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異世界転生から始まる……?

護衛依頼、出発!

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「おっす! ユースケ、起きてるかっ!?」

 太陽が顔を出す前にシアさんが起こしに来た。
 日の出とともに町を出ると聞いていたので、準備は万端だ。
 もっとも準備とは言っても、冒険者装備を着込んで帯刀するだけ。
 シアさんはそうでもないのだろうが、俺は見習い扱いなので自分の準備だけ出来ていれば問題ない。
 早朝から活動する冒険者用にと弁当を渡され、冒険者長屋を後にする。

 そして到着した先はサマンズ商会。

「おおっ、ユースケさんに護衛を受けて頂けるとは。これは頼もしい限りです」

 薄暗い早朝でありながらも、サマンズさんは相変わらず物腰が柔らかい。

「冒険者としては新米ですので、他の方の足を引っ張らないように努力します」

 ついついへりくだった対応をしそうになる。
 ここは日本ではないのだ。自らを卑下する発言はよろしくはないだろう。なんとか無難な受け答えをする。

「アルテイシアさんの指導の下でしたら安心ですよ。今回は私は同行できませんが、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げるサマンズさんに見送られ、馬車はフィズルの町を後にした。
 雇い主であるにもかかわらず、あの腰の低さ。
 なんというか、人格者なんだなと思う。




「シアさん。今回の依頼は護衛という事で?」

 長屋で持たされた弁当はサンドイッチだった。
 魔物や賊と遭遇しなければ、やれる事はそんなに多くはない。のんびりと口を動かしながら聞いてみる。
 今回、護衛として同行しているのは俺を抜きにして6人。
 この人数が多いのかどうかは何とも言えないが、要人――つまりは商会からの同行者――はなく、昨日の件も鑑みれば増やしているのだろう。

「ああ。この先、海岸近くの村が今回の目的地だ。そこの海産物の運搬警護なのさ」

 整備された街道であり、天候も良好。
 荷台が空の馬車は飛ぶように進んでゆく。魔物や賊が現れたとしても、簡単には追いつけないであろう速度である。
 差し当たっての危険はないと判断したのか、シアさんは腰を落とした。

 手広く商品を扱うサマンズ商会であり、海産物の仲買も大きなシェアを占めているという。
 こういった商品運搬の警護は頻繁にギルドに依頼が来るそうだ。

「海産物の小売り価格はそんなに高いものではないんだけどね。それなりの量ともなれば、狙う輩も出てきたりするからねえ」

 おかげでこっちは仕事にありつけるってもんだよ。
 ばつが悪そうな苦笑いで、シアさんは付け加えた。

 たしかに、治安は良いに越した事はない。
 しかしながら無法者や魔物が跋扈するのがこの世界であり、冒険者と呼ばれる職業が必要とされるのは自然の流れだろう。

「ところで、フィリスさんの事なんですが――」

 妹の名を出され、シアさんは顔に浮かべていた苦笑いを引っ込めた。
 初めてシアさんの真面目な顔を見た気がする。
 それだけフィリスさんの事を大切に思っているという事か。

「薬よりも、食を太くするところから始めた方が良いのでは?」

 フィリスさんの食の細さと、ドリンクの中身を知った時から考えていた事だ。
 異世界知識を持つ俺だから行き着く考えなどではなく、誰だって思い至る選択である筈だ。

「それは、確かにそうなんだが……」

 睫毛を伏せるシアさんの口調が重い。
 つまり、小食となるに至った原因があるという事だろう。
 少なくとも、思い当たる事があるのだ。

 この世界では、魔術師が医療従事者を兼ねている事が多い。
 回復魔法とまでは言わずとも、治癒を促進するような術もあるのだろう。
 魔術師技能を持っている俺の言葉ならば、大っぴらに話せないような事でも相談してくれるのではないかと思ったのだ。

「………………」

「……すみません。差し出がましい真似でした」

 豪快な語り口が持ち味のシアさんが沈黙を続ける事に、俺の方が耐えられなくなってしまった。
 何か手助けできればと思って水を向けてみた事は後悔していないが、俺が思っていた以上に重い話題だったようだ。

 立ち上がり周囲の見張りをする事によって、この話題はここまでという意思表示をする。
 さすがのシアさんも今すぐに気持ちの切り替えは難しいだろうが、目的地の村に到着する頃には元通りになってくれていると願おう。

「その……、聞いてくれるか?」

 しばらくは黙ったままかと思っていたシアさんだが、俺の隣で座ったままの姿勢で口を開いた。

「昔……そろそろ10年経つかな、少し離れた町で……ちょっとした暴動があってな。そこに巻き込まれたんだ。
 父も母も……みんなまとめて犠牲になってな、私とフィリスだけが辛うじて逃げ出したんだ。

 私は、訓練でしか剣を握った事がなくて。
 フィリスを守る事に無我夢中で。
 どこをどう逃げたかなんて、覚えちゃいなかった。
 だけど、私の後ろにいたフィリスは色々なものを目の当たりにしちまったみたいでさ…。
 フィズルの町に流れ着いたはいいけど、フィリスはすっかり塞ぎ込んじゃって。

 そこから、今に至る……ってなもんよ。
 フィズルの町は良い人ばかりだし、騎士としての訓練をしてたおかげで剣は使えたけど、女ふたりが生活するのに必死でな。
 フィリスのため――なんて言っちゃあいたが、あの子に寄り添っていた時間よりも、外に出ている時間の方が長かったな。
 今にして思うと、自分こそが現実逃避していたんじゃないかって考えちまうよ」

「…………」

 俺は、なんと言って返せばいいのか分からなかった。
 妙に優しい言葉をかけたところで一時凌ぎでしかないし、上っ面だけの言葉を発せるほどに人生経験も積んではいないのだ。

「ごめんよ……ちょっとだけ、寝かせておくれ」

 俺の返事を待たずに、シアさんは静かな寝息を立て始めた。

『ずっと溜め込んでいたものを吐き出して疲れたの! 今はそっとしておくのが男の優しさなの!』

 アメジィの声が耳元に響く。
 本体であるアメジアにならともかく、妖精サイズの姿で言われても子供が背伸びした発言をしているようにしか聞こえないのは何故か。
 はしはしと頭を叩いてくるアメジィは放置し、見張り作業に戻る俺だった。
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