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データ化してしまったという千冬の話
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一頻り泣き喚いた後、俺たちは今回の件について話した。
お互いに色々勘違いがあったが、思いやる気持ちが大前提にあって、聞いて心が暖かくなった。
謎だった部分の殆どは解けた。
体育館裏で、何故、千冬が逃げ出したのか、千冬が何故女子更衣室で倒れていたのか、そして、俺が犯人とされているのに、千冬のお母さんは何も言ってこないのか。
全てに共通して言えるのは、天上スミレの策略と財力が引き起こした真実を隠すための紛いものだということだ。
亮介の情報を基に予測してこととの大部分は合っていた。ただ、天上スミレがどの位でこのいじめを考え、実行したのかは分からないが、少なくとも、俺はこの結論に至るまで、一週間という時間が要した。それよりもはるかに短い時間で計画を立て実行したとなると、天上スミレという人物は頭もかなり切れる。
きっと、今まで、自分が一番可愛いとでも思って過ごして来たのだろう。そのせいで、自分より遥かに魅力的な千冬を僻んでいることは客観的に見ている俺らでも感じていることだ。
「…………じゃ、あの時あそこにいた男の人たちはやっぱり春樹とは関係ないのね」
「あぁ、その、千冬が襲われるっていうのも、多分、嘘だよ、それの信憑性を高めるため、わざと、複数人の男子生徒を潜めさせていたんだ」
「じゃ、私の勘違いだったのね……、あの人たちにも申し訳ないことしてしまったね」
「いや、それはまぁ、大丈夫だよ……」
あの人たちが千冬のファンクラブであることは黙っておこう。感謝してくれ。名も知らぬ、ファンクラブの皆さんよ。
「まぁ、俺たちの中では解決したけど、さっきも言った通り、世間的には俺が犯人になってるし、この誤解を解くのは正直、困難だと思う」
「何でよ! 春樹は私を守ろうとしてくれたのよ」
「それは、俺たちが知っている事実でしかない。世間はそう、見ないだろうな。この一週間事実を知っているのは俺たち二人と天上スミレとその周りの奴らのみ。となると、学校では既に、改ざんされた噂が広まるに十分すぎる時間だ。それに問題はそれだけではないんだよ」
「え? まだあるの?」
「何を言ってるんだ? いじめの問題が根本的に解決してないだろう?」
「あ、もう、いいの、だって……」
「駄目だ!」
千冬がどう思っているのか、良く分かった。俺は味方でいることを俺以上に感じてくれていた。俺が中学校でいじめられた時、守ってくれたことに感謝してるし、それ以上に大好きなひとだから、味方でいるのは当たり前だよ。
でも、いじめを経験しているからこそ、いじめられている現状の苦しさは痛いほどわかる。どっかの誰かは、信用できる人が一人いればそれでいい、なんて言っていたが、そんなことはない。確かに心から信頼できるひとは少なくていいだろう。でも、それ以外の人が敵に回る状態はその信頼していた人すら疑いの目を向けてしまうほど、本人を追い込んでしまう。
「もうすぐ夏休みが始まるからさ、いっぱい遊ぼう! 実は亮介に頼んで、色々予定立てたんだ、千冬も一緒に遊べるような人と場所を用意してるんだ」
「……でも」
「大丈夫! 俺が守ってやるさ、何があっても俺は千冬の味方だ」
「…………うん、分かった! 楽しみにしてるね!」
千冬の笑顔は本当に可愛い。
今日までの地獄の一週間がなかったことのように。心にエネルギーが沢山溜まっていくような。
「あ、そう思えば春樹は何で、体育館裏に呼んだの?」
「そ、それは……」
プルプルプル。
告白の話をしようと覚悟を決めた瞬間携帯電話が鳴りだした。まるで、タイミングを狙ったように。
携帯を確認する。非通知からだ。出ないでもいいかなって思ったけど、変な間を埋める理由が欲しかったので、取り敢えず出る。
「シャシンヲウツシテネ?」
その声は加工音のような、ドラマとかで犯人が身バレを防ぐために使うあの声だ。
「誰……ですか…………?」
もしかしたら、知っている人かも知れないし、一応、尋ねる。多分、悪戯電話だろうけど。
「ボクハ、【TAKIINROOM】ヲカイハツシタモノダヨ、モウツカッテクレタ?」
すっかり忘れていたあの謎のアプリの存在を。どう使うかもイマイチ分からない、そのアプリは結局消さずに、携帯の中で眠っている。
「ソレハ、アナタガ、タイセツナヒトヲマモレルサイコウナアプリサ! ゼヒツカッテクレ! アプリヲキドウシテ、シャシンヲウツシテネ?」
その言葉を最後に電話は切れた。
このアプリは何なのだろうか。まぁ、分かることがあるとすれば、このアプリで確実に個人情報は抜き取られていることだ。何故なら、電話番号にアプリに開発者から、着信があったから。
「誰からなの?」
「あー、まぁ、千冬には話していいかな?」
千冬に【TAKIINROOM】について話した。
「ネットで、そんな質問してもいい答え帰ってこないでしょ?」
「間違いないです……。でもさ、あの時は俺も千冬から返信なくて、本当に落ち込んでたんだよ?」
「あ、ごめんね、でも、連絡してくれてたんだ……?」
「当たり前だろう、俺、本当に心配して……!」
突然のことでびっくりした。
ほっぺたに柔らかい感触。千冬からのキスのプレゼントだった。
「千冬さん!?」
「ありがとう、春樹! これはお礼だよ? なんてね……」
「え、あ、うん! チョー嬉しい!」
身体が熱い。夏の暑さなのだろうか。そんなことはない、千冬の部屋めちゃエオコン効いてるしね。これはそう、もう、間違いなく恋だ。ヤバイ、心臓はじけ飛ぶぞ。
「嬉しんだ? へえー……」
なんだ、千冬その目は。やめろ、そんな目で見られたら、蒸発しちゃうだろ。
「そ、そそ、それより、このアプリどう思う?」
「んー? わかんないけど、写真を写してねって書いてあるし、何か撮ってみれば?」
確かにそうだ。何か写してみるか。
ベッドの横に置いてあった雑誌を写真で撮ってみるか。
「え! 凄いよこのアプリ!」
俺は興奮のあまり叫んだ。雑誌が携帯の中で複製されたのだ。これは写真で写したものをアプリ内に複製できる仕様のようだ。
さっきまで警戒していたが、今ではかなり好奇心が勝っている。
「なになに? へぇー、写したものが、ここにね……」
「色んなもの写してみない?」
「そうだね、良いと思う」
それから、俺と千冬は真夜中で遊んだ。
「いやー、このアプリ楽しいな」
「ほんとだね、私も入れてみようかな?」
「おお? いいじゃん、えーと、あれ?」
「どうしたの?」
「いや、アプリのURLを探しているんだけ消されていて……」
「大丈夫よ、こんなに面白いアプリだもの、結構有名なはずだよ」
「それもそうだね」
この時俺はふと思った。
『千冬を撮ったらどうなるだろうか』と。
物体はこの通り綺麗に複製されている。しかし、人間はどうなってしまうのだろうか。もしかしたら、千冬とアプリでいつでも会えるかもしれない。
これは撮るしかない。
犯罪っぽいなんて言わないでくれ。これは純粋な恋心何のだから。
「千冬、あのさ……」
「ん?」
千冬の振り返りざま、カメラを向ける。
パシャ。
「びっくりした? ってあれ?」
カメラを下がるとそこには千冬の姿はなかった。
「千冬? どこ行ったんだ?」
俺は部屋中至るとこを探したが、見つからない。
消えてしまったのか。いや、そんなことがあるわけがない。
プルプル
携帯が鳴り始めた。
しかし、着信が非通知とは違う。きっと、知っている人だろう。
画面を見ると、千冬からだった。
「あ、千冬? どこいるの?」
「…………あのね、冷静に聞いてほしいの」
「なんだよ?」
「【TAKIINROOM】を開いてみて? そこに私がいるわ」
「え、なに、どういうこと?」
「いいから、携帯見て!」
千冬に言われた通り、画面を覗く。すると、携帯電話耳に当てこちらに手を振る千冬がいた。
「私、閉じ込められちゃったみたいなの」
「え……!」
俺たちの一時の平和は本当に一時で新たな問題が現れた。
俺の大好きな人は、データになってしまったのだ。
お互いに色々勘違いがあったが、思いやる気持ちが大前提にあって、聞いて心が暖かくなった。
謎だった部分の殆どは解けた。
体育館裏で、何故、千冬が逃げ出したのか、千冬が何故女子更衣室で倒れていたのか、そして、俺が犯人とされているのに、千冬のお母さんは何も言ってこないのか。
全てに共通して言えるのは、天上スミレの策略と財力が引き起こした真実を隠すための紛いものだということだ。
亮介の情報を基に予測してこととの大部分は合っていた。ただ、天上スミレがどの位でこのいじめを考え、実行したのかは分からないが、少なくとも、俺はこの結論に至るまで、一週間という時間が要した。それよりもはるかに短い時間で計画を立て実行したとなると、天上スミレという人物は頭もかなり切れる。
きっと、今まで、自分が一番可愛いとでも思って過ごして来たのだろう。そのせいで、自分より遥かに魅力的な千冬を僻んでいることは客観的に見ている俺らでも感じていることだ。
「…………じゃ、あの時あそこにいた男の人たちはやっぱり春樹とは関係ないのね」
「あぁ、その、千冬が襲われるっていうのも、多分、嘘だよ、それの信憑性を高めるため、わざと、複数人の男子生徒を潜めさせていたんだ」
「じゃ、私の勘違いだったのね……、あの人たちにも申し訳ないことしてしまったね」
「いや、それはまぁ、大丈夫だよ……」
あの人たちが千冬のファンクラブであることは黙っておこう。感謝してくれ。名も知らぬ、ファンクラブの皆さんよ。
「まぁ、俺たちの中では解決したけど、さっきも言った通り、世間的には俺が犯人になってるし、この誤解を解くのは正直、困難だと思う」
「何でよ! 春樹は私を守ろうとしてくれたのよ」
「それは、俺たちが知っている事実でしかない。世間はそう、見ないだろうな。この一週間事実を知っているのは俺たち二人と天上スミレとその周りの奴らのみ。となると、学校では既に、改ざんされた噂が広まるに十分すぎる時間だ。それに問題はそれだけではないんだよ」
「え? まだあるの?」
「何を言ってるんだ? いじめの問題が根本的に解決してないだろう?」
「あ、もう、いいの、だって……」
「駄目だ!」
千冬がどう思っているのか、良く分かった。俺は味方でいることを俺以上に感じてくれていた。俺が中学校でいじめられた時、守ってくれたことに感謝してるし、それ以上に大好きなひとだから、味方でいるのは当たり前だよ。
でも、いじめを経験しているからこそ、いじめられている現状の苦しさは痛いほどわかる。どっかの誰かは、信用できる人が一人いればそれでいい、なんて言っていたが、そんなことはない。確かに心から信頼できるひとは少なくていいだろう。でも、それ以外の人が敵に回る状態はその信頼していた人すら疑いの目を向けてしまうほど、本人を追い込んでしまう。
「もうすぐ夏休みが始まるからさ、いっぱい遊ぼう! 実は亮介に頼んで、色々予定立てたんだ、千冬も一緒に遊べるような人と場所を用意してるんだ」
「……でも」
「大丈夫! 俺が守ってやるさ、何があっても俺は千冬の味方だ」
「…………うん、分かった! 楽しみにしてるね!」
千冬の笑顔は本当に可愛い。
今日までの地獄の一週間がなかったことのように。心にエネルギーが沢山溜まっていくような。
「あ、そう思えば春樹は何で、体育館裏に呼んだの?」
「そ、それは……」
プルプルプル。
告白の話をしようと覚悟を決めた瞬間携帯電話が鳴りだした。まるで、タイミングを狙ったように。
携帯を確認する。非通知からだ。出ないでもいいかなって思ったけど、変な間を埋める理由が欲しかったので、取り敢えず出る。
「シャシンヲウツシテネ?」
その声は加工音のような、ドラマとかで犯人が身バレを防ぐために使うあの声だ。
「誰……ですか…………?」
もしかしたら、知っている人かも知れないし、一応、尋ねる。多分、悪戯電話だろうけど。
「ボクハ、【TAKIINROOM】ヲカイハツシタモノダヨ、モウツカッテクレタ?」
すっかり忘れていたあの謎のアプリの存在を。どう使うかもイマイチ分からない、そのアプリは結局消さずに、携帯の中で眠っている。
「ソレハ、アナタガ、タイセツナヒトヲマモレルサイコウナアプリサ! ゼヒツカッテクレ! アプリヲキドウシテ、シャシンヲウツシテネ?」
その言葉を最後に電話は切れた。
このアプリは何なのだろうか。まぁ、分かることがあるとすれば、このアプリで確実に個人情報は抜き取られていることだ。何故なら、電話番号にアプリに開発者から、着信があったから。
「誰からなの?」
「あー、まぁ、千冬には話していいかな?」
千冬に【TAKIINROOM】について話した。
「ネットで、そんな質問してもいい答え帰ってこないでしょ?」
「間違いないです……。でもさ、あの時は俺も千冬から返信なくて、本当に落ち込んでたんだよ?」
「あ、ごめんね、でも、連絡してくれてたんだ……?」
「当たり前だろう、俺、本当に心配して……!」
突然のことでびっくりした。
ほっぺたに柔らかい感触。千冬からのキスのプレゼントだった。
「千冬さん!?」
「ありがとう、春樹! これはお礼だよ? なんてね……」
「え、あ、うん! チョー嬉しい!」
身体が熱い。夏の暑さなのだろうか。そんなことはない、千冬の部屋めちゃエオコン効いてるしね。これはそう、もう、間違いなく恋だ。ヤバイ、心臓はじけ飛ぶぞ。
「嬉しんだ? へえー……」
なんだ、千冬その目は。やめろ、そんな目で見られたら、蒸発しちゃうだろ。
「そ、そそ、それより、このアプリどう思う?」
「んー? わかんないけど、写真を写してねって書いてあるし、何か撮ってみれば?」
確かにそうだ。何か写してみるか。
ベッドの横に置いてあった雑誌を写真で撮ってみるか。
「え! 凄いよこのアプリ!」
俺は興奮のあまり叫んだ。雑誌が携帯の中で複製されたのだ。これは写真で写したものをアプリ内に複製できる仕様のようだ。
さっきまで警戒していたが、今ではかなり好奇心が勝っている。
「なになに? へぇー、写したものが、ここにね……」
「色んなもの写してみない?」
「そうだね、良いと思う」
それから、俺と千冬は真夜中で遊んだ。
「いやー、このアプリ楽しいな」
「ほんとだね、私も入れてみようかな?」
「おお? いいじゃん、えーと、あれ?」
「どうしたの?」
「いや、アプリのURLを探しているんだけ消されていて……」
「大丈夫よ、こんなに面白いアプリだもの、結構有名なはずだよ」
「それもそうだね」
この時俺はふと思った。
『千冬を撮ったらどうなるだろうか』と。
物体はこの通り綺麗に複製されている。しかし、人間はどうなってしまうのだろうか。もしかしたら、千冬とアプリでいつでも会えるかもしれない。
これは撮るしかない。
犯罪っぽいなんて言わないでくれ。これは純粋な恋心何のだから。
「千冬、あのさ……」
「ん?」
千冬の振り返りざま、カメラを向ける。
パシャ。
「びっくりした? ってあれ?」
カメラを下がるとそこには千冬の姿はなかった。
「千冬? どこ行ったんだ?」
俺は部屋中至るとこを探したが、見つからない。
消えてしまったのか。いや、そんなことがあるわけがない。
プルプル
携帯が鳴り始めた。
しかし、着信が非通知とは違う。きっと、知っている人だろう。
画面を見ると、千冬からだった。
「あ、千冬? どこいるの?」
「…………あのね、冷静に聞いてほしいの」
「なんだよ?」
「【TAKIINROOM】を開いてみて? そこに私がいるわ」
「え、なに、どういうこと?」
「いいから、携帯見て!」
千冬に言われた通り、画面を覗く。すると、携帯電話耳に当てこちらに手を振る千冬がいた。
「私、閉じ込められちゃったみたいなの」
「え……!」
俺たちの一時の平和は本当に一時で新たな問題が現れた。
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