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第1章 能力者たちの出会い

第13話 和解

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【ヤミト、もういいよ、君だって苦しいんだよ…わかるよ、だって僕は君で、君は僕なんだから!君ばかり傷つく必要なんてない】



 「お前は出てこなくていい、俺が片付ける」


ヤミトは顔を歪ませながら黙って聞いていた。
その様子を響樹・湊・雛の3人にはクロに向かって行ったヤミトが突然立ち止まったと思ったら独り言を言ってるという状況だった。

「どうなってんだ?」

「シロだ、シロがヤミトを説得してる」

もう今のヤミトは手に負えない状況だと理解した4人は、シロの説得力に託し、ただ待つことしかできなかった。










「……シロ、お前自分の力量分かって言ってんだろ?お前を弱いと言うつもりはないがお前は優しすぎる、いつか抱え込みすぎて壊れる」

【……僕、ずっと…自分が嫌いだった…人付き合いも良くないし、力も度胸もない自分が嫌で嫌でたまらなくて……けど、ヤミトのおかげで、ヤミトがいてくれたから心強かった、今は同じ力を持った友達もいる、少し自信が出てきたんだ」


ヤミトはシロの言葉に耳を傾けていた。
そしてシロの強い決意に心を動かされていた。


【僕…もっと強くなる、力じゃなくて心の強さ。でも、たまに挫けそうになる時は君に弱音を吐いてもいい…かな?】


シロの純粋でまっすぐな気持ちにさすがのヤミトも折れるしかなかった。


「…はぁ……ばーか、俺はお前でお前は俺なんだからいいに決まってんだろ」


それを聞いたシロは安心したようにふわっと笑う。

側でその様子を見ていたクロはヤミトの肩にポンッと手を置いた。


「今回のことで俺もシロももっとヤミトのことを理解したいと思ってる、だからこれからはちゃんと話をしよう、お前が嫌って言っても無駄だからな」

「…フン、兄貴面しやがって。俺はシロの意志を尊重したい、だから今後表に出ることは控える…が、たまには話をしても、いい」

「…素直じゃないな」

クロがやれやれというように軽く溜息をついた。
そしてヤミトはそのまま目を閉じた。
すると彼が放つ邪気が消え、いつものシロに戻った。

「シロ…」

「…兄様」

シロはクロに向き直った。

「兄様…本当にごめんなさい」

「お前が謝る必要はない、俺の方こそ今まで悪かった…シロ、これからは兄様と呼ぶな」

「え?」

「クロと呼べ」

「?!そんな…兄様のことを名前で、しかも呼び捨てなんて」

「言っただろ、俺たちは双子、2人で1つ。優越つけたりする必要はない…それに俺が望んでるんだ」

シロは「でも…」と言いながらもクロに半ば押され気味だった。

「わ、わかりました」

「敬語もなしだ」

「えっ?!な、難易度高い…」

クロがじっとその時を待つかのように耳を傾け、瞬きすらしていなかった。
その様子に押され負けしてしまい、シロは渋々言うことにした。


「わ…わかったよ…クロ…」
 
シロは目線を逸らし恥ずかしそうに言った。
その表情を見て口元が緩んだクロはシロの頭に手を伸ばし、ポンポンと撫でた。
シロは久々に感じた兄の優しさにじんわり涙が出た。


それを見ていた響樹・湊・雛の3人は心の底から穏やかな気持ちになっていた。







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「すまなかったな…俺たち兄弟のことに巻き込んで」

「気にしないで。2人が仲直りできて良かったよ、ヤミトと和解もできたし…それにオレたち同じ能力者なんだし、仲間だろ?」

「仲間…か…」

湊の言葉にクロは少し嬉しそうに口角を上げて微笑んだ。


すると湊が「あ!」と何か思い出したように声を上げ、クスッと笑い出した。
それを見た雛は湊に「どうしたんですか?」と嬉しそうに聞いた。

「いや実はさ、シロが連れて行かれてるの見た時なんか思い出したよ、転校してきた響樹くんが先輩に呼び出された時のこと(笑)」 

「おい、余計なこと言うなよ」

思い出したくない自分の過去を言われて恥ずかしくなったのか、慌てたように響樹は湊に詰め寄った。

「えー響樹センパイ虐められてたんですか~?」

当然、雛はニヒルに笑いながら2人の間に入った。

「虐められてねーよ!返討ちにしてやったわ」

「返討ちにしたのオレだけどなー」


能力があることを除いたら どこにでもいる普通の高校生。
無邪気な5人の笑い声が廃工場中に響いていた。

けど、この時はまだ知らない…
当たり前だと思っていたこの日常が一変することを。

以外は…
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