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第1話

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 聖女エイリスは自らの城の塔から領土を見下ろしていた。
 二年前、平民であった彼女は聖女としての力を認められ、辺境伯の爵位を賜った。
 しかし本来なら聖女ともなれば公爵の爵位を受け、王子と婚約するはずだ。
 なぜエイリスは辺境伯に留まっているのか――それは結界を貼る力しか発現しなかったためである。
 聖女は祈り、結界、治癒、奇跡、四つの力を発揮して初めて一人前と言われる。
 だがエイリスはその内の結界しか使えないのだった。
 それを王侯貴族が知った時の落胆の様子はいまだに彼女の心に刻まれいてる。
 結局、王家は王子との婚約は保留とし、結界を管理できる国境沿いへ聖女を追いやることにして場を収めた。
 そして聖女の田舎暮らしが始まった――
 初めは鬱々としていたエイリスも、従者や使用人、そして領土の村人達の温かさに触れていくにつれ心が穏やかになっていった。
 生涯をここで終えてもいい、そう思っていた時だった。

「聖女エイリス! 城門を開けよ! これは国王の命令だ!」

 エイリスは塔から城門前を見下ろし、頭が痛くなった。
 そこには護衛を引き連れたバイロン王子、そしてその胸に抱かれた少女がいた。
 王子はなかなか返事をしないエイリスにしびれを切らし、書状を突き付けさせる。

「これは王の紋章が押された書状だ! 今すぐここを開けねば、罰せられるぞ!」
「ああ……もう! 分かりました! 門を開けます!」

 エイリスは信頼のおける従者コーディに門を開けるよう指示した。
 やがて城門が開くと、王子達はぞろぞろと城の中へ入ってくる。
 渋い顔のエイリスは城主として彼らを迎え入れた。

「二年も放置しておいて……今更、何の用です?」
「ふん、エイリス。俺にそんな口をきいていいと思っているのか?」
「それより用件を言って下さい。王の命令なのでしょう?」

 すると王子は従者に書状を広げさせ、こう言った。

「実は先日、聖女の力を発揮する少女が見つかった。結界だけのお前とは違い、四つの力を全て発揮する少女だ。しかし我が国ではすでにお前を聖女として認めている。だから王はその少女とお前に力比べをさせるべきだと言ったのだ」
「力比べ? まさか勝った者を聖女とし、負けた者を聖女から外すつもりですか?」
「その通りだ。そしてこの少女こそが、お前の相手だ」

 そして王子の後ろで待機していた少女が歩み出た。
 可憐――そう言い切れるほどの恵まれた容貌。
 少女は驚くほど愛らしかった。

「初めまして、エイリス様。あたしはリネットですわ。どうぞよろしく」

 その口調は柔らかかったが、目が明らかに敵意を剥いている。
 王子はそんなリネットの肩に手を回すと、愛おしげに囁いた。

「ああ、我がリネット――未来の妻にして聖女よ。お前が勝つに違いない」
「光栄ですわ、バイロン王子様。絶対に勝利してみせます」
「だそうだ、エイリス。もしお前が負けた時は聖女の立場と辺境伯の爵位を剥奪し、この城から出ていってもらうからな? 覚悟しろよ」
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