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第16話
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「ふう……これで、邪魔者はいなくなりましたね?」
キリヤはそう言うと、エイリスの元へ歩いていって、その手を取った。
そして恭しく持ち上げると、手の甲へ静かに口づける。
エイリスの手に、唇の柔らかな感触が伝わった――
「な、何を……――」
手の甲に口づけたまま目線を上げたキリヤは、エイリスの目に妖艶に映った。
その表情はとても精悍で、猫というよりは豹――大人の男を思わせる。
そんな彼がエイリスの瞳を見詰めながら、囁く。
「エイリスさん、告白させて下さい。捨てられた花を元気にしてくれたあなたに恋をしました。僕はあなたのことだけを守りたい……いいですか?」
「え、え……? キリヤ……?」
「僕は今まで戦いにしか生きる意味を見出せませんでした。でもあなたという女性が現れてから、この胸が絶えずときめいている。僕は知っている、あなたがどんな戦士よりも強く、そして優しいという事実を――」
「そ、そんな……――」
エイリスが目を白黒させていると、片方の手も持ち上げられた。
見ると、その手をレイトが真剣な面持ちで握り締めている。
陛下まで……一体何を……――
「キリヤ、抜け駆けをするな。聖女様……いえ、エイリス様。一目見た時からあなたを王妃に迎えると決めておりました。どうか、結婚して下さい」
「えっ、ええっ……!? 陛下……!?」
「私は今まで何人もの王妃候補と語らってきました。そんな日々の中、自分の伴侶となるべき人は誰ひとりとしていないと嘆いていたのです。しかしあなたという女神が現れ、心が決まりました。私の愛をあなたに捧げます――」
「な、何を言って……――」
エイリスが取り乱しても、二人はその手を離そうとしない。
美しくも有能な兄弟に求愛され、エイリスは息が止まりそうになった。
「我が姫君……」
「エイリス様……」
ああ……遠くからコーディとトワイルさんが睨んでいる……――
しかもそんな二人を兄弟が目で威嚇しているわ……――
どうしたら……どうしたらいいの……――
エイリスがおろおろと辺りを見渡していると、その影が揺らいだ。
『それは俺の女だ、小僧共――』
「チッ……魔王ですか……」
「おや、魔王様」
『随分と不満げだな、転移者の兄弟よ。しかしその女が俺のものだということはお前らが生まれる前から決まっているのだ――手を放せ』
突然の魔王の登場に、キリヤとレイトは愛しい相手から名残惜しそうに手を離す。
やがて魔王は影から全身を現すと、エイリスの肩を抱いて満足気に微笑んだ。
そして広間を一通り見渡し、邪竜の首を見るなり鼻で笑った。
『この程度のドラゴン如きで、世界を滅ぼそうとは笑わせるな――』
「ええ、邪竜より、あなたが相手だった方がヤバかったですよ」
『ふん、舐めた口を利く』
魔王はキリヤを一瞥すると、レイトへ向かってこう告げた。
『今日、魔王軍はデルラ国へ攻め入った。数日も経たぬうちにあの国は滅ぶだろう』
「そうですか。では我が国はデルラ国民の受け入れと保護を進めます」
『承知した。ただし悪人は一人たりとも逃がさぬがな』
そう……魔王軍がデルラ国に……――
エイリスはそれを聞いて少しだけ寂しい思いに駆られた。
彼女の両親は三年前に流行り病で亡くなり、すでに実家はない。
それでも生まれ故郷が消えてなくなるのは悲しいような心地がした。
しかしデルラは腐敗した悪しき国――
あれは、なくなった方がいいのだ――
「さようなら……デルラ国……――」
キリヤはそう言うと、エイリスの元へ歩いていって、その手を取った。
そして恭しく持ち上げると、手の甲へ静かに口づける。
エイリスの手に、唇の柔らかな感触が伝わった――
「な、何を……――」
手の甲に口づけたまま目線を上げたキリヤは、エイリスの目に妖艶に映った。
その表情はとても精悍で、猫というよりは豹――大人の男を思わせる。
そんな彼がエイリスの瞳を見詰めながら、囁く。
「エイリスさん、告白させて下さい。捨てられた花を元気にしてくれたあなたに恋をしました。僕はあなたのことだけを守りたい……いいですか?」
「え、え……? キリヤ……?」
「僕は今まで戦いにしか生きる意味を見出せませんでした。でもあなたという女性が現れてから、この胸が絶えずときめいている。僕は知っている、あなたがどんな戦士よりも強く、そして優しいという事実を――」
「そ、そんな……――」
エイリスが目を白黒させていると、片方の手も持ち上げられた。
見ると、その手をレイトが真剣な面持ちで握り締めている。
陛下まで……一体何を……――
「キリヤ、抜け駆けをするな。聖女様……いえ、エイリス様。一目見た時からあなたを王妃に迎えると決めておりました。どうか、結婚して下さい」
「えっ、ええっ……!? 陛下……!?」
「私は今まで何人もの王妃候補と語らってきました。そんな日々の中、自分の伴侶となるべき人は誰ひとりとしていないと嘆いていたのです。しかしあなたという女神が現れ、心が決まりました。私の愛をあなたに捧げます――」
「な、何を言って……――」
エイリスが取り乱しても、二人はその手を離そうとしない。
美しくも有能な兄弟に求愛され、エイリスは息が止まりそうになった。
「我が姫君……」
「エイリス様……」
ああ……遠くからコーディとトワイルさんが睨んでいる……――
しかもそんな二人を兄弟が目で威嚇しているわ……――
どうしたら……どうしたらいいの……――
エイリスがおろおろと辺りを見渡していると、その影が揺らいだ。
『それは俺の女だ、小僧共――』
「チッ……魔王ですか……」
「おや、魔王様」
『随分と不満げだな、転移者の兄弟よ。しかしその女が俺のものだということはお前らが生まれる前から決まっているのだ――手を放せ』
突然の魔王の登場に、キリヤとレイトは愛しい相手から名残惜しそうに手を離す。
やがて魔王は影から全身を現すと、エイリスの肩を抱いて満足気に微笑んだ。
そして広間を一通り見渡し、邪竜の首を見るなり鼻で笑った。
『この程度のドラゴン如きで、世界を滅ぼそうとは笑わせるな――』
「ええ、邪竜より、あなたが相手だった方がヤバかったですよ」
『ふん、舐めた口を利く』
魔王はキリヤを一瞥すると、レイトへ向かってこう告げた。
『今日、魔王軍はデルラ国へ攻め入った。数日も経たぬうちにあの国は滅ぶだろう』
「そうですか。では我が国はデルラ国民の受け入れと保護を進めます」
『承知した。ただし悪人は一人たりとも逃がさぬがな』
そう……魔王軍がデルラ国に……――
エイリスはそれを聞いて少しだけ寂しい思いに駆られた。
彼女の両親は三年前に流行り病で亡くなり、すでに実家はない。
それでも生まれ故郷が消えてなくなるのは悲しいような心地がした。
しかしデルラは腐敗した悪しき国――
あれは、なくなった方がいいのだ――
「さようなら……デルラ国……――」
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