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2.かつての勇者、今はただの人
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勇者クロエ。
それが、あの世界での俺の名前だった。
つまり俺は異世界転移したことがあるのだ。
疲れたおじさんの妄想じゃないんだぜ。
本当のことだ。
思い返せば高校の入学の日のことだった。
学校の門から出た瞬間に地面が光って飲み込まれて、俺は気がついたら異世界にいた。
そこは中世の西洋風の世界で、だけど、魔法があって、魔物がいて、魔王がいた。
魔方陣の中にたたずんだ俺はたくさんの人に取り囲まれた。
そして、王様から俺が光の勇者として召喚されたこと、勇者しか使えない剣で魔王を倒して世界を救ってほしいといわれたのだ。
なんだか勢いに押されるままに頷いてしまった俺は、よくわからないままに魔王討伐のパーティに組みいれられた。
その後のいろいろな冒険譚は面倒だから割愛するが、結果、俺と仲間たちは魔王を倒した。
そして、無事に俺は元の世界、転位したときと同じ日同じ時間に帰ってきた。
帰ってこれたことにはほっとしたし、嬉しかったのは確かだ。
でも、俺は普通の人から選ばれし者になった時と同じ唐突さで選ばれしものから普通の人になってしまったわけで、しばらくは俺の役割はもう終わってしまったみたいな...何だか高校生にしてもう余生になってしまったようなさみしさがあった。
だが、それでも俺はだんだん元の生活になじんでいった。
受験、就職というむしろ勇者の時より苛烈なる戦いもあったし、大学生、社会人、そして普通に同じ会社の女の子と恋愛して結婚と普通というレール乗ってに暮らしているうちにあれはだんだん夢だったのではないか?という気がしてきた。
何度も言うが、妄想じゃない。
異世界から持って帰ってきたそれが、あれは幻じゃなかったと今も教えてくれる。
俺は、棚の中に大切にしまい込んでいたそれを出した。
短剣だ。
長さは柄も入れて30センチくらい。鞘は金色で、馬と剣と太陽が組み合わさった紋章が刻まれている。
それ以外は本当にシンプルな、実用向きの剣
俺のとっても大切なものだ。
鞘から刃を抜いてみて、顔が映り込むほどに研ぎ澄まされた刀身を眺める。
そして、思い出に浸・・・ろうとした瞬間、不意に足下から声がして、蓮が手を伸ばしてきて俺は慌てた。
「ぱぱ、それなに?れんもさわる!」
「あ!これ危ないんだよ。触ったらイタいイタいだよ、だめだめ」
慌てて手が届かないように手を上にやる。
だめといわれると余計興味をひかれたようで、蓮は俺にしがみついた。
「だめ!れんも!!」
「いやほんと、これはぜったいだめ。パパの大切なやつだから」
「やーだーーーー!」
機嫌が悪かったのか、ぎゃーっと本格的に泣き出す。
ぷくぷくほっぺが真っ赤になり、ぽろぽと涙が伝い出す。
これは家を出る前に泣きやませるのが大変そうだ。
俺のほうが泣きたい気分になり、とりあえず短剣を片付けようと思った瞬間。
家が揺れて、地震!?と思った瞬間、ぴかっと床が光った。
「えっ!?」
なんだか既視感があるような、と思った瞬間、周りが金色の光で包まれ、まぶしさに俺は目をつぶった。
何が起こったのかわからないまま、反射的にぎゃーぎゃー泣いている蓮をかばって、抱き上げる。
そして浮遊感がして、ふつっと俺の意識は途切れた。
それが、あの世界での俺の名前だった。
つまり俺は異世界転移したことがあるのだ。
疲れたおじさんの妄想じゃないんだぜ。
本当のことだ。
思い返せば高校の入学の日のことだった。
学校の門から出た瞬間に地面が光って飲み込まれて、俺は気がついたら異世界にいた。
そこは中世の西洋風の世界で、だけど、魔法があって、魔物がいて、魔王がいた。
魔方陣の中にたたずんだ俺はたくさんの人に取り囲まれた。
そして、王様から俺が光の勇者として召喚されたこと、勇者しか使えない剣で魔王を倒して世界を救ってほしいといわれたのだ。
なんだか勢いに押されるままに頷いてしまった俺は、よくわからないままに魔王討伐のパーティに組みいれられた。
その後のいろいろな冒険譚は面倒だから割愛するが、結果、俺と仲間たちは魔王を倒した。
そして、無事に俺は元の世界、転位したときと同じ日同じ時間に帰ってきた。
帰ってこれたことにはほっとしたし、嬉しかったのは確かだ。
でも、俺は普通の人から選ばれし者になった時と同じ唐突さで選ばれしものから普通の人になってしまったわけで、しばらくは俺の役割はもう終わってしまったみたいな...何だか高校生にしてもう余生になってしまったようなさみしさがあった。
だが、それでも俺はだんだん元の生活になじんでいった。
受験、就職というむしろ勇者の時より苛烈なる戦いもあったし、大学生、社会人、そして普通に同じ会社の女の子と恋愛して結婚と普通というレール乗ってに暮らしているうちにあれはだんだん夢だったのではないか?という気がしてきた。
何度も言うが、妄想じゃない。
異世界から持って帰ってきたそれが、あれは幻じゃなかったと今も教えてくれる。
俺は、棚の中に大切にしまい込んでいたそれを出した。
短剣だ。
長さは柄も入れて30センチくらい。鞘は金色で、馬と剣と太陽が組み合わさった紋章が刻まれている。
それ以外は本当にシンプルな、実用向きの剣
俺のとっても大切なものだ。
鞘から刃を抜いてみて、顔が映り込むほどに研ぎ澄まされた刀身を眺める。
そして、思い出に浸・・・ろうとした瞬間、不意に足下から声がして、蓮が手を伸ばしてきて俺は慌てた。
「ぱぱ、それなに?れんもさわる!」
「あ!これ危ないんだよ。触ったらイタいイタいだよ、だめだめ」
慌てて手が届かないように手を上にやる。
だめといわれると余計興味をひかれたようで、蓮は俺にしがみついた。
「だめ!れんも!!」
「いやほんと、これはぜったいだめ。パパの大切なやつだから」
「やーだーーーー!」
機嫌が悪かったのか、ぎゃーっと本格的に泣き出す。
ぷくぷくほっぺが真っ赤になり、ぽろぽと涙が伝い出す。
これは家を出る前に泣きやませるのが大変そうだ。
俺のほうが泣きたい気分になり、とりあえず短剣を片付けようと思った瞬間。
家が揺れて、地震!?と思った瞬間、ぴかっと床が光った。
「えっ!?」
なんだか既視感があるような、と思った瞬間、周りが金色の光で包まれ、まぶしさに俺は目をつぶった。
何が起こったのかわからないまま、反射的にぎゃーぎゃー泣いている蓮をかばって、抱き上げる。
そして浮遊感がして、ふつっと俺の意識は途切れた。
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