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第5話
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漆黒のマントが翻る――
すると目の前に華美な部屋が現れた。
薄らと闇を纏った空間に美しいシャンデリアやベッドが見える。
ここはどことなくお姫様の部屋のような印象だ。
なぜこんなところに来たのだろう。
「あれ……? ユーリレアはどこ……?」
ぼんやりしているとユーリレアの気配が消え、私は部屋にひとりきりとなった。
突然のことに狼狽えて部屋を歩き回るが、彼はいない。
その時――
「魔王城へよくお越しくださいました、ライカ様」
背後からよく通る男の声が響いた。
振り返ると、そこには金髪をした長身の美青年が立っていた。
頭には羊の角を思わせる大きな巻き角があり、魔族と分かる。
その衣装はかっちりとした黒服――もしかして執事か何かだろうか?
「お初にお目にかかります。わたくしはこの日のために用意されたライカ様専用執事でございます。名をシティニスと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「シティニス……? 私専用の執事なの……?」
「ええ、その通りです」
シティニスは品よく微笑んで、軽くお辞儀をする。
その笑みは私の心を射抜き、ドギマギさせる。
この魔力を含んだ視線――普通じゃない。
「あなた……もしかして淫魔?」
「よくぞお見抜きになりました。わたくしはインキュバスでございます」
「そ、そんな……インキュバスが執事だなんて……不安だわ」
「いいえ、ライカ様。心配には及びません」
シティニスは妖艶な笑みを浮かべて近づいてくる。
私は石のように固まってしまい動けない。
「魔王様はライカ様に“魅了”を使っても構わないとおっしゃいました。なぜならわたくしはライカ様が寂しい時にお慰めする役割も承っているのですから――」
「さ、寂しい時……?」
「ええ、今がまさにそうでしょう?」
彼の手袋を嵌めた指がそっと喉元をなぞった。
その瞬間、体が甘く疼き、体を震わせてしまう。
「や……やめてッ……!」
私は聖力を使ってシティニスを退けた。
相手は聖なる波動を受け、わずかに怪我をしたようだった。
しかし嬉しそうに唇を歪め、笑っている。
「これ以上近づかないで! 近づいたらまた攻撃するわ!」
「畏まりました、ライカ様。そもそも魔王様が純潔を奪うまで、わたくしはライカ様に手出しはできません。今のは軽い戯れ……お忘れ下さい」
そしてシティニスは高らかに指を鳴らした。
すると奥の扉から次々と蝙蝠の羽を生やしたメイドが現れる。
「それでは着替えと湯あみを致しましょう。有能なサキュバス……いえ、メイド達がお世話を致します。ライカ様はただ身をお預けください」
「今、サキュバスって言った? そんな淫らな種族に私の世話を……きゃっ!」
次の瞬間、サキュバスのメイド達は私の服を脱がしにかかった。
目の前に男性がいるのに! と怒鳴ってもクスクスと笑っている。
一方、シティニスは口元に笑みを浮かべ、こう言った。
「あまり見ていても失礼ですね。それではわたくしは退席致します」
「早く出てって! もう来なくていいわよ!」
シティニスはお辞儀をすると、姿を消した。
それから私は素っ裸にされ、お風呂へと連れていかれた。
サキュバス達の際どいオイルマッサージ、長々しいドレス選び、お喋りばかりのヘアセット……それらを経て、ようやく着替えが終わったのは数時間後だった。
すると目の前に華美な部屋が現れた。
薄らと闇を纏った空間に美しいシャンデリアやベッドが見える。
ここはどことなくお姫様の部屋のような印象だ。
なぜこんなところに来たのだろう。
「あれ……? ユーリレアはどこ……?」
ぼんやりしているとユーリレアの気配が消え、私は部屋にひとりきりとなった。
突然のことに狼狽えて部屋を歩き回るが、彼はいない。
その時――
「魔王城へよくお越しくださいました、ライカ様」
背後からよく通る男の声が響いた。
振り返ると、そこには金髪をした長身の美青年が立っていた。
頭には羊の角を思わせる大きな巻き角があり、魔族と分かる。
その衣装はかっちりとした黒服――もしかして執事か何かだろうか?
「お初にお目にかかります。わたくしはこの日のために用意されたライカ様専用執事でございます。名をシティニスと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「シティニス……? 私専用の執事なの……?」
「ええ、その通りです」
シティニスは品よく微笑んで、軽くお辞儀をする。
その笑みは私の心を射抜き、ドギマギさせる。
この魔力を含んだ視線――普通じゃない。
「あなた……もしかして淫魔?」
「よくぞお見抜きになりました。わたくしはインキュバスでございます」
「そ、そんな……インキュバスが執事だなんて……不安だわ」
「いいえ、ライカ様。心配には及びません」
シティニスは妖艶な笑みを浮かべて近づいてくる。
私は石のように固まってしまい動けない。
「魔王様はライカ様に“魅了”を使っても構わないとおっしゃいました。なぜならわたくしはライカ様が寂しい時にお慰めする役割も承っているのですから――」
「さ、寂しい時……?」
「ええ、今がまさにそうでしょう?」
彼の手袋を嵌めた指がそっと喉元をなぞった。
その瞬間、体が甘く疼き、体を震わせてしまう。
「や……やめてッ……!」
私は聖力を使ってシティニスを退けた。
相手は聖なる波動を受け、わずかに怪我をしたようだった。
しかし嬉しそうに唇を歪め、笑っている。
「これ以上近づかないで! 近づいたらまた攻撃するわ!」
「畏まりました、ライカ様。そもそも魔王様が純潔を奪うまで、わたくしはライカ様に手出しはできません。今のは軽い戯れ……お忘れ下さい」
そしてシティニスは高らかに指を鳴らした。
すると奥の扉から次々と蝙蝠の羽を生やしたメイドが現れる。
「それでは着替えと湯あみを致しましょう。有能なサキュバス……いえ、メイド達がお世話を致します。ライカ様はただ身をお預けください」
「今、サキュバスって言った? そんな淫らな種族に私の世話を……きゃっ!」
次の瞬間、サキュバスのメイド達は私の服を脱がしにかかった。
目の前に男性がいるのに! と怒鳴ってもクスクスと笑っている。
一方、シティニスは口元に笑みを浮かべ、こう言った。
「あまり見ていても失礼ですね。それではわたくしは退席致します」
「早く出てって! もう来なくていいわよ!」
シティニスはお辞儀をすると、姿を消した。
それから私は素っ裸にされ、お風呂へと連れていかれた。
サキュバス達の際どいオイルマッサージ、長々しいドレス選び、お喋りばかりのヘアセット……それらを経て、ようやく着替えが終わったのは数時間後だった。
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