンドを口にする。
このコマンドも嫌ではなかった。
例え、犬飼の息遣いを感じるほどに近くまで近づくことになってもだ。
気づいたら椅子に座った犬飼の開いた脚の間に立っていて、ほんのちょっとどちらかが動いたら、触れてしまいそうなくらい近かった。
犬飼の掌があがり、桐原の頬に触れそうになったが、ギリギリのところで止まる。
触れられたくないという言葉をきちん尊重してくれたことを感じ、桐原の中の警戒はゆっくりと緩みはじめる。
この若いDOMを信頼してもよいのかもしれない…桐原は他人を信用していないし、警戒心が強いほうだ。
なのに、ただいくつかのコマンドを交わしただけで、こんな気を許してしまいそうな気持ちになるのが不思議であった。
だが。
「Kneel」
そのSUBにとってはありふれたコマンドを耳にしたとき、桐原はドッと急に汗ばむのを感じた。
ものすごい拒絶感が生まれ、身体がこわばる。
SUBやDOMだけでなく誰で知っている、SUBがDOMの足元に尻を着く形で座る初歩的なコマンドだ。
このコマンドに従えば、きっと褒められて、きっともっと気持ちよくなれる…と、心のどこかで声がする。
だが、一方で誰であれ足元なんかに跪いたり、寝っ転がったりしたくないというに自分もいる。
身体はその言葉に反応しかけていたが、しかし、忌避感が床に跪くことに強く抵抗を示した。
だから、桐原は本能に従って座った。
だが床でない。
抵抗心が桐原を床ではなく、犬飼の足の上に座らせた。
そうすると目線が犬飼より上に来て、見下ろす形になる。
「…」
DOMに従いたいが従いたくないという気持ちの現れを態度で示した桐原を、犬飼は少し驚いたように目をみはった。
どちらがSUBでどちらがDOMかわかったもんじゃない会話だと桐原は思ったが、でも考えてみればSUBがDOMを必要なのと同じでDOMもSUBが必要なわけだから、へりくだる必要はないはずだ。
「セーフワード何にします?」
「『死ね』でいいんじゃないか」
「…あの、露骨すぎませんか?じゃあ月並みですが『RED』で」
「じゃあ『RED』」
「…え、待って待って、桐原さんひどい!まだ始まってもないのにセーフワード言わないで」
泣き言をいいつつも犬飼は機嫌を良さそうに眼鏡を取ろうとしたが、一旦やめてちょっと考えるとスーツの上衣を脱いで床に敷いた。
何のためにと一瞬思いかけて、はっと気づく。
ここに跪かせるためだ。
カーっと血が登る。
桐原のスーツを汚すまいという周到な心遣いに、そのようにするのは当然という傲慢な気持ちと、大切に扱われることへの喜び、これから始まることへのほのかな期待が交じる。
それがSUBの喜びだとわかって桐原は厭わしさに心の中で舌打ちした。
それにしてもここは会社で、壁一つ隔てた所では人々が忙しく働いている。
いまから、こんなところでプレイするのだという背徳的な状況に桐原は動揺したが、だが、犬飼がゆっくりした動作で眼鏡をとり、彼をまっすぐ見ると、急に思考する余裕がなくなってしまう。
犬飼の瞳に、自分が写っている。
桐原の頭の中はじっと見られているという事でいっぱいになるが、まっすぐひたむきに見つめてくる男の頭の中も自分のことで占めれれてゆくのがわかる。
その目に吸い込まれるような錯覚とともに、感覚がシンクロしてゆくと、寄り添ってくるようなそれが心地よくて、なぜ、犬飼とプレイするのがそれほどまでに嫌だったのか、わからなくなる。
「じゃあ桐原さん、come」
犬飼の口からコマンドが紡がれる。
自分から同意したせいか、昨日よりもそれはするりと心に触れてきた。
桐原は、誘われるままにゆっくり足を進めた。
靴の下に上衣を踏む感触があったが、桐原も犬飼も、もうそれには目もくれなかった。
ここは会社の会議室だというのに、こんなところでこんなことをしてしまっているのに、まるで互いの存在だけになってしまったようだった。
「嫌じゃ、ない?」
問われて頷くと、彼は笑った。
桐原だけに向けられた笑顔に、じわりと心の中に歓びが滲む。
それは自分が、自分だけが今相手を喜ばせることができるという歓びであった。
「good」
褒める言葉と共に優しいグレアが与えられた。
目には見えないそれに包み込まれると、とても気持ちよくて。まるで暖かく抱きしめられているようだ。
「more」
ゆっくり慎重に、犬飼は次のコマンドを口にする。
このコマンドも嫌ではなかった。
例え、犬飼の息遣いを感じるほどに近くまで近づくことになってもだ。
気づいたら椅子に座った犬飼の開いた脚の間に立っていて、ほんのちょっとどちらかが動いたら、触れてしまいそうなくらい近かった。
犬飼の掌があがり、桐原の頬に触れそうになったが、ギリギリのところで止まる。
触れられたくないという言葉をきちん尊重してくれたことを感じ、桐原の中の警戒はゆっくりと緩みはじめる。
この若いDOMを信頼してもよいのかもしれない…桐原は他人を信用していないし、警戒心が強いほうだ。
なのに、ただいくつかのコマンドを交わしただけで、こんな気を許してしまいそうな気持ちになるのが不思議であった。
だが。
「Kneel」
そのSUBにとってはありふれたコマンドを耳にしたとき、桐原はドッと急に汗ばむのを感じた。
ものすごい拒絶感が生まれ、身体がこわばる。
SUBやDOMだけでなく誰で知っている、SUBがDOMの足元に尻を着く形で座る初歩的なコマンドだ。
このコマンドに従えば、きっと褒められて、きっともっと気持ちよくなれる…と、心のどこかで声がする。
だが、一方で誰であれ足元なんかに跪いたり、寝っ転がったりしたくないというに自分もいる。
身体はその言葉に反応しかけていたが、しかし、忌避感が床に跪くことに強く抵抗を示した。
だから、桐原は本能に従って座った。
だが床でない。
抵抗心が桐原を床ではなく、犬飼の足の上に座らせた。
そうすると目線が犬飼より上に来て、見下ろす形になる。
「…」
DOMに従いたいが従いたくないという気持ちの現れを態度で示した桐原を、犬飼は少し驚いたように目をみはった。
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