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異世界転生から始まる……?
漁村・スーヴェル
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目的地の漁村・スーヴェルに到着したのは昼近かった。
村とはいえ、頑強な柵と壁に囲まれた景観は物々しい様子ではある。
町や都市のように警備に人員を割けない以上、盾となる部分を強化する傾向は致し方ないところではあるそうだ。
「はははっ! すっかり見張りさせちまって悪かったな!」
シアさんもすっかり元通りだ。
一晩寝る事によって気持ちをリセットできるという話はよく聞くが、仮眠程度でリセットできるのは大した特技だろう。
漁村の責任者と作業確認をする横顔からは、無理しているような様子はまったく見えない。
「みんな、集まってくれ!」
打ち合わせを終えたシアさんが警護に同行した冒険者を呼び集めた。
荷物の積み込みが始められるまで1時間ほど掛かるそうだ。
それまでは自由時間となる旨が伝えられ、皆は思い思いの方向へと散っていった。
「初めての村だし、ユースケは特にする事もないだろうう? ちょっとその辺を案内するよ」
断る理由もなく、シアさんに誘われるままに近くの海岸に足を向ける事になった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「綺麗な砂浜ですね」
お世辞でもなく、素直にそう感じた。
広く続く砂浜は白く輝き、海の透明度も高い。何気なく撮った写真ですら観光案内の表紙に使えそうだ。
「まぁ、こんな辺鄙なところまで来ようって変わり者はいないからね」
そう、これがこの世界の考え方だ。
美しい自然を愛でる気持ちはあるのだとしても、わざわざ足を運んでまで観光しようという者はいない。
稀にいるのだとしても、こちらの世界では変人扱いだ。
領主が視察するくらいはあるだろうが、必要がなければ安全な囲いから出たいとは思わないだろう。
魔物に遭遇するかもしれない危険を冒すなど、文字通り冒険者くらいなものだ。
「でも、こんなに綺麗な景色。フィリスさんにも見せてあげたいですよ」
シアさんから聞いた限りでは、フィリスさんの症状は心因性のものだろう。
心や身体を落ち着けられる環境があれば改善は見込めると考えている。
「はは、嬉しいねえ。同席する場でフィリスの事を心配してくれる人はいるけど、ちゃんと考えてくれてるのはユースケくらいなもんさ」
俺としては普通の事だと思うが、自分が生きるだけでも大変な世界においては、こうした考え方は珍しいのかもしれない。
こんなところで、やはり自分は異世界人なのだと認識してしまう。
『ゆーすけ、あれ見るの!』
アメジィが俺の意識を海上の遥か彼方に向けさせた。
「………? シアさん、あれは?」
意識を向けなければ見逃していたかもしれない。
天候は快晴であり、まさかそんなものがあるとは思わなかったからだ。
黒い壁のようなものが、遥か先の海上を塞いでいた。
「……雨雲?」
遠見のスキルを使うも俄には信じられない光景であり、思わず疑問形になってしまう。
「よく見えるね。そうさ、厚い雲が通せんぼしているのさ」
壁に見えたのは厚い雲によって太陽の光が遮られているからであり、それは右を向いても左を向いてもどこまでも続いている。
加えて豪雨によって何者の進入も拒んでいるようである。時折、稲妻による光も見える。
「王家の人間が調査したところだと、あの雲はこの大陸をぐるりと取り囲んでいるそうだよ。
定期的に観測しているって話だが、あの雲が切れたところは一度も確認されていないらしい」
つまりこの大陸は、外海から隔絶しているという事だ。
「まぁ、実を言えばそんなに困っている訳じゃあないんだ。
あの雲までは遠い。あそこまで近付かなければ普通に漁は出来るし、海岸線にいても嵐に見舞われる事もない。
近海と陸地で食糧は自足できているし、気にしなければどうって事はないんだ」
シアさんは随分と達観したものである。
たしかに外海と隔絶している状態ではあるが、言い方を変えれば外敵の驚異から守られているという事だ。
外敵というものが存在していればの話だが。
「外の世界にも人が住んでいるってのは確認できているんだ」
シアさんは肩を竦めながら続ける。
「たまに、流れ着くのがいるんだ。
他の大陸も似たような状況らしく、勇んで外海を目指したはいいが、嵐の暴力に船が耐えきれずに木っ端微塵、って連中が」
そういった者は流れ着いた先の領主の庇護の下……まぁ、平たく言って監視だな。
監視生活を送った後に問題なしと判断されれば、この大陸の人間として迎えられる。
その後の彼らは、大陸内に安住の地を探したり、あるいは故郷を夢みて外海に漕ぎ出したりと色々らしい。
知らぬうちにそういった外海の人間と接触している可能性もあるらしいが、告白されなければ見分けなどつく筈もないし、だったらどうだという事もない。
「長距離移動が出来る翼を持った魔物……それこそドラゴンでも使役できれば外の世界にも行けるんだろうけど、まぁ、そういうのは向こう見ずの冒険者に任せるさ」
シアさん的には本当に興味が無さそうだった。
とりあえずはドラゴンが存在するらしい事が分かったところで、この話題は終わりとなった。
ドラゴンか。人間に対して友好的な個体がいるならば、会ってはみたいものだ。
村とはいえ、頑強な柵と壁に囲まれた景観は物々しい様子ではある。
町や都市のように警備に人員を割けない以上、盾となる部分を強化する傾向は致し方ないところではあるそうだ。
「はははっ! すっかり見張りさせちまって悪かったな!」
シアさんもすっかり元通りだ。
一晩寝る事によって気持ちをリセットできるという話はよく聞くが、仮眠程度でリセットできるのは大した特技だろう。
漁村の責任者と作業確認をする横顔からは、無理しているような様子はまったく見えない。
「みんな、集まってくれ!」
打ち合わせを終えたシアさんが警護に同行した冒険者を呼び集めた。
荷物の積み込みが始められるまで1時間ほど掛かるそうだ。
それまでは自由時間となる旨が伝えられ、皆は思い思いの方向へと散っていった。
「初めての村だし、ユースケは特にする事もないだろうう? ちょっとその辺を案内するよ」
断る理由もなく、シアさんに誘われるままに近くの海岸に足を向ける事になった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「綺麗な砂浜ですね」
お世辞でもなく、素直にそう感じた。
広く続く砂浜は白く輝き、海の透明度も高い。何気なく撮った写真ですら観光案内の表紙に使えそうだ。
「まぁ、こんな辺鄙なところまで来ようって変わり者はいないからね」
そう、これがこの世界の考え方だ。
美しい自然を愛でる気持ちはあるのだとしても、わざわざ足を運んでまで観光しようという者はいない。
稀にいるのだとしても、こちらの世界では変人扱いだ。
領主が視察するくらいはあるだろうが、必要がなければ安全な囲いから出たいとは思わないだろう。
魔物に遭遇するかもしれない危険を冒すなど、文字通り冒険者くらいなものだ。
「でも、こんなに綺麗な景色。フィリスさんにも見せてあげたいですよ」
シアさんから聞いた限りでは、フィリスさんの症状は心因性のものだろう。
心や身体を落ち着けられる環境があれば改善は見込めると考えている。
「はは、嬉しいねえ。同席する場でフィリスの事を心配してくれる人はいるけど、ちゃんと考えてくれてるのはユースケくらいなもんさ」
俺としては普通の事だと思うが、自分が生きるだけでも大変な世界においては、こうした考え方は珍しいのかもしれない。
こんなところで、やはり自分は異世界人なのだと認識してしまう。
『ゆーすけ、あれ見るの!』
アメジィが俺の意識を海上の遥か彼方に向けさせた。
「………? シアさん、あれは?」
意識を向けなければ見逃していたかもしれない。
天候は快晴であり、まさかそんなものがあるとは思わなかったからだ。
黒い壁のようなものが、遥か先の海上を塞いでいた。
「……雨雲?」
遠見のスキルを使うも俄には信じられない光景であり、思わず疑問形になってしまう。
「よく見えるね。そうさ、厚い雲が通せんぼしているのさ」
壁に見えたのは厚い雲によって太陽の光が遮られているからであり、それは右を向いても左を向いてもどこまでも続いている。
加えて豪雨によって何者の進入も拒んでいるようである。時折、稲妻による光も見える。
「王家の人間が調査したところだと、あの雲はこの大陸をぐるりと取り囲んでいるそうだよ。
定期的に観測しているって話だが、あの雲が切れたところは一度も確認されていないらしい」
つまりこの大陸は、外海から隔絶しているという事だ。
「まぁ、実を言えばそんなに困っている訳じゃあないんだ。
あの雲までは遠い。あそこまで近付かなければ普通に漁は出来るし、海岸線にいても嵐に見舞われる事もない。
近海と陸地で食糧は自足できているし、気にしなければどうって事はないんだ」
シアさんは随分と達観したものである。
たしかに外海と隔絶している状態ではあるが、言い方を変えれば外敵の驚異から守られているという事だ。
外敵というものが存在していればの話だが。
「外の世界にも人が住んでいるってのは確認できているんだ」
シアさんは肩を竦めながら続ける。
「たまに、流れ着くのがいるんだ。
他の大陸も似たような状況らしく、勇んで外海を目指したはいいが、嵐の暴力に船が耐えきれずに木っ端微塵、って連中が」
そういった者は流れ着いた先の領主の庇護の下……まぁ、平たく言って監視だな。
監視生活を送った後に問題なしと判断されれば、この大陸の人間として迎えられる。
その後の彼らは、大陸内に安住の地を探したり、あるいは故郷を夢みて外海に漕ぎ出したりと色々らしい。
知らぬうちにそういった外海の人間と接触している可能性もあるらしいが、告白されなければ見分けなどつく筈もないし、だったらどうだという事もない。
「長距離移動が出来る翼を持った魔物……それこそドラゴンでも使役できれば外の世界にも行けるんだろうけど、まぁ、そういうのは向こう見ずの冒険者に任せるさ」
シアさん的には本当に興味が無さそうだった。
とりあえずはドラゴンが存在するらしい事が分かったところで、この話題は終わりとなった。
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