上 下
5 / 6

5話

しおりを挟む
 そしてルキは指を鳴らした。
 すると彼の背後から清々しい光が差し込む。
 美しい空が見える。この先が楽園なのだろうか。

「さあ、この抜け穴を潜って。その先が私の住む世界だ」

 そう言って彼は私の手を引く。
 すぐにでも抜け穴を潜りたくなったが、ふと思い返した。

「でも国がこんな状態の時、私だけいいのかしら……」
「国の破滅に巻き込まれる善人達が心配なのかい? それなら私の従者達が避難させているから安心していい」
「本当に? 皆、無事なのね?」
「ああ、君が飛ばした守護のお陰で無事だ。それより早く移動した方がいい。聖女の力を感じ取った高位の魔物達が近づいてきている。捕まったら酷い目に遭うだろう」

 その言葉に寒気がした。
 人間ですらあんなに酷いことをするのだ。魔物とは関わりたくない。
 私はルキに近づくと、光の漏れる穴を覗き込んだ。
 花の甘い匂い――私はその香りに誘われるまま抜け穴を潜る。

 目の前に広がったのは薔薇園。
 鮮やかな薔薇が咲き乱れる庭には獣達の姿があった。
 美しい毛並みの獣、可愛らしい獣、筋骨隆々とした獣……様々な獣が戯れている。
 思わず見惚れていると、獣達はこちらに気づいたようだ。
 次の瞬間、獣達が消えて私の手が掴まれた。

「えっ……? なに……?」
「ふむ、強大な力を秘めた匂いがするな」

 そう言ったのは屈強な男性――金髪の長髪を靡かせる彫像のような美男だ。
 私はその手を逃れようともがくが、相手の力が強過ぎてびくともしない。

「へえ、悪しき存在を裁いてきたんだね。優しそうに見えてやるね」

 すると突然、青髪の美少年が私の顔を覗き込んできた。
 眼の奥を覗き込み、不敵に笑う。

「あなたの力は献身的な守護の形をしています。常人にはできないことです」

 すぐ横で穏やかな声がした。
 赤目に白髪の美青年――私を頭のてっぺんからつま先まで眺めている。
 何なの、この人達……。

「お前達! ノアから手を離せ! 彼女は私の客人だ!」

 すぐ後ろからルキの声がして、男達は私からそっと離れた。
 そして彼に向き直り、恭しくお辞儀をする。

「ルキ様の客人とは知らず、失礼を致しました」
「流石はルキ様が連れてきた女性。素晴らしいお人ですね」
「あまりに美しい心を持っていたため、吸い寄せられてしまいました」

 その言葉に私は目を瞠る。
 お世辞でもそんなこと言われたことがなかったから、焦ってしまう。
 おろおろと狼狽えていると、ルキが私の手を掴んだ。

「すまない、ノア。彼らは私の臣下である聖獣達だ。何もされなかったかい?」
「え、ええ……大丈夫だけど、彼らも聖獣なの?」
「皆、各国を守護する聖獣だ。君が滅ぼした大国ほどではないけどね」

 確かに私が住んでいた国は周辺の小国を束ねる大国である。
 まあ、あまりにも腐っていたけれど。
 それにしても臣下を持っているということはルキは地位が高いのだろうか。
 私がじっと顔を見詰めていると、彼が焦ったように目を背けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全て殿下の仰ったことですわ

真理亜
恋愛
公爵令嬢のアイリスは、平民のサリアを虐めたと婚約者のイーサンに婚約破棄を告げられる。理由はサリアに嫉妬したからだと言う。だがアイリスは否定し「家畜に嫉妬する趣味はありませんもの」と言い放つ。平民であるサリアを家畜扱いするアイリスにイーサンは激昂するがアイリスは「殿下が仰ったことではありませんの? お忘れですか?」と言ったのだった。

【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?

かのん
恋愛
 ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!  婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。  婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。  婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!  4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。   作者 かのん

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。

五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」 私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。 「残念だがもう決まったことさ。」 アトラスはもう私を見てはいなかった。 「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」 私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの? まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

聖女は夫の王太子が浮気したので、王孫を連れて出て行くことにしました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。

処理中です...