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第5話
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パトリシアは苦悩していた。
入口でオスニエアルが門番と揉めたのだ。
「だから俺は看護人の夫だ! この女が浮気しないかどうか、見張るのだ!」
「困りますよ……! 看護人の女性しか通すなと言われています……!」
「うるさいッ! さっさと中へ入れろ! 公爵令息に話を通せ!」
そして三十分ほど待ち、二人は公爵家へ入れたのだった。両親の公爵や公爵夫人の挨拶は一切ない。豪華な室内を通り、直ちに公爵令息の部屋へ通される。その広々とした部屋に入るや否やパトリシアは緊張のあまり体が強張った。
「ふう……やっと来たか……」
煌びやかな部屋の奥で、車輪の音がした。
すると車椅子に乗った金髪碧眼の美青年が現れた。
彼の美しさは驚くべきほどで、神話の登場人物を思わせる。
「初めまして、僕はサディアスだ。君達はパトリシアと……誰だい?」
「俺はパトリシアの夫のオスニエルです」
「ああ、オスニエルか」
サディアスは少々小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「今度の看護人は伯爵令嬢だって聞いていたけど、夫人だったんだね?」
「も、申し訳ありません……。私が言い間違えたのです……」
「そうです! こいつは浮気者のアバズレ女なのです! こうやって独身の振りをするから、俺が付いてきました!」
その言葉にサディアスは目を見開いた。パトリシアはこの場から消え去りたくなった。まさか公爵令息相手にそんなことを言うなんて――
「ふうん……まあいいけどね。それより、足の処置をしてほしいんだけど」
「足の処置と言いますと、どのような感じでしょうか……?」
「僕が指示するから、君はその通りに薬を塗ってくれ」
そして処置が始まったのだが、オスニエルがことごとく邪魔をした。
「パトリシアッ!? お前、サディアス様の足に欲情しているなッ!?」
「おいおいッ! 夫の目の前で男の肌に触れる気かぁッ!?」
「貴様ッ! いつまで足を撫でている気だッ!?」
その発言についにサディアスは口を挟んだ。
「うるさいなぁ。これは処置なんだよ? 君の夫は何なんだい?」
「も、申し訳ありません……! サディアス様……!」
「フンッ! この女がアバズレなのが悪いのです! 俺は何も悪くない!」
開き直ったオスニエルにパトリシアは頭が痛くなった。
するとサディアスは腕を組んでこう尋ねた。
「君達、本当に夫婦かい? この男に付き纏われている訳じゃないよね?」
「何だと……!? 言って良い事と悪い事がありますよ……!?」
「ねぇ、パトリシア。君はこんな男と寝たのかい?」
サディアスはオスニエルを無視し、パトリシアに話しかける。
彼女は顔を青ざめさせながら、本当のことを語った。
「い、いいえ……私達は寝てなどいません……。夫は私を淫売だと決め付け、私の胸にある手術跡を見て、汚いと言いました……」
「何だって……? 君は手術を……――」
サディアスは驚いた様子を見せ、考え込んだ。
そしてオスニエルに向かうと、こう言ったのである。
「このパトリシアのどこが淫売なんだい? どう見ても可憐な乙女じゃないか。そんなことも分からないなんて、君はもしかして童貞かい? あ、答えなくていいよ。その顔を見てれば分かるしね。顔も頭も飛び切り悪い君のことだから、きっとパトリシアの噂でも信じて、“処女が相手じゃなきゃ嫌だ!”って子供みたいに駄々をこねたんだろう? あーあ、恥ずかしいね。こんな男は滅んでしまえばいい」
「なっ……なっ……何を……!?」
サディアスは軽蔑の表情のまま続ける――
入口でオスニエアルが門番と揉めたのだ。
「だから俺は看護人の夫だ! この女が浮気しないかどうか、見張るのだ!」
「困りますよ……! 看護人の女性しか通すなと言われています……!」
「うるさいッ! さっさと中へ入れろ! 公爵令息に話を通せ!」
そして三十分ほど待ち、二人は公爵家へ入れたのだった。両親の公爵や公爵夫人の挨拶は一切ない。豪華な室内を通り、直ちに公爵令息の部屋へ通される。その広々とした部屋に入るや否やパトリシアは緊張のあまり体が強張った。
「ふう……やっと来たか……」
煌びやかな部屋の奥で、車輪の音がした。
すると車椅子に乗った金髪碧眼の美青年が現れた。
彼の美しさは驚くべきほどで、神話の登場人物を思わせる。
「初めまして、僕はサディアスだ。君達はパトリシアと……誰だい?」
「俺はパトリシアの夫のオスニエルです」
「ああ、オスニエルか」
サディアスは少々小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「今度の看護人は伯爵令嬢だって聞いていたけど、夫人だったんだね?」
「も、申し訳ありません……。私が言い間違えたのです……」
「そうです! こいつは浮気者のアバズレ女なのです! こうやって独身の振りをするから、俺が付いてきました!」
その言葉にサディアスは目を見開いた。パトリシアはこの場から消え去りたくなった。まさか公爵令息相手にそんなことを言うなんて――
「ふうん……まあいいけどね。それより、足の処置をしてほしいんだけど」
「足の処置と言いますと、どのような感じでしょうか……?」
「僕が指示するから、君はその通りに薬を塗ってくれ」
そして処置が始まったのだが、オスニエルがことごとく邪魔をした。
「パトリシアッ!? お前、サディアス様の足に欲情しているなッ!?」
「おいおいッ! 夫の目の前で男の肌に触れる気かぁッ!?」
「貴様ッ! いつまで足を撫でている気だッ!?」
その発言についにサディアスは口を挟んだ。
「うるさいなぁ。これは処置なんだよ? 君の夫は何なんだい?」
「も、申し訳ありません……! サディアス様……!」
「フンッ! この女がアバズレなのが悪いのです! 俺は何も悪くない!」
開き直ったオスニエルにパトリシアは頭が痛くなった。
するとサディアスは腕を組んでこう尋ねた。
「君達、本当に夫婦かい? この男に付き纏われている訳じゃないよね?」
「何だと……!? 言って良い事と悪い事がありますよ……!?」
「ねぇ、パトリシア。君はこんな男と寝たのかい?」
サディアスはオスニエルを無視し、パトリシアに話しかける。
彼女は顔を青ざめさせながら、本当のことを語った。
「い、いいえ……私達は寝てなどいません……。夫は私を淫売だと決め付け、私の胸にある手術跡を見て、汚いと言いました……」
「何だって……? 君は手術を……――」
サディアスは驚いた様子を見せ、考え込んだ。
そしてオスニエルに向かうと、こう言ったのである。
「このパトリシアのどこが淫売なんだい? どう見ても可憐な乙女じゃないか。そんなことも分からないなんて、君はもしかして童貞かい? あ、答えなくていいよ。その顔を見てれば分かるしね。顔も頭も飛び切り悪い君のことだから、きっとパトリシアの噂でも信じて、“処女が相手じゃなきゃ嫌だ!”って子供みたいに駄々をこねたんだろう? あーあ、恥ずかしいね。こんな男は滅んでしまえばいい」
「なっ……なっ……何を……!?」
サディアスは軽蔑の表情のまま続ける――
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