桜ノ森

糸の塊゚

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深悔marine blue.

暴走

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 ────お前らが悪い、と狂ったように血のような赤色の瞳を輝かせながら笑う奏を、控え室で俺達は見ていた。

 「か、奏くん!?どうしちゃったのかねぇ!?」
 「……アイツ、"暴走"を起こしてやがる……っ!」
 「ぼ、暴走!?」

 奏のあまりにもな変わりように混乱していたらしい直季に、勇樹がどこか焦った様な形相で言う。
 "暴走"という言葉を聞くが否や、尋希は「奏……っ!」と叫びながら控え室から飛び出していく。

 「あ!おいっ、尋希!?クソ、またかよっ!」

 勇樹が飛び出して行った尋希を止めようと動くも、既に尋希の姿は見えない。
 勇樹は一度舌打ちをして、「オレらも行くぞ」と控え室から出ていく。
 すぐに俺と直季も勇樹を追いかけ始める。

 「勇樹、暴走って?」
 
 走りながら聞くと、勇樹は息切れを起こしながらも答えてくれた。
 勇樹の説明によると、"暴走"というのは魔力を制御出来ず、誰彼構わず、自分の魔力量も鑑みず手当り次第に魔法を使用しまくる状態の事で、魔力が尽きても魔法を使用しようとするため命を落とすこともあり、非常に危険らしい。
 主に精神が不安定な時に起こりやすく、一度暴走すると暴走した本人の気を失わせるか、命を奪う位しか対処法はなく、暴走した状態から自力で戻ることは無い、との事。

 「……でも自力で戻ることは無いっつーのは少し違うかもしれねぇな」

 チラリと俺の目を見て呟く勇樹に首を傾げると、「離せよ!!」と叫ぶ尋希の声が聞こえた。いつの間にか会場の前に来ていたらしい。

 「いけません!魔力暴走は本人だけでなく周りの人にも危害が及びます!」
 「良いから離せってんですよ!あんたらだって暴走がどれだけ危険か分かってんだろ!」
 「ですので、今他の教員の方が魔封石の準備を行っておりますので、生徒の貴方は控え室で待機していてください!」

 会場の前で待機していた俺達の担任が、なりふり構わず奏の元へ向かおうとする尋希を羽交い締めにして、尋希をなだめようと言葉を尽くしているのが目に入った。

 「チッ……んなことやる前に一人くらいはあの対戦相手を奏から引き離すくらいはしろよ……ッ」
 
 横の勇樹が走りながら呟くと同時に辺り周囲が真夏にも関わらず冷え始め、寒く感じる。勇樹が自分の周りに数多くの氷の刃のようなものを作り出していた。
 そしてそのまま尋希と担任の横をすり抜けると、勇樹は奏の足元に向かって全ての氷の刃を放つ。
 そのまま奏の足元に当たるかと思いきや、突如薄い半透明の壁のようなものに阻まれ、氷は霧散する。
 勇樹は舌打ちをすると、すぐさま再び数多く……それも先程よりも多くの氷の刃を作り出して、奏に放つが、全て壁に阻まれて、霧散した。
 その壁は確かに奏を中心にして現れている。しかし、それは先程尋希から聞いた幻覚魔法とは到底違うもので。
 奏に魔法を放ち続ける勇樹も同じことを思ったのか、呆然とまさか、と呟いて続けた。

 「────奏の奴、使かよ……っ!都市伝説じゃねぇのかよ!」

 能力使い。
 一見すれば魔法と同じものだが、魔法と違うものだ。
 魔法は魔力を必要とするが、能力は何も必要としない。
 それなのに能力は魔法より強力であり、魔法と能力のぶつけ合いでは、争うほども無く能力が勝つ。
 しかし、魔法使い以上に使い手がおらず、最早都市伝説と化している。
 目の前で暴走している奏がその能力使いなら、止められるものはもう、ほとんどいないであろう。
 勇樹は諦めず氷の魔法を放ち続け、横から直季も「加勢するよねぇ!」と植物を生やすよりも早く、無理やり担任の拘束から逃げ出したらしい尋希が、奏に何かを握りしめていた。
 それをよく見てみれば先程尋希が使用していた紅色のクナイで、さっきは気づかなかったが、鬼灯の装飾があった。

 「おい、馬鹿!能力には魔法すら歯が立たねぇのに、んな魔法で召喚した普通の武器じゃ……」

 勇樹がそう投げかけるのも聞こえないかのように尋希はそれを奏に向かって投げつける。
 今までの勇樹の魔法が弾かれたように尋希のそれも弾かれる、と思いきや。

 ────パリン。

 そんなガラスが割れたかのような音と共に、クナイは奏の壁を突き破る。

 「は……?」

 呆気に取られる勇樹と直季を他所に、確かに先程までは俺の後ろにいたはずの尋希はいつの間にやら奏の目の前に居て、そのまま勢いのまま奏を抱え込んで、倒れ込みながら奏を押さえつけた。
 その瞬間に暴走していた奏に隙が出来て、その隙を逃さないように俺は尋希と奏に近づいて。

 「……兄さん?」

 尋希がそう呼ぶのも構わず俺は奏の近くにしゃがんで、そっと首筋に触れる。
 すると、先程まで狂ったように笑っていた奏は気を失って、同時に暴走も止んだらしく、発狂していた対戦相手も静かになり、漸くやってきた教員が担架を持ってきて、対戦相手と奏を保健室へ運んで行くのを見送って、先程からぼうっとしながら俺を見る尋希に、どうしたと声をかけると、尋希は、ハッとしたように慌てて「なんでもないです、流石は兄さんですね」と笑って、運ばれていく奏の後を追った。
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