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4p 「愛してる」は嘘っぽい?

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 もう何年前になるだろうか。

 記憶をたどるのも難しいくらい昔になってしまうが、同窓会で斜め前の席に元カレが座った。
 なんの話の流れからか(ずいぶん他愛ない話だったと記憶しているけれど)彼が、
「俺ほどおまえを愛した男はいない」
 と言った。
 そのときの私は人目もあって、
(こっ恥ずかしいコトをなに堂々と言ってんだ)
 と笑って聞き流してしまった。
 過去のことを今更と思ったのもあるし、同窓会という時間軸を共有する場の独特のふわふわした空気の中で「愛してる」が妙に軽くて嘘っぽい言葉に聞こえたせいもあると思う。
 つまり、若かりし頃のことだから今頃言われてもね、と真面目に聞けなかったのだ。
「愛してる」をほかのたくさんの言葉と同等にして記憶に埋もれさせてしまった。

 でも、長い時間生きてきて死への時間のほうが短くなるにつれて、同窓会での彼の言葉だけが人生で唯一の真実だったと――
 信じられると――
 本当に今更だけれど気づいてしまった。




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