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或いは夢のようなはじまり
53 その数、8回
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「8回って、何を言って……」
現に自分はこうして生きているではないか。
幽霊ではない証拠に、自身の両の足でしっかりと立っている。
だが、直樹はその言葉を続ける事ができなかった。
(思い当たる節は……ある)
鵺との戦いの最中、香月の言葉通りに動いた事によって難を逃れたのは一度や二度ではない。
香月あってこその勝利だと言っても過言ではないのだ。
しかし、そのときの香月は鵺の動きが見えていたのだろうか。
離れた場所にいたとはいえ、直樹でさえ目で追いきれなかったというのに。
受け渡しのあった石がそういった類の力を秘めた道具だとして、それが香月に扱えるのかどうか。
会話の流れから読んでも、黒髪の少女には成し得ていない事なのだろう。
相当な能力を持っているに違いない少女でさえ使えていないのだ。発動に必要なものは能力の優劣ばかりではないという事か。
香月の潜在能力の高さという可能性には敢えて触れるまいと直樹は思う。
香月は面白がるかもしれないが、こんな特殊能力、持っているだけで厄介事に巻き込まれるのは必至なのだ。
持たずに一生を終えられるのならば、その方がずっと幸せに違いない。
「それにしても、8回か……」
直樹の口から、溜め息にも似た声が漏れる。
いくつもの仮説が正しいとした上での話ではあるが、その仮説を一蹴するどころか、認めざるを得ない状況なのだ。
今夜だけでも死ぬかと思った危地は何度もあったが、死に、そして生き返ったという実感は直樹にはない。
巻き戻し―――
そんな単語が脳裏に浮かんだ。
件の石の効果がその類であるならば、直樹の身に降りかかった死を帳消しにしているという事ではないか。
(いやいやいや、そんなバカな)
時間の流れとは、そんな簡単に抗えるものではない。抗うどころか流されに流されまくって揉みくちゃだ。
タイムリープを題材にした物語は世の中にいくらでも転がっているし、直樹自身、そういった作品には楽しませて貰っている。
しかしそれはあくまでも荒唐無稽な空想科学である事を前提としているからであり、現実世界に当て嵌められるものなのかどうか。
(実際にそんな現象が起きているのだとして)
起死回生のアイテムによって死んだ仲間が生き返りました。やったね、すごいよ。ばんざーいばんざーい! めでたしめでたし。
(却下だ)
自分達にとって一方的に都合の良い存在を、直樹は認めていない。
自分が得をした分、相応の代償があって然るべきだと。
鵺は直樹を遙かに超える強さだった。
そこをひっくり返すだけの事をしたのだ。今すぐに命を取られるような事ではないのだとしても、それに近い事があってもおかしくはないのだ。
(せめて―――)
せめて、その代償を要求されるのが自分だけであって欲しいと、直樹は思った。
香月の身に何かが起きてしまうというのであれば、死んだままにしてくれて良かったのにと、直樹は叫ばずにはいられないからだ。
現に自分はこうして生きているではないか。
幽霊ではない証拠に、自身の両の足でしっかりと立っている。
だが、直樹はその言葉を続ける事ができなかった。
(思い当たる節は……ある)
鵺との戦いの最中、香月の言葉通りに動いた事によって難を逃れたのは一度や二度ではない。
香月あってこその勝利だと言っても過言ではないのだ。
しかし、そのときの香月は鵺の動きが見えていたのだろうか。
離れた場所にいたとはいえ、直樹でさえ目で追いきれなかったというのに。
受け渡しのあった石がそういった類の力を秘めた道具だとして、それが香月に扱えるのかどうか。
会話の流れから読んでも、黒髪の少女には成し得ていない事なのだろう。
相当な能力を持っているに違いない少女でさえ使えていないのだ。発動に必要なものは能力の優劣ばかりではないという事か。
香月の潜在能力の高さという可能性には敢えて触れるまいと直樹は思う。
香月は面白がるかもしれないが、こんな特殊能力、持っているだけで厄介事に巻き込まれるのは必至なのだ。
持たずに一生を終えられるのならば、その方がずっと幸せに違いない。
「それにしても、8回か……」
直樹の口から、溜め息にも似た声が漏れる。
いくつもの仮説が正しいとした上での話ではあるが、その仮説を一蹴するどころか、認めざるを得ない状況なのだ。
今夜だけでも死ぬかと思った危地は何度もあったが、死に、そして生き返ったという実感は直樹にはない。
巻き戻し―――
そんな単語が脳裏に浮かんだ。
件の石の効果がその類であるならば、直樹の身に降りかかった死を帳消しにしているという事ではないか。
(いやいやいや、そんなバカな)
時間の流れとは、そんな簡単に抗えるものではない。抗うどころか流されに流されまくって揉みくちゃだ。
タイムリープを題材にした物語は世の中にいくらでも転がっているし、直樹自身、そういった作品には楽しませて貰っている。
しかしそれはあくまでも荒唐無稽な空想科学である事を前提としているからであり、現実世界に当て嵌められるものなのかどうか。
(実際にそんな現象が起きているのだとして)
起死回生のアイテムによって死んだ仲間が生き返りました。やったね、すごいよ。ばんざーいばんざーい! めでたしめでたし。
(却下だ)
自分達にとって一方的に都合の良い存在を、直樹は認めていない。
自分が得をした分、相応の代償があって然るべきだと。
鵺は直樹を遙かに超える強さだった。
そこをひっくり返すだけの事をしたのだ。今すぐに命を取られるような事ではないのだとしても、それに近い事があってもおかしくはないのだ。
(せめて―――)
せめて、その代償を要求されるのが自分だけであって欲しいと、直樹は思った。
香月の身に何かが起きてしまうというのであれば、死んだままにしてくれて良かったのにと、直樹は叫ばずにはいられないからだ。
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