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アル視点2 陛下に婚約者の件で呼ばれました

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俺はせっかくシルフィと上手く行きかけたところで、父に呼ばれてプッツン切れていた。

シルフィとは恋人になれる伝説の3大メッカを制覇したのだ。

必ず恋人になれる図書館の席に一緒に座れたし、恋人の泉で初めて手を繋げてしたコイン投げが女神の掌に乗ったし、茶色い帽子屋のジャンボカフェをシルフィと二人でわけわけしたのだ。3大ジンクスを全て制覇したのだ。もう怖いものなしだった。そして、帰り道で告白しようと思っていたのに、それを邪魔されて俺はとても不機嫌だった。


「お呼びと伺い参りました」
執務室に入ると父親を睨みつけた。

「おお、よく来たな」
父は書いていた書類から顔を上げて眼の前のソファを指さした。やむを得ずそこに座って待つ。
父と宰相は何か話しながら執務を進めていた。

「待たせたな」
そう言って父が前の席に宰相を伴って座った。

「そろそろ隣国の王女に婚約破棄された傷は癒えたかと思っての」
このくそオヤジは俺が触れてほしくないことをズケズケ言ってくる。国民の間では隣国の王女に振られた可愛そうな王子として有名になっていた。

本当にあのあばずれ王女、あいつが自分の護衛騎士と出来てしまったから、俺はとんだ笑いものになっていたのだ。もっとも婚姻前に発覚して良かったのは良かったのだが。

「で、王太子のお前の婚約者をいつまでも空けておくわけにはいかんと思ってな。それに候補に上がっているソーメルス侯爵も煩くて困っておるのだ。そろそろ誰かに決定したいのだが」
父はとんでもないことを言ってきた。あのグイグイ迫ってくるステファニーは嫌だ。
というか、俺にはシルフィしか今のところ見えていないのだ。でも、まだ、シルフィの心を完全に掴んでいるとは言いがたかったし、父に言うわけにもいかない。

「まだ、振られたばかりで、もう少しお時間をいただきたいのですが」
「よく言うわ。何でも平民の女の子に入れあげているそうではないか」
やっぱり父はシルフィにアプローチをしているのを掴んでいて、釘を刺しに来たのだ。

「別に問題ないでしょう」
「おおありだ。平民の女を妃に据えるわけにも行くまい。我が国は側室も認めておらんぞ」
この父親は何を言うのだ。シルフィを側室に置くなんて出来るわけがなかろう。ステファニーなんかを妃にでもしたらいじめ殺されるに違いないのだ。

「ちょっとアル。貴方、平民の女の子と親しくしているって本当?」
そこへ、扉を開けて母が入ってきた。よりによって最悪のタイミングだ。俺は頭を抱えたくなった。

「判っているの? 貴方は王太子なのよ。いくら王女に浮気されて婚約破棄されたからって、ショックのあまり、自暴自棄になるのは良くないわ」
王妃はズカズカと入ってくると宰相をどけてそこに座り込んだ。

「別にやけになっているわけでは」
「平民の女と親しくなっている事自体がそうでしょう。貴方はこの国の王太子なのよ。その相手は未来の王妃なのよ。それがどこの馬の骨とも判らない平民の女の子なんてありえないわ」
母は見下したように言い切ったのだ。

「シルフィは立派な令嬢です。礼儀作法も平民の女にしてはしっかりしていますし」
「何言っているのよ。平民の女がこの王宮のどろどろした世界でやってけるわけ無いでしょう。皆にいじめ殺されるわよ」
「そうだぞ、アルフォンス。母上のように権謀術数に長けていないと到底王宮では生き残れまい」
「あなた、どういうことなのですか。なんか私がとんでもない女のような言い方ではないですか」
ムッとして母が父を睨みつけた。いやいや、その通りなんだよ。と俺は言いたかった。この母は気に入らないものがいると徹底的にいびり倒すのだ。礼儀作法見習いで来た貴族の娘の多くが泣かされて辞めているのだ。そうだ。シルフィのような大人しそうな女では難しいかもしれない。と思わず思ってしまうほどに母を敵に回すと怖いのだ。

「いや、物は言いようでだな、お前ほどしっかりしていないと難しいと言いたかったのだ」
父は必死に言い訳していた。そう、この父も母にだけは頭が上がらないのだ。

「ふうん、なら良いけれど。いつまでも、貴方もふらふらしていないでさっさと決めなさい。でも、ソーメルスのところは嫌よ。あの嫁のトゥーナだけは許せないのよね。あいつと義理の親戚になるのなんて絶対に嫌。それとマデロンの所もやーよ」
母は次々と候補者を落としているんだけど、おいおい俺はどうすれば良いんだよ。

父と宰相は頭を抱えているし。

俺は母とは言えこんな気の強い女が俺の配偶者になるのは嫌だった。やっぱり俺をたててくれるシルフィが良いと改めて思ったのだ。

「妃殿下、そのように言われますと、殿下のお相手がいなくなってしまいますが」
遠慮がちに宰相が声をかけた。

「何言っているのよ。変なのを王太子妃にするなんて許されないわ。私は元々隣国の姫は嫌だと言っていたのよ。あの父親がプレイボーイだったし。それをあなた方があいつは信頼できるなんて言った結果がこれよ」
「・・・・」
王妃の言葉に二人は言い返す事も出来なかった。

「私の気に入らない子を入れるからこんなことになるのよ」
うーん、しかし、こんな母に気に入られる子なんてめったにいないはずだった。

「そう言えばティナの家の娘があんたと同じ年だったと思うけど」
「恐れながら妃殿下、ティナの娘は平民ですが」
母の言葉に宰相が口を挟む。
「平民でもいいわよ。私とテレシアが全面的にバックアップするわ」
なんか母が凄いこと言っているんだけど、どんなに凄い女なんだよ。母と公爵夫人の全面バックアップなんてもらったらそらあ怖いものなしだけど。俺は絶対にそいつの尻に敷かれるのは確定だ。それだけは嫌だった。そもそも、ティナって誰なんだ?母よりも凄いんだろうか?

俺はそれがシルフイの母だなんて知らなかったのだ。
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