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第14話
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「うぐぐっ……! クソっ……クソぉ……!」
王子は血が滲まぬばかりに歯ぎしりすると、剣を抜いた。
そしてトワイルへと猛然と向かっていったのだ――その瞬間、エイリスは数本の銀色の糸が走るのを見た。
剣を抜いてすらいなかったトワイルが剣を鞘に納める仕草をする。
ぐらり、と王子の体が揺れた。
「ぐ……ぐぐ……この野郎がぁ……――」
見ると、王子の服に幾筋もの切れ目が入っていた。
その隙間から肌が覗くが、傷はついていない。
トワイルは王子を殺すことはしなかった。
「安心して下さい。皮膚を斬ってはおりません。さあ、話し合いを――」
「ふざけるなッ……! 誰がてめぇらと話し合いなんかするかよ……! 俺はエイリスを連れ帰らなければ、王位継承権を剥奪されるんだ……! 国王に見捨てられた俺には帰る場所なんて、もうどこにもないんだよ……!」
王子は憔悴し切った顔で捲し立てる。
そして指を鳴らし、こう叫んだ。
「この俺の……デルラ国の恐ろしさを思い知らせてやる……!」
その時、王子の服の中から一匹の蝙蝠が飛び上がった。
それは広間を飛び交い、開いた窓から外へと逃げる。
蝙蝠は一直線にデルラ国の方向へ飛んでいった。
「まさか伝令を……!?」
「バイロン王子、何をしたのです!?」
レイトとエイリスの問いに、王子はにやりと口を歪ませた。
その様子は今までの王子とは違う――どこか絶対的な優越を滲ませている。
これは一体……何が起ころうとしているというの……?
デルラ国にはスライア国に適う兵力はないのに、あの余裕は何なの……?
不安に駆られるエイリスをよそに、王子は一脚の椅子を引き寄せ、そこに座った。
「ひとつ、昔話をしてやる。よぉく聞けよ?」
そして王子は話し始めた――
「我が国は近隣諸国と比べ、最も歴史の深い国だ。そのため、古い言い伝えが残っている。かつてこの大陸には世界を滅ぼせるほどの邪竜がいた。そいつはあらゆる魔法を使いこなし、果てしない体力と精神力で国を焼き尽くすほどの火炎を吐く――そんな途轍もない化物だ。どうだ、聞いたことあるか、エイリス?」
エイリスは緊張したまま首を横に振った。
そんな話しは一度も聞いたことがない。
王子は嘲笑いながらも話しを続ける。
「くく……知らねぇだろ? 当然だ、これは王位継承者にしか伝えられていないからな。話しを戻そう、その邪竜はあらゆる国を滅ぼし、ついにデルラ国へやって来た。しかしそこで聖女に封印されることとなる。その聖女はエイリスの先祖だが、お前とは比べ物にならない強い聖力を持っていた。デルラ国王はその聖女を娶り、邪竜を封じた岩上に王宮を築いて封印を守った。……そろそろ俺の意図が分かってきたか?」
広間に騒めきが広がっていた。
まさか、彼は途轍もなく恐ろしいことをしようとしているのでは――そんな視線を受けると、王子は一層嬉しそうにこう告げる。
「そう、俺は伝令を飛ばし、従者に邪竜の封印を解くように伝えた! もうデルラ国も、スライア国も、この世界も、一巻の終わりだ! はっはははぁッ!」
王子の高笑いが響き渡る――
そ、そんな……信じられない……――
まさか王子がそんなことを企んでいたなんて……――
このままじゃ、私達は……いいえ、世界が滅んでしまう……――
エイリスも、レイトも、誰しもが体を強張らせ、立ち尽くしていた。
しかしコーディだけが王子の胸倉を掴んで、こう訴えかける。
「今すぐ封印を解かないよう、伝令を送って下さい! その邪竜が復活すれば、あなただって死ぬんですよ!? それが分からないんですか!?」
「ハッ、残念だったな! 王宮で暮らしている者は岩の聖力を受けるため、邪竜から守られるんだ! 特に岩の近くに部屋を構えた俺と国王はな!」
「何ですって……!? 卑怯な……――」
王子は狂ったように笑い、そして喚き散らす。
「お前らはもうお仕舞だ! 最強最悪の邪竜、レジェンダリードラゴンに食い殺されるんだぁ! 俺はそれを高みの見物といこうじゃねぇか! あっははははッ!」
王子は血が滲まぬばかりに歯ぎしりすると、剣を抜いた。
そしてトワイルへと猛然と向かっていったのだ――その瞬間、エイリスは数本の銀色の糸が走るのを見た。
剣を抜いてすらいなかったトワイルが剣を鞘に納める仕草をする。
ぐらり、と王子の体が揺れた。
「ぐ……ぐぐ……この野郎がぁ……――」
見ると、王子の服に幾筋もの切れ目が入っていた。
その隙間から肌が覗くが、傷はついていない。
トワイルは王子を殺すことはしなかった。
「安心して下さい。皮膚を斬ってはおりません。さあ、話し合いを――」
「ふざけるなッ……! 誰がてめぇらと話し合いなんかするかよ……! 俺はエイリスを連れ帰らなければ、王位継承権を剥奪されるんだ……! 国王に見捨てられた俺には帰る場所なんて、もうどこにもないんだよ……!」
王子は憔悴し切った顔で捲し立てる。
そして指を鳴らし、こう叫んだ。
「この俺の……デルラ国の恐ろしさを思い知らせてやる……!」
その時、王子の服の中から一匹の蝙蝠が飛び上がった。
それは広間を飛び交い、開いた窓から外へと逃げる。
蝙蝠は一直線にデルラ国の方向へ飛んでいった。
「まさか伝令を……!?」
「バイロン王子、何をしたのです!?」
レイトとエイリスの問いに、王子はにやりと口を歪ませた。
その様子は今までの王子とは違う――どこか絶対的な優越を滲ませている。
これは一体……何が起ころうとしているというの……?
デルラ国にはスライア国に適う兵力はないのに、あの余裕は何なの……?
不安に駆られるエイリスをよそに、王子は一脚の椅子を引き寄せ、そこに座った。
「ひとつ、昔話をしてやる。よぉく聞けよ?」
そして王子は話し始めた――
「我が国は近隣諸国と比べ、最も歴史の深い国だ。そのため、古い言い伝えが残っている。かつてこの大陸には世界を滅ぼせるほどの邪竜がいた。そいつはあらゆる魔法を使いこなし、果てしない体力と精神力で国を焼き尽くすほどの火炎を吐く――そんな途轍もない化物だ。どうだ、聞いたことあるか、エイリス?」
エイリスは緊張したまま首を横に振った。
そんな話しは一度も聞いたことがない。
王子は嘲笑いながらも話しを続ける。
「くく……知らねぇだろ? 当然だ、これは王位継承者にしか伝えられていないからな。話しを戻そう、その邪竜はあらゆる国を滅ぼし、ついにデルラ国へやって来た。しかしそこで聖女に封印されることとなる。その聖女はエイリスの先祖だが、お前とは比べ物にならない強い聖力を持っていた。デルラ国王はその聖女を娶り、邪竜を封じた岩上に王宮を築いて封印を守った。……そろそろ俺の意図が分かってきたか?」
広間に騒めきが広がっていた。
まさか、彼は途轍もなく恐ろしいことをしようとしているのでは――そんな視線を受けると、王子は一層嬉しそうにこう告げる。
「そう、俺は伝令を飛ばし、従者に邪竜の封印を解くように伝えた! もうデルラ国も、スライア国も、この世界も、一巻の終わりだ! はっはははぁッ!」
王子の高笑いが響き渡る――
そ、そんな……信じられない……――
まさか王子がそんなことを企んでいたなんて……――
このままじゃ、私達は……いいえ、世界が滅んでしまう……――
エイリスも、レイトも、誰しもが体を強張らせ、立ち尽くしていた。
しかしコーディだけが王子の胸倉を掴んで、こう訴えかける。
「今すぐ封印を解かないよう、伝令を送って下さい! その邪竜が復活すれば、あなただって死ぬんですよ!? それが分からないんですか!?」
「ハッ、残念だったな! 王宮で暮らしている者は岩の聖力を受けるため、邪竜から守られるんだ! 特に岩の近くに部屋を構えた俺と国王はな!」
「何ですって……!? 卑怯な……――」
王子は狂ったように笑い、そして喚き散らす。
「お前らはもうお仕舞だ! 最強最悪の邪竜、レジェンダリードラゴンに食い殺されるんだぁ! 俺はそれを高みの見物といこうじゃねぇか! あっははははッ!」
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