18 / 19
第2章 能力者たちの集い
第2話 妹
しおりを挟むテーブルを囲み、響樹の隣に座る少女は目の前に座る湊と雛に軽く会釈をした。
そして厨房のほうから出てきた店員がテーブルの前で止まり、お盆に乗せていたパフェ2つとコーヒーと紅茶を各々の前に置いた。
湊はコーヒーを 少女は紅茶をひと口すすり、雛はいちごパフェを目の前にパァっと嬉しそうな表情でパクッと食べていた。
少女は受け皿にカチャンと静かな音を立てながらティーカップを置き、口を開いた。
「初めまして、音森 歌奏と申します。お2人のことは何も聞かされていなくて…兄がいつもお世話になっています」
2人は改めて響樹の妹であり、歌奏と名乗る少女を真正面から見た。
藤色の髪に兄と同じ紫の瞳だが、無愛想な響樹とは違いとても愛想が良さそうな雰囲気だった。
「こちらこそ…響樹せんぱい、妹と会うなら会うでそう言って下さいよ」
歌奏から響樹に視線を変えた雛は頬をぷくっと膨らませながら言った。
「特に聞かれなかったし…」
「そーいうところですよ!そうやって殻に閉じこもってるから上級生に喧嘩売られるんですよ!」
「お前に関係ないだろ!直接関わってねーのに余計なこと言うなっての!」
「2人ともほんっと静かにして!!」
「お前が1番声でけぇよ」
「ふふっ」
3人の奮闘を見ていた歌奏が急に笑いだした。
「歌奏ちゃん?」
「あ、ごめんなさい笑ったりして…兄さんの楽しそうな顔を見るの久しぶりで、つい…」
「楽しそう?これが?…え、これが?!今から眼科行きましょう??」
「おい、雛…それ以上ふざけるとお前のドス黒い本性 湊にバラすぞ」
「はぁ?せんぱい頭大丈夫ですか?湊先輩の能力なんだと思ってます?心を読むんだからそんなのとっくに知られてますよ」
雛はふーやれやれとでもいうように態とらしく頭を抱えた。
「このクソガキ」
「響樹先輩がうるさーい」
雛が目線を外しながら両耳を手で塞ぎ聞こえないフリをする。
「全く…2人共、毎回毎回これだから目が離せないよ」
3人のやり取りにニコニコしながら見ていた歌奏に、ふと雛はあることに気づく。
「…あ、今さらですけど、そういえば歌奏さんはどこまで知って…」
「本当に今さらだな…普通に喋っちゃったよ」
「問題ない、歌奏は能力のこと知ってる」
「あ、そうなんだ…」
ふーっと場が落ち着き、全員同時にカップに手を伸ばし喉の渇きを潤す。
「歌奏も能力者だからな」
…………………
「「えっ?!」」
響樹の発言に湊と雛は数秒考え、同時に立ち上がって身を乗り出した。
目の前の響樹はキョトンとしている。
「なんでそんな大事なこともっと早く言わない?」
「じゃあ聞くが、俺に妹がいて能力者だって言ってお前たちに何かメリットがあるか?」
「…いや、メリットとかそういう問題ではなくて」
「俺たち仲間なのに知らなかったことが悲しいんだよ」
「兄さんは親しい仲の友達があまりいないから、よくわからないんですよ」
「え、やっぱり友達いないんですね…」
雛はさーっと青ざめた顔をした。
「なんだその顔は。人のことをそんな目で見るな…それに、気の許せる友達ぐらいはいた」
「そうなんだ、その子は今どこに住んでるの?地元の方?」
湊がそう聞くと響樹は一瞬言葉を詰まらせたように目線を外した。
「…………いない」
「え?」
「死んだ……3年前の夏に」
「そう…だったんだ………」
湊も雛も響樹の言葉に黙ってしまった。
沈黙が暫く続き重い空気の中、口を開いたのは歌奏だった。
「そろそろ私、行かないと…学校の手続きとか済ませないと」
「歌奏ちゃん、ここに住むの?」
「はい、兄の家に住まわせてもらって春からみなさんと同じ桜風高校の1年生として入学します」
「ってことは…雛にもようやく後輩ができるわけだな!」
「こ、後輩……!」
雛は目をキラキラさせた。
「そういうことなんで、4月からよろしくお願いしますね。碧里湊先輩、日向雛先輩」
そう言うと歌奏は店の出口に向かい、響樹は湊と雛に「先に出る」と言って2人分の料金をテーブルに置いて歌奏の後ろに着いて行った。
そこで湊はあることに気づく。
「…あれ?俺たち歌奏ちゃんに名字のほう言ったっけ?」
「え…言ってませんね、響樹せんぱいが前に言ったんじゃないですか?」
「いや…響樹くん妹とはこっちに来てから会ってないし、俺たちのこと何も聞かされてないって言ってたじゃん」
「……じゃあ」
「……悪かったな、2人で話すつもりだったのに」
「大丈夫、お友達にも会えたし」
「そういや、さっき力使ったんだろ?」
「兄さんに聞かなくても、私の『透視』で彼らの名前はわかるから…」
響樹は「そうだな」と言って少し安堵した表情を見せた。
「それよりも聞かないの?どうして私がここに来たか」
「おおよその検討はついてる…俺の監視役で来たんだろ?」
「実際はね…でも私にとってはそんなのどうでもいいの。兄さんのことが心配で」
歌奏は出てきてしまいそうになる涙を堪えて何度も瞬きをしていた。
「ありがとな、歌奏…辛い思いをさせてすまない…」
響樹が歌奏の頭をポンポンとあやすように優しい眼差しで撫でる。
「っ…兄さん!」
歌奏は堪えきれず、兄の優しさにぶわっと涙が出てきた。
一瞬驚いた響樹だったが、妹の悲痛な声を聞いてそれに応えるように優しく撫でた。
「兄さん…あの2人は知ってるの?あのこと」
途端に響樹は歌奏に背を向けた。
「いや…」
「言わなくていいの…?また氷馬みたいになっちゃうよ」
「……こわいんだよ、また失うのが…情けないけどな」
兄の震える背中を見て、歌奏は何も言えなかった。
「何度も思ったよ…俺の能力が過去に戻る能力だったらどんなに良かったか…」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
怪盗&
まめ
キャラ文芸
共にいながらも、どこかすれ違う彼らが「真の相棒になる」物語。
怪盗&(アンド)は成人男性の姿でありながら、精神の幼いアンドロイドである。彼は世界平和のために、兵器の記憶(データ)を盗む。
相棒のフィクサーは人を信頼できない傲岸不遜な技術者だ。世界平和に興味のない彼は目的を語らない。
歪んだ孤独な技術者が幸せを願うまで。
無垢な怪盗アンドロイドが運命に抗うまで。
NYを舞台にした情報化社会のヒーローと相方の技術者の活躍劇(現代×SF×バディ)
表紙イラスト:Ryo
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
周りの女子に自分のおしっこを転送できる能力を得たので女子のお漏らしを堪能しようと思います
赤髪命
大衆娯楽
中学二年生の杉本 翔は、ある日突然、女神と名乗る女性から、女子に自分のおしっこを転送する能力を貰った。
「これで女子のお漏らし見放題じゃねーか!」
果たして上手くいくのだろうか。
※雑ですが許してください(笑)
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
暁に散る前に
はじめアキラ
キャラ文芸
厳しい試験を突破して、帝とその妃たちに仕える女官の座を手にした没落貴族の娘、映。
女官になれば、帝に見初められて妃になり、女ながらに絶大な権力を手にすることができる。自らの家である宋家の汚名返上にも繋がるはず。映は映子という名を与えられ、後宮での生活に胸を躍らせていた。
ところがいざ始まってみれば、最も美しく最もワガママな第一妃、蓮花付きの女官に任命されてしまい、毎日その自由奔放すぎる振る舞いに振り回される日々。
絶対こんな人と仲良くなれっこない!と思っていた映子だったが、やがて彼女が思いがけない優しい一面に気づくようになり、舞の舞台をきっかけに少しずつ距離を縮めていくことになる。
やがて、第一妃とされていた蓮花の正体が実は男性であるという秘密を知ってしまい……。
女官と女装の妃。二人は禁断の恋に落ちていくことになる。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる