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 赤に染まる世界。倒れる女性。彼女はもう動かない。

 守れなかった。助けてと言われたのに、助けられなかった。

 俺のせいだ。俺がもっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかった。

 青年は立ち尽くしていた。目の前の惨劇を受け入れることができなかった。

 どうして。どうして、俺は。

「やり直したい?」

 だから、その声が聞こえてきた時には、神が自分を救ってくれるのだと思った。

「やり直したいでしょう。世界を」

 答えは決まっていた。それが何であるかなど考えることもなかった。

「俺は、今度こそ、必ず救ってみせる……!」

 意識が薄れていく。立っていられないほどの立ち眩みのような感覚。

「面白い。では、やってみせなさい」

 女性の声とともに、青年の意識は途絶えた。





 佐々木ささき一彦かずひこは高校へ行く支度を整えて、家を出た。といっても、顔を洗って制服を着て鞄を持っていくだけだ。準備というほど入念なものでもない。朝食は学校に着いてから菓子パンを齧る程度のものだ。家でしっかりと食べているような時間はない。

 家を出れば、向かいの家に住む双子の姉妹が待っている。

「遅いよ、一彦。だいぶ待たされたよ」

 と言うのは、添田そえだ小毬こまり。双子の姉のほうだ。セミロングの黒髪には緩やかなウェーブがかかっており、ブレザータイプの制服によく似合っていて、その可愛さを向上させるのに一役買っている。快活なその性格も手伝って、一彦が通う高校では人気のある女子生徒である。

「でも姉さんもさっき出てきたばかりでしょう。そんなに差はない」

 そう言って小毬の痛いところを突いたのは、妹の陽毬ひまり。ショートボブの黒髪が印象的な女子生徒で、小毬と同じように男子に人気のある女子生徒だ。

 一彦はそんな人気者の双子姉妹と幼馴染だった。家が近い、真向いというだけだが、小学校から高校までずっと同じなのだ。高校に入ればさすがに離れるかと一彦は思ったが、ここから歩いていける範囲に公立高校があれば、そこを目指すのは常套と言える。高校三年生になった今、この双子姉妹との関係は長く続いていた。

「悪いな。ちょっと寝坊しちゃって」

 一彦が謝罪を述べると、小毬はにこやかに笑った。

「よろしい。どうせ昨日夜更かししたんでしょ」
「いつもと同じ時間に寝たんだけどな。まあ、ほら、ぐっすり寝やすい季節じゃねえか」

 今は五月、暑くもなく寒くもない季節だ。眠るにはちょうどよい季節ということもあり、一彦はいつもより長く寝てしまったのだ。その結果、いつもより出てくるのが遅くなってしまった。そこを小毬に責められているのである。

「姉さん、一彦、行こ。遅刻するよ」

 陽毬はそう言ってさっさと歩いていってしまう。一彦と小毬は慌ててその背を追った。

「一彦、宿題やった?」

 小毬が歩きながら一彦に尋ねる。一彦はふふんと笑った。

「やってあるんだなあ、これが。いつもの俺と思うなよ」

 一彦がそう言うと、小毬は苦笑した。

「やってあるのが普通なんだけどぉ。ねえ、問十一って解けた?」
「わかんねえ。陽毬は解けたのか?」
「ん、特に、困ったところはなかったけど」
「えぇ? 陽毬、解けたなら言ってよ。あたし解けなかった」
「そんなに難しくなかったから、姉さんも解けたんだと思ってた。ごめん」

 陽毬は歩きながら謝罪する。小毬はそれを受けて頷いた。

「着いたら陽毬の解説タイムね。一彦も解けてないなら聞くでしょ?」
「ぜひお願いしたいところだな。俺はその前の問十もわかってないから」
「あれは公式使えば解ける。解説も何もない」
「え? あれ公式使えんの? なんか見た目が違うから使えないんだと思ってた」
「ちょっと形変えるだけ。いやらしい問題ではあるけど」

 陽毬はそう言って苦笑した。

 これが三人の関係性である。毎朝一緒に登校して、前の日の話やその日の話を共有する。誰かと誰かが近いわけでもなく、三人でひとつの塊になっている。

 ただ、それは見せかけだけの話だ。本当は、三人でひとつではない。

 一彦は陽毬にこそこそと話しかける。小毬には気づかれないように、ひっそりと。

「陽毬、今日はどう?」
「今日? いいよ、わかった」

 陽毬はすぐに首肯した。それだけで二人は通じ合っている。二人にしかわからない隠語がそこにはある。

「ん? なに、二人で話しちゃって」

 小毬が二人だけで話しているのを咎めるように言う。一彦は慌てた様子もなく、その場を取り繕った。

「宿題の話だよ。俺は問九から詰まってるから」
「問九から詰まってるなら宿題全部できてないじゃない」

 数学の宿題は問九から問十一までだ。小毬が言うように、問九からできていないのであれば全て解けていないことになる。しかし、一彦は現に問九から解けていないのだから、何も言いようがない。

「仕方ねえだろ、数学は苦手なんだよ」
「それにしたって問九は解けるでしょ。公式に当てはめるだけなんだから」
「それができないくらい数学と俺の相性は悪い」
「じゃあ相当悪いのね。今度のテストも頑張らないとね、一彦は」

 小毬は笑いながら一彦の肩を叩く。一彦は肩を竦めるしかない。

「大丈夫だ、俺には陽毬先生がついてるからな」
「わたしに言われても困る」

 陽毬はばっさりと一彦の言い分を切り捨てた。今度は一彦がお願いに転じる。

「なあ頼むよ陽毬先生。俺に宿題教えてくれよお」
「だから、公式使うだけなんだから簡単に解ける」
「陽毬、問十一はあたしも聞きたいわ。公式が使える形に変えればいいの?」

 二人から頼まれて、陽毬は溜息を吐いた。陽毬が折れるのは時間の問題だった。

「わかった。学校着いたら教えるから、それでいい?」
「おお、さんきゅー」
「頭が良い妹を持つと助かるわね」
「姉さんは普通に解けると思うけど。一彦はちゃんと勉強したほうがいいかもね」
「それができねえんだよなあ。陽毬が手取り足取り教えてくれるならいいけど」

 冗談交じりで言った一彦の言葉に反応したのは小毬だった。一彦と陽毬の間を遮るようにしながら、小毬は言った。

「だめよ、そんなの。陽毬が何されるかわからないじゃない」
「お前の中での俺は何なんだよ。モンスターか何かなのか?」
「とにかく、だめ。二人っきりで勉強するなんて」
「姉さんも一緒ならいいでしょ。三人で勉強しよ」

 陽毬は若干呆れたように言った。こんなやり取りはいつものことだ。小毬は陽毬と一彦が二人になることを嫌っている。まるで、二人になったらすることを知っているかのように。

 一彦は小毬が知らないと断じていた。知っているならばこのような関係にはならない。小毬が知ったら、それこそこんなに平和に三人で登校できるはずがないのだ。小毬が気を遣うか、陽毬が嫌がるかのどちらかになる。

「ま、近々勉強会ってことで、いいか?」

 一彦が話をまとめる。小毬も陽毬も賛同した。

「いいんじゃない? 陽毬先生に教えてもらいましょう」
「教えるも何も、公式覚えればできるはずなんだけど」

 陽毬は首を傾げていた。公式を覚えられない一彦や、公式を使える形に変えられない小毬のことを不思議に思っているようだった。

 三人で話しているうちに、学校に着く。靴箱で靴を内履きに履き替えるためにいったん三人は別れる。

 今日はいいのか。今日のやる気はそれを楽しみにするだけだな。

 一彦は靴を履き替えながら、内心では放課後のことばかり考えていた。なぜなら、陽毬が今日はよいと言ったからだ。それは一彦にとって大きな意味を持つ。今日一日のやる気を左右すると言っても過言ではない。

 一彦は内履きに履き替えて、また双子と合流する。クラスまで一緒なのだから、当然の流れだった。

「あーあ、早く休みにならないかなぁ」

 小毬がぼやく。一彦にとって休みは別に重要なものではなく、むしろかえって不都合だった。しかしそれをおくびにも出さず、小毬に同調する。

「な。早く家でごろごろしたい」
「でも姉さんは部活があるでしょ。休みじゃないじゃん」
「部活と授業は別でしょう? 部活だけなら学校に来たって構わないわ」

 小毬は硬式テニス部に所属している。土日も練習があるような厳しい部活動だが、小毬は特に苦とも思っていないようだった。休日には休みたい一彦にはその心がわからない。

「そりゃ熱心なことで。俺と陽毬は家でだらだらしてるよ」
「わたしは別にだらだらしてない」
「ええ? お前、まさか受験勉強とか言うんじゃないだろうな?」
「勉強はしてる。一彦と一緒にしないで」

 陽毬はさらりと言った。一彦は頭を掻いて、話題を強引に逸らした。

「ああ、ええと、今日小毬は部活なのか?」
「そうね。平日だし、休止の話は来てない」
「大変だなあ。いやあ、大変だ」
「絶対そう思ってないでしょ。一彦、嘘をつくならもう少しわかりにくくして」

 小毬が笑いながら一彦に言った。一彦も笑って応えた。

 小毬が部活動ということは、家に帰ってくる時間も遅い。今日は充分に楽しめそうだ。

 一彦は人知れず拳を握り、双子とともに教室に入った。





「お邪魔します」

 陽毬は誰もいない一彦の家にそう言って、中に入った。ちゃんと革靴を揃えているあたり、一彦とは丁寧さに違いが感じられる。一彦なら、誰もいないとわかっている家で靴を揃えることはしない。

 授業が終わってから、一彦と陽毬は二人で一彦の家まで帰ってきた。二人には約束があるからだ。表には出せないような秘密の約束が。

 一彦はこの先の展開を予想して鼓動を速くしながら、二階にある自分の部屋へと陽毬を誘導する。陽毬も勝手知ったる我が家かのように、二階へと上がっていく。陽毬が知っているのはこの家の全貌ではなく、一彦の部屋と脱衣所、浴室だけだ。

 一彦と陽毬は一彦の部屋に入った。ベッドと勉強するための机、それに漫画だらけの本棚が置いてある部屋だ。そこに通学鞄を二人とも下ろして、一彦が待ち望んでいた行為が始まる。

 一彦は陽毬が鞄を下ろしたのを見届けてから、陽毬の身体を抱き寄せた。小柄な陽毬の身体は簡単に一彦の腕の中に収まる。陽毬も嫌な顔はせず、されるがままに一彦の腕の中に収まっている。

 これが二人の本当の関係だった。小毬には言えない、秘密の関係。

 二人はセックスフレンド、いわゆるセフレなのだ。

「陽毬……陽毬はいい匂いがするよな」
「やめて。嗅がないでよ、お風呂入ってないのに」
「でもいい匂いがする。俺、陽毬の匂い好きだよ」
「わたしも、一彦の匂いは好き。でも嗅がないで。お風呂入ってないんだから」

 弱い拒否感を示しながらも、陽毬は一彦の腕の中でおとなしくしている。一彦は陽毬を抱いたまま、首筋にキスを落としていく。ぴくりと陽毬が反応するのを見逃すことはなく、一彦は陽毬の首筋に唇を落とす。

「風呂入ってなくても陽毬はいい匂いだよ」
「褒めてる? ねえ、できたらシャワー浴びたいんだけど」
「そんな時間ねえだろ。小毬が帰ってくるまでに全部終わらせたいんだろ?」
「ん、それは、そうだけど……ぁんっ」

 一彦が陽毬の項に吸い付くと、陽毬は声を上げた。項ならキスマークをつけてもバレないだろうと一彦は思っていた。いや、バレても構わないのだ。陽毬は誰かのものなのだと知らせるためにキスマークをつけるのだから。そしてそれが自分のものだと知っているのは、自分と陽毬だけなのだ。

 首筋にキスをしながら、一彦は陽毬の太腿を撫でる。ぶるっと陽毬が身震いするのが伝わってくる。手触りの良い陽毬の太腿を上下に撫で続けていると、陽毬の吐息が熱くなっていく。一彦はそれを知りながら、陽毬が何か言うまでじっと太腿を撫でている。

「ん……ねえ、一彦」

 堪らず陽毬が一彦に声をかけた。それが合図だとでもいうように、一彦は陽毬の胸に服の上から触れた。手に納まるくらいの大きさの乳房をブラジャー越しに触る。

「陽毬……なあ、陽毬に触りたい」

 一彦が直接的な言葉で陽毬に言うと、陽毬は小さく頷いた。それを受けて、一彦は陽毬のワイシャツの下から手を入れる。キャミソールも越えて、一彦の手はブラジャーのホックにかかる。陽毬は何も言わず、ただ一彦の動きに身を任せていた。

 一彦はそれを了承の証と受け取り、ブラジャーのホックを外した。それから手を前に回して、あらわになった乳房に触れた。陽毬の反応を見ながら、柔らかい乳房を手で包むように揉む。

「あ……んっ」

 陽毬は一彦に身体を預けて、一彦の手を受け入れていた。どこを触られようとも、大きな抵抗を見せることはなかった。

「陽毬、ベッドに行こう」

 一彦は陽毬をベッドに誘導した。陽毬の後ろから覆い被さるようにベッドに座り、一彦は陽毬の胸に触れ続ける。陽毬は変わらず、一彦に全てを任せていた。

「陽毬、やっぱり、いい匂いする」
「やめてよ。今日だって暑かったんだから、汗かいてるんだし」
「それでもいい匂いなんだよ。俺、陽毬と相性いいんだよ」
「どういうこと?」
「ほら、汗かいてもいい匂いだって思うってことは遺伝子的にいいカップルになれるって言うだろ。そういうことなんだよ、俺と陽毬は」
「そうなの? なんか、嘘くさいけど……ん、あっ」

 一彦が陽毬の乳房を弄び、陽毬が弱い反応を返す。一彦はそれを続けながら、そっと陽毬の胸の頂に触れた。

「ああっ……!」

 びくんと陽毬が反応して、一彦にもその官能の強さを知らせる。固く勃起した乳首を指先でこねくり回すと、陽毬は一彦の腕の中で悶えた。

「か,一彦、急に、そんなことしないで……っ」
「ごめん。でも、陽毬が可愛いから」
「あぁっ、ん、なんでもそう言っておけばいいと思ってるでしょ……!」

 陽毬から非難の声を受けても、一彦は陽毬の乳首を弄んだ。陽毬の口から熱い吐息や嬌声が漏れても気にせずに触れ続ける。

 やがて陽毬が一彦の手を掴んだ。陽毬が顔を動かし、一彦の首筋にキスを落とす。

「ねえ、一彦、もういいから……こっち、触って」

 陽毬が一彦の手を秘所へと導く。一彦は抗うことなく、ショーツ越しに陽毬の秘所に触れた。そこはしっとりと湿っていて、ショーツ越しでも濡れているのがよくわかった。

 一彦はショーツの中に手を突っ込み、秘所に指を這わせた。薄い陰毛を掻き分け、秘所に触れると、愛液でとろとろになった秘所が一彦を出迎えた。

「あ……あっ、ん……」

 秘所に触れると陽毬はひときわ強く反応した。一彦は後ろから抱き締めるようにしながら、陽毬の秘部に触れて官能を高めていく。

「あぁ……っ、あ、あ……っ」

 膣口を弄ると陽毬の声のトーンが高くなる。もう準備ができていると判断した一彦は、膣口から中指を膣内に侵入させた。ぬるりと指が入っていき。陽毬が高い嬌声を上げた。

「あああっ、あ、あぁっ……!」

 愛液で蕩けた膣内は一彦の指を歓迎した。きゅうきゅうと締まる膣内はいつでも大丈夫だと言わんばかりに準備が整っていた。一彦はそれを指で確認して、膣内から指を引き抜いた。

 一彦は陽毬から離れ、自分のスラックスとトランクスパンツを脱ぎ去った。隆々と勃ち上がった陰茎を見て、陽毬は薄く微笑んだ。

「すごい。やる気満々」
「当然だろ、陽毬のあんな声聞いたらどんな男だってこうなる」
「ふふ、ほんと? 一彦だけじゃないの」
「俺だけじゃねえよ。陽毬も、ほら」

 一彦が催促すると、陽毬は自分の白いショーツを脱いだ。はだけたワイシャツと、上のほうでくしゃくしゃになったスカート。露出した秘部。一彦の興奮を高めるには充分すぎた。

 陽毬は横になり、股を開く。一彦はその間に入り、陽毬の秘所に自分の陰茎を当てる。そこで思い出したように、陽毬が言った。

「一彦、今日は中で出して大丈夫だから」
「そうなのか? じゃあ、遠慮なく」
「まあ、ゴムするのが嫌だっていうだけなんだけど。でも大丈夫だから、気にしないで」

 陽毬はそう言って微笑んだ。一彦にとっては、コンドームを着けるかどうかは重要だ。陽毬が着けなくてよいというのであれば、着けずにやるのが男というものだろう。男はいつだってコンドームを着けたくないものだ。

 一彦は陽毬の上に覆い被さるようにして、屹立した陰茎を陽毬の秘部にあてがった。陽毬も緊張したような面持ちで、その挿入を待っていた。

 そして、一彦が待ち望んでいた瞬間、陰茎が陽毬の膣内に沈んでいく。

「あああっ……、あ、ああ……っ!」

 陽毬が甘美な声を上げ、一彦の陰茎を受け入れる。陽毬の潤った膣内は難なく一彦の陰茎を受け止め、貪るように吸い付いていく。一彦は持っていかれないように歯を食いしばり、ずぶずぶと沈めていって膣奥へと到達する。そこで動きを止め、陽毬が落ち着くのを待った。いや、落ち着くべきは自分であって、陽毬の声を待つのは自分のためでもあった。

「はぁ、あ……っ、一彦、いいよ、動いて……?」

 陽毬から懇願するような声で言われる。そうなれば、一彦は動くしかない。

 一彦はまだ我慢しきれていない自分を懸命に我慢させて、ゆっくりと動かしていった。ずるずると引き抜くたびに、ずぶりと突き入れるたびに、痺れるような快感が一彦を襲う。

「ああっ、あ、あん、ぁんっ、ああんっ!」

 緩慢な律動でも陽毬は官能の声を上げる。一彦は陽毬の腰に手を添えて、徐々に動きを激しくしていく。それは自分が陽毬の膣内の刺激に慣れてきたからだった。

「あっ、ああっ、あぁ、ん、んんぅ、ふああぁっ!」

 陽毬は一彦の動きに合わせたように鳴く。その声がますます一彦の官能を呼び覚まして、めちゃくちゃにしてやりたいと思わせる。目の前の大好きな女を乱れさせてやりたいと思わせる。一彦は陽毬の乱れた声を聴くために腰を振った。

「あぁんっ、あ、ああ、ん、んんっ、んんぅっ、ふううっ!」

 陽毬は一彦に向かって手を伸ばした。抱きしめてほしいという合図だと一彦は理解していた。一彦は身体を前に倒して、陽毬の手の届く範囲に身体を寄せた。陽毬は一彦の背に手を回し、ぎゅうっとその身体を抱き締めた。同時に、陽毬の膣内もきゅうきゅうと締め付けてくるようになる。

 一彦はその刺激を受け止め、ぐっと堪えて腰を振り続けた。

「ああっ、あ、ん、あぁんっ、か、一彦、一彦……っ!」
「陽毬、そんなにされたらすぐイっちゃうぞ……!」
「だめ、まだ、だめ……っ、もっと、一彦を感じさせて……!」

 陽毬は無茶な要求をする。一彦は苦笑して、陽毬の身体を強く抱きしめた。

「陽毬、陽毬、好きだ、陽毬……っ!」
「ばか、好きだっていうのは、だめだって言ったでしょ……! ああぁっ、あ、ああっ、ん、んんぅっ、ふああっ!」

 愛を囁いても陽毬には届かない。なぜなら、そういう約束だからだ。恋人ではなく、あくまで性欲を処理するための仲だということになっているから。一彦にとっては厄介極まりない約束だったが、これを守らなければ陽毬を抱けないのだから飲むしかない。

 一彦の中では、陽毬が自分のことをどう思っているのかは疑問だった。嫌いではないはずだ、嫌いな人間と性行為などするはずがない。では、好きなのかというと、それはわからない。陽毬は単に抱いてくれる都合の良い男がいたから一彦を選んだのであって、一彦に対して恋愛感情はないのかもしれない。それは、陽毬の反応から察することはできない。

「あっ、あ、ああっ、ん、んんっ、ん、一彦、一彦っ!」

 陽毬が乱れた声で一彦の名を呼ぶ。一彦は膣肉の絡みつく刺激に耐えながら腰を動かす。淫靡な動きに翻弄されそうになりながら、一彦は自分を律する。まだ、まだ、陽毬と身体を重ねていたいから。

「ああっ、あ、ああっ、んぅ、んんっ!」

 びくんと陽毬の身体が跳ねる。一彦は陽毬の絶頂を予感して、ますます自分の腰の動きを速めた。自分にも限界が近いことはわかっていた。

「あああっ、か、一彦、も、だめ……っ、あ、ああっ、あああっ!」
「俺も、もう、だめだ、イく……っ!」
「ん、いいよ、きて、一彦、きて……っ、ああっ、ああぁっ!」

 ぱんぱんと身体がぶつかり合う音が部屋に響く。そんなことなど気にせず、一彦は肉棒を陽毬の膣内に送り込んだ。激しい抽送を受けて、陽毬の膣内がますます狭くなる。

「あ、あぁっ、んぅ、一彦、一彦……っ!」
「陽毬、もう、イく……っ、出すぞ……っ!」
「ん、いいよ、中で、中で出して……っ、ああ、ああぁっ、ふああぁんっ!」

 陽毬は両手を一彦の背に回して、ぎゅっと抱きしめた。一彦も最後の一瞬まで我慢し続けて、陽毬の身体を貪る。ぬるぬると滑る媚肉を陰茎で楽しむ。

 そして、一彦が達すると同時に、膣内がぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

「ああああぁぁ……っ!」

 一彦はそのまま陽毬の膣内に射精した。溜まっていた欲望が一気に陽毬の膣内に吐き出されていく。陽毬はびくんと身体を震わせながら、その熱い液体を受け止める。一滴残らず注ぎ込んでもなお、一彦は陽毬の身体を抱いていた。

「あぁ、はあ、はあ……っ、あぅ、一彦……」
「陽毬……陽毬、やっぱり俺、陽毬が」

 好きだ。そう言おうとした口を、陽毬の指が塞いだ。

「だめ。わたしたちはそういう関係じゃない」

 一彦は何も言えず、ただ黙って陽毬の身体を抱くだけに留めた。陽毬のことを好きだと思う気持ちは、陽毬にとっては不要なものなのかもしれなかった。

「ねえ、一彦」
「なんだよ」
「キスして」

 好きだという気持ちは受け入れてくれないのに、キスを欲するというのは、いったいどういうことなのだろうか。陽毬は俺のことをどう思っているのだろうか。

 一彦はそんな疑問を持ちながら、陽毬の唇を奪った。柔らかくて、甘いキスだった。

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